第5話 パーティ戦
翌日の午前、プリムーラ丘陵にて。本日3度目の戦闘中。
リーヴェ「そっちに行ったぞ」
ラソン「おう。
リーヴェによって追い込まれた茶ネコの魔物「ガレーシャ」3匹に、ラソンの剣から放たれた風の刃が迫る。ほぼ直線上に並んでいた3匹は綺麗に両断された。
狙いすましたようにラソンの背後に飛び出した1匹をリーヴェが切り伏せる。魔物が絶命しているのを確認してから、すぐにリジェネのフォローに回るため移動する二人。
リジェネは少し離れた所で20頭ほどのガレーウルフの群れを相手に善戦していた。カナフシルトのほうは、リジェネが魔物の集中攻撃を受けないように群れの分断や撹乱を行っている。
リーヴェ「リジェネっ」
リジェネ「っ、来た」
二人の姿を確認したリジェネは数歩後退し、ラソンとポジションを入れ替えた。ラソンは前に出ると同時に「ヴァンガード」を使用して物理ダメージを軽減する風のシールドを形成。攻撃に備える。
ラソンが向かってくるウルフの群れを引き付けている隙に、二人は群れを挟撃できる位置に回り込む。
リジェネが移動しながら、ウエストポーチから綺麗な蒼い石笛を取り出して吹く。笛からは音らしいものは一切聞こえなかったが、数秒と経たずにカナフシルトが急降下してくる。
すかさず笛をもった手で素早く合図を送ると、龍が群れの後衛10頭ほどの間を片翼を地面すれすれに滑らせて進路妨害した。
突然群れの横っ腹を両断され、目の前に大きな壁が割り込んできた後方部隊は情けな悲鳴を上げる。2,3頭は翼に当たり致命傷を負うが、残りの数頭はかろうじて一撃をかわした。だが、乱入によって乱された足並みはそう簡単には戻らない。
リジェネ「姉さんは右側をお願い」
リーヴェ「了解」
左右から群れを挟み込む形で二人が飛び出す。
リーヴェ「セイクリッド・バスター」
リジェネ「懐刃槍」
リーヴェが側面に走り込み、拳銃でウルフの急所を的確に打ち抜く。銃内部に内蔵されたマナの結晶石にマナを充填して発射する仕組みなので弾はいらない。
補足しておくと「セイクリッド・バスター」はリーヴェが初期から覚えていた技だが、拳銃を所持していなかったため使うことが出来なかったものだ。最も地上界の銃は性能があまり良くない。
魔物「ガルルゥゥ!」
リジェネ「させない」
リーヴェ「はあっ」
リーヴェのほうへ向かおうとした一頭をリジェネが追撃し、彼の刺客から突進してきたもう1頭をリーヴェが走り込んで叩く。
背中合わせの奮闘が続く。
ラソン「ちっ……あっちは、まだかかるか」
カナフ「ピィィー」
クライス『キキッ』
ウルフらの猛攻に苦戦していたラソンを上空から鷲と龍が援護する。カナフシルトの声は鳥に近く、賢い2匹は攻撃と支援を器用に切り替えながら戦っている。
ヴァンガードを再度かけ直していたが、ダメージは受けている。そろそろHPが半分を下回りそうだ。だが、主人よりもこちらの援護に来てくれた龍と相棒の妖精の戦いぶりに胸の奥が熱くなる。
ラソン「こりゃ、オレも負けてられないぜ」
ラソンが食い掛ってきた3頭のウルフを「
間髪入れずに襲い掛かるウルフらを見事なカウンターで返り討ちにしていく。
そして、残るは一際大きな個体のウルフが1頭のみ。
リーヴェ「こっちは片付いたぞ」
リジェネ「おまたせ」
ラソン「よし、後はコイツだけだな」
ちょうど大ウルフの背後に二人が到着する。
しかし、囲まれているというのに大ウルフは全く動揺していない。場が沈黙に包まれた。
大ウルフ「ガウッ!!」
沈黙を破ったのは大ウルフだった。一番ひ弱そうに見えたらしいリーヴェに向かって突っ込んでいく。
リーヴェが焦らず構えて詠唱に入り、リジェネとラソンがほぼ同時に地を蹴った。
ウルフのアギトがリーヴェのすぐそばに迫ったその時―。
リーヴェ「ブリッツ・クーゲル」
ウルフの眼前に強烈な閃光が弾ける。リーヴェは素早く数歩後退。
目をやられて怯んだ大ウルフに、走り込んできた二人の攻撃が同時に突き刺さった。武器を引き抜き、大ウルフの体躯が音を立て崩れ落ちる。
リーヴェはLv7になった。スキル「エルメキア・ランス」を習得。リーヴェはLv8になった。
リジェネはLv7になった。Lv8になった。スキル「破霊斬(はりょうざん)」を習得。カナフシルトがLv9になった。
ラソンはLv8になった。Lv9になった。スキル「ウィンガード」を習得。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 プロフィール編】
名前 ラソン・M・グリフィード
性別 男 身長 155.6cm 体重 46.0kg 年齢 18歳 右利き
職業
リーヴェ達と知り合い、ともに旅をすることになる剣士。風の妖精クライスを連れている。
平均的な攻撃力の為か大剣を装備しているが、他の刀剣全般や盾と幅広く武器を装備できる。ダメージの軽減や無効化ができ、HP、防御力、精神力のステータスは成長も含めてトップクラスだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ「大分様になってきたか?」
ラソン「だな。前回の戦闘は、もうホント死ぬかと思った」
リジェネ「うっ……あの時はごめんなさい」
リジェネが見るからに肩を落とす。どうやら思い出してしまったらしい。が、別に彼だけが悪かったわけではなかった。そう、全体的に足並みがそろわなかったのだ。
ラソン「事前に技とか教えてもらってても、なかなか合わないものだよな」
魔物の数も今の戦闘よりもずっと少なく、上位個体っぽい奴もいなかった。それでも結局一時撤退する羽目になったのだ。本日第1戦目の戦闘もかなり危なっかしかったが、前回のほうが痛恨の痛手といった感じの内容になってしまった。
―数十分前。2戦目の敵は「ヒルディア」という、この丘陵にもとから生息しているシカの魔物だった。
好戦的ではないが足が速く、長い角と後脚の一撃がなかなかに強い。草食獣という油断もあったのだろう。
初手で若干前のめりに突っ込んでしまい、素早いヒルディアの動きに翻弄されている内に陣形が崩れ、しまいには仲間にぶつかったり、同士討ちになりそうになる始末。
攻撃もうまくかみ合わなかったし、回復が間に合わなかったりした。
一番ヒヤッとしたのは、騎乗していたリジェネとラソンが衝突しそうになったことだ。
ラソンにとっては背後からだったし、リジェネも敵に目が行き過ぎていたので、とっさにリーヴェが声をかけて事なきを得たがかなり危ない場面だった。
リーヴェ「本当にあの時は気づけてよかった」
ラソン「ああ、助かったよ」
リジェネ「はい。ラソンさん、本当にすみませんでした」
ラソン「もういいけどよ。龍に乗るのってどんな感じなんだ。難しいのか?」
そういって少し離れた所で翼の手入れをしているカナフを見上げた。ラソンは随分と龍に興味がある様子だ。「主人以外でも乗れたりするのか」とか乗り心地なんかを聞いてくる。空を飛ぶ、ということ自体が想像できないらしい。
リジェネ「できなくはないですが、かなり難しですよ。飛行時はかなり速度が出ますので方向転換させるのも大変だし、カナフの場合は騎乗時の姿勢が悪いと容赦なく振るい落しますので」
ラソン「ま、マジで……まさか飛んでるときでも落としたりするのか」
リジェネ「さすがにカナフもそこまではしないですよ。保証はできませんけど」
とにかくかなり危険は伴うようだと聞き、ラソンはきっぱりと諦めたようだ。その様子を見たリジェネは、「カナフ的に今は無理だが、いずれ機会があったら同乗してみるか」と提案していた。一行が街に着くのには、まだ少しかかりそうである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード04 魔物の習性や傾向】
丘陵を進む途中で、急にラソンが足を止めた。
ラソン「お、コイツは使えそうだな」
リーヴェ「なにか見つけたのか」
リジェネ「どれどれ、て草?」
ラソン「マタタギ草だ。ガレーシャによく効くんだぜ」
もっと早く欲しかったなぁ、とぼやくラソン。
リーヴェとリジェネは、見たことのない草を持って嬉しそうにするラソンを見て首を傾げた。その後も夢中で草集めを始めてしまったラソンに溜まらず声をかける。
ラソン「あぁ、悪い。えっと、コイツを細かくして固めたものを燻すとな、ガレーシャみたいな魔物は煙を吸って動きが鈍るんだよ」
ラソンもたまたま読んだ本で知った情報だという。
ガレーシャは先ほど戦ったネコに似た魔物である。ずる賢くて厄介な敵だったが、どうやら一部の野草に弱いらしい。なんでも臭いや燻した時の煙を嗅ぐと、恍惚としてきて動きが鈍るというものだ。
またマタタギ草は滋養強壮の効果もあるらしく、お茶などに含ませて飲むこともあるという。コレは今後もなにかと使えそうだ。
リーヴェ達はいったん足を止めて、マタタギ草採取を行った。
ついでにラソンはそれほど手間もかからないと、片手間にマタタギ草の線香らしき物を量産しておく。個人的に興味がわいたリーヴェも作り方を教えてもらった。
マタタギ線香を手に入れた。
そして数十分後。
リーヴェ「ラソンが魔物の知識に明るくて助かるよ」
リジェネ「そうですね。こっちじゃ僕達の知識は当てになりませんから」
ラソン「別にオレだってそんなに詳しい訳じゃない。今回はたまたまだ」
魔物の調査をしに来ただけあってそれなりに詳しかった。
先ほどの群れと対峙した時も、「ガラーウルフは一度陣形が崩れると立て直すのに時間がかかる」と教えられていたことが非常に頼りになった。渓谷付近の野原に生息するホワイトミュースは魔物の中では最弱クラスの強さだが、数が多くて狭い場所に追い込まれると面倒だとも教えてくれる。
ヒルディアはある程度の群れで生活している、としか知らなかったようだが。
リーヴェ「今後は私達も、もっと注意深く見て行かないとな」
リジェネ「はい。僕ももっと周りを見れるようにならないと」
リーヴェ「ラソンも気が付いたことがあったら、遠慮なくいってくれ」
ラソン「もちろん、任せとけって。そっちこそよろしくな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
次の日の午後。
ラソン「うーん。やっぱり魔物の分布と規模がおかしなことになってんな」
そうぼやきながら、ラソンが手帳にメモを取りながら歩いていた。ラソンの少し前をリーヴェ、後ろをリジェネが周辺警戒もしつつ歩いている。カナフシルトとクライスは上空だ。
リーヴェはメモの内容を少し見せてもらう。
メモには丘陵で遭遇した魔物の種類やその都度の規模、以前の記録とのレベル差異などを簡単な地図も入れながらかなり細かく書き込んでいた。いつ調べたのか、周辺の街や村への被害情報まで記載してある。
リーヴェ「随分詳しく調べているんだな。村の情報やどうやって調べたんだ?」
地図を見る限り、この辺りの村は農村アンベムしかない。しかしラソンは村には行っていないはずだ。
ラソン「クライスに手伝ってもらってチョチョイッと調べた」
リーヴェ「そんなことが出来るのか」
ラソン「実戦で使うのとは少し違うけど、妖精と
ラソンが言うには、地上人が使う属性技は妖精との連携で成り立っているものがほとんどだ。だからこそ日常的に妖精学を学び、程度の違いはあれど鍛錬もする。
ラソンは見張りの合間などに、瞑想の要領でこの連携を行い調査活動を行った。
どうやったかと言うと、風妖精の特技である音声の交信と、視聴覚情報の共有である。妖精用の特別な封書筒も持たせておいた。集中力が続かないので長距離は難しいが、人の足で半日~数日かかる距離を短時間で往復して調査ができる。持ち場を離れられない状況では非常に助かる技能だ。
リジェネ「お二人とも、話はそのくらいにして。ほら、町が見えてきましたよ」
言われて一行は目の前に目を向けた。
山々に挟まれるような形でその街はあった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典
主に天空界に生息している全長約3~5m(成体)の、飛行に特化した竜騎士に人気の小型ドラゴン種。
オスよりもメスのほうが大柄で、全身を水晶に似た鱗で覆われ皮膜状の腕(翼)をもつ。多産ではないため龍種には珍しく子育てをする習性があり、
寿命は約2000歳~5000歳で地上人と同じ速度で成長し、稀に上位種になる個体もいてだいたい1000歳ほどで成体になる。身体と尾は同じくらいの長さ。カナフシルトは約1500歳で、全長4.2、オスの白色個体だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます