第6話 地震の絶えない街

 リーヴェ達は「鉱石の街 ピエス」にやってきた。

 カナフシルトは往来するには大きいので、町の外で待機させてから町に入る。

 その名の通り、町の東から南にかけて様々な種類の鉱石が採掘できる山々がそびえ、近くには川も流れている。幅がそれなりに広く流れも穏やかな川は流通にも用いられ、ある程度の水産物も入手できた。

 ここに住む人々の大半は鉱夫や職人たちで、一般的な町とはにぎわい方が違っている。

 建物の造りはモノトーンなレンガで統一されており、坑道付近には作業小屋の他に職人達の工房が密集していた。


リーヴェ「思っていたより人が多いんだな」

リジェネ「そうですね。想像以上に活気があります」

ラソン「そりゃそうだぜ。この町は日用道具の原産地だし、珍しい鉱石類を買いに足を運ぶ商人だっているんだからよ」


 ラソンに案内してもらいながら町内を歩いていると、突如奇妙な揺れの地震が発生する。

 かなり激しい揺れにラソンはなんとか耐えていたが、リジェネは体勢を崩して尻もちをつき、リーヴェも手近にあった捕まれそうな物に身を預けた。町の人々も各々で身を守っている。


 揺れが収まり、一行はそれぞれの無事を確認する。一体なんだったのか。

 周囲を見れば驚く人々半数と、それとは別に「またか……」といった感じの反応をする人々がいた。おそらくは町に住んでいる人々だろう。

 リーヴェがラソンの意見を聞こうと振り向くと、ラソンも気になったのか住人に話を聞いていた。


ラソン「やっぱり、報告にあった内容は本当だったのか……」

リーヴェ「ラソン?」

リジェネ「あの、これはいったい」

ラソン「いやな……近頃、ここら辺にだけ奇妙な地震が頻発してるんだよ」


 どうやら地震はこの町付近だけの現象らしかった。むろん、原因もまだわかっていない。

 とにかく、ここ2・3か月の間に20件を超える頻度で地震が起きているという。多い日には1日に3度以上の揺れが起きるという異常っぷりだ。

 リーヴェは思案した後、二人と向き合う。


リーヴェ「なにか原因があるはずだ。私達で少し調べてみないか?」

ラソン「そうしてくれると、オレとしては助かるけど」

リジェネ「僕も賛成です。このままでは町の人たちが心配ですし」

リーヴェ「よし。なら手分けをするぞ。1時間後くらいにここへ集合しよう」

リジェネ「はい」

ラソン「おう」


 3人はそれぞれに行動を開始した。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  マナについて】

 この世界にはマナと呼ばれるエネルギーが存在している。

 霊的なエネルギーに近いが、粒子状の光として一般的に黙視することができ、炎や水などの属性を各々に持っている。スキルや妖精、精霊人などの原動力として必要不可欠であり、大地が生物育む助けともなっている。主な生産地は精霊界で、地上界の機械類などの動力ともなっている。

 地上界へは地下水脈などを通ってもたらされ、惑星中をくまなく循環している大切なものだ。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード05  カナフシルトとクライス】

 リーヴェ達が町で情報収集をしている頃。

 町の外れにある野原に自生していた大木の木陰で、のんびりと昼寝をしていたカナフシルト。そこにクライスが飛んできて、カナフシルトが長い首をあげた。クライスが龍の大きな背中にちょこんと止まる。


カナフ「ピィ、ピルルゥ」

クライス『キー、キキキッ』


 どうやら情報交換をしているようだ。しばらく鳥の囀りのような会話が続く。

 そこに、複数の軽快な足音が走ってくる。同時に高く弾んだ人の声も。


少年A「わぁ、見ろよ。ドラゴンだぜ」

少女A「ホントだ。大きい」

少年B「なっ、オイラの言った通りだったろ」


 足音の正体は地元の子供達だった。

 どこからか噂を聞きつけてやって来た子供達は、初めて見る龍に瞳を輝かせて興奮している。

 カナフシルトは横で騒ぐ子供達などお構いなしといった体で、ゆったりとくつろいだままだ。むしろ、子供達が気になるのはクライスのほうだった。しきりに首や翼を動かしている。

 子供の1人がそっとカナフシルトに近づく。そしてゆっくりと手を伸ばし―。


少年A「よし。ほら、さわれたぞっ」

少女A「すご~い。わたしも……あっ」

少年A「え?」


 少女の様子に、顔を横に向けると……すぐそばに龍の顔があった。カナフシルトは少し眠たそうに少年をまじまじと見て、フーッと鼻息を漏らす。

 少年の全身が、吹き付けられた鼻息でブワッと巻き上がった。驚きのあまり、ピンと硬直してしまっている。一拍遅れて、腰を抜かして尻もちをついた。

 そのすぐ後に、周囲から盛大な笑い声が響き渡る。


少年B「なーんだ、コイツ意外と大人しいぞ」

少女A「え~い。わたしもさわっちゃえ!」

少年B「あ、ずるい。オイラも」


 龍に近づいていく二人を見て、尻もちをついていた少年もようやく我に返る。

 カナフシルトは再び昼寝の体勢に入ろうとしている。


少年A「わぁ、待って。ボクが先に乗るっ」

クライス『キィッ』

少年B「わっ」

少女A「きゃっ」


 競争するように龍の身体を登り始めた子供達を待っていたのは、背中にとまっていたクライスの一声だった。そこまで鋭い声音ではなかったが、驚いた3人は背中からずり落ちそうになる。

 クライスが自分の陣地に入ってきた乱入者にちょっと不機嫌になっているのを、昼寝に戻ろうとしていたカナフシルトがなだめた。一応、カナフシルトのほうがお兄さんである。だからか、歳下の弟によしよしするかのように顎でそっと頭や背中を撫でたりしていた。

 しばらくして、観念したのかクライスが子供達に場所を譲り、龍の頭に移動する。


子供達「やった」


 子供達は安心して龍の背中を堪能した。

 本来なら、姿勢の悪い乗客は容赦なく振るい落すカナフシルトだが、今回ばかりは多めにみるようだ。子供達がカナフシルトの身体を登ったり滑ったりして元気よく遊びまわる。

 そこへ、町のほうからハット帽とロングケープを纏った一人の青年が歩いてきた。


青年「ほう、珍しい奴と遊んでるな」

少年A「なんだ、兄ちゃんも混ぜて欲しいのか?」

青年「いや、いい。それより道を尋ねたいんだが、いいか?」


 子供達が「いいよ」と返事をしながら青年の周りに集まった。青年は少し身をかがめて、子供達に質問をする。


青年「この辺りに坑道の入り口があると聞いたんだが、君たちは知ってるか」

少女A「それなら知ってる。あっちよ」

少年B「そうそう、あっちへ少し行ったところにちょっと目立たない感じであるぜ」


 そういって町から北西の方角を指さす子供達。

 青年が示された方向を確認しようとした時、少年の1人が青年の後ろに回り込み声をあげた。


少年A「なんだろうコレ」

青年「触るなっ!!」

少年A「っ……」


 少年が青年の背負っていた細長いリュックに触れようとし、気づいた青年が声を荒げてリュックを遠ざける。しかしすぐに、子供達の様子に気づきバツが悪そうに言葉をつづけた。


青年「この中には壊れやすい、大事な物が入ってるんだ。だから触らないでくれ」

少年A「ごめんなさい……」

青年「いや、オレも大声をあげて悪かった。道案内、ありがとな」


 青年は少年の頭をポンポンと撫で、他の二人にも会釈をして歩き去っていった。

 子供達は遠ざかっていく青年の後ろ姿を見送る。


少年B「変わった兄ちゃんだったな」

少年A「うん。でもきっと、悪い人じゃないよ……怖かったけど」

少女A「でもあの人、すっごいイケメンな気がする」

二人「えっ」


 子供達が言うのもそのはず。青年の格好は、顔が見えないほどに肌の露出が極端に少なかったのだから。それに、ここらでは見慣れない服装でもあった。

 それから数分と経たず、子供達は龍遊びを再開するのだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


 ――約1時間後。一行は合流後、情報共有をした後に町の東側にある坑道前まで来ていた。

 町の人々や鉱夫達の話では、この辺りの坑道付近が最も激しい地震が起きているらしいというのだ。しかも一部からは奥に魔物まで出没しているという情報もある。今までそんなことは一度もなかったと記録にも残っているのだから、ますます妖しいことこのうえない。


リジェネ「あんな大きな地震を魔物が起こしてたりするのでしょうか」

リーヴェ「わからない。だが、坑道の奥になにかある可能性はある」

ラソン「だな。ここらが一番酷いっていうなら、震源が近くにあるって考えるのが自然だ」


 それぞれに疑問や意見を交わしながら、リーヴェらは坑道の中に踏み入っていく。



 坑道の内部は、度重なる揺れで所々が脆くなっていたり崩れたりしていた。おまけに照明のほとんどが破損していてかなり薄暗い。用意してきたランプに灯りをつける。音が反響していて、けっこう薄気味が悪かった。

 細長い道を慎重に進んでいく。少し広い場所にはスコップや一輪車が置かれたままになっている。中には―。


ラソン「おいおい、コレ中身火薬じゃねーか。あっぶねぇな」

リジェネ「本当だ。それも、1つや2つではないですね」


 いくらなんでも、地震でどこがどうなるかわからない場所に置き去りしていい物ではない気がする。何かの拍子に引火したらどうするつもりなのだろうか。ここの管理体制を疑いたくなる。

 かといって、リーヴェ達が勝手に動かせるものでもないし重量も随分とありそうだ。安全に運べる保証もないのでここは放置するしかない。


 しばらく道なりに進んでいくと、割と広い行き止まり部屋に到達した。

 まだ先に掘り進めていないようで道らしいものは見当たらない。

 別の道を探すために引き返そうとした時だった。


???『…………キュッ……キュキュ』


 ごく微かに高い動物の鳴き声に近い音が反響しながら聞こえてくる。続いて鈍くて低い、地鳴りのようなおとも。まるで何かが崩れる音に似ているような。


リーヴェ「なんだ」

リジェネ「この音……まさかっ」

ラソン「リーヴェ。危ねぇ!!」

リーヴェ「…………」


 揺れもないのに突然リーヴェの足元の地面にヒビが入り、勢いよく崩れ始めた。逃げる間もなく、リーヴェは地面に空いた大穴に落下していく。

 少し離れた所にいたリジェネは、ラソンに引き留められながら大穴に向かって手を伸ばした。


リジェネ「姉さーんっ!!」

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