第3話 彼女が急に俺の家に来たいと言ってきた
夜遅くまで澄とメッセージのやり取りをした翌朝。俺はといえば、朝の教室で、昨夜の不可解なメッセージの理由を考えていた。
◆◆◆◆
【
メッセージの送信主は
【えーと。なんでそんな急に?】
最初に俺が感じたのは戸惑い。あくまで、彼女とやり取りしたのはライングループがメインだ。こうやって個別にメッセージを送ってくることは滅多にない。それが、個別にメッセージを送ってくる、というのは、もしかして、渡瀬さんが……?いやいや、さすがにそれは無いだろう。もう何年も直接は会っていないのだ。さすがに勘違いだろう。
【なんとなく気になって。グループでも、狭間君はなんか浮いた話なさげだし】
一見、もっともらしい話。まあ、いいか。
【居ると言えば居るよ】
こうやってメッセージでやり取りするだけの仲だ。それくらい言っても構わないだろうと思って、そんな事を返す。
【へぇ。まあ、狭間君モテたもんねえ。お相手は?
一瞬、何かを見透かされた気がして、ビクっとした。
【なんで、そんな話になるんだ?】
意図がわからなくて、聞き返す。
【んー。同小でくっついた子とかいるからさ。狭間君もそういうクチかなって】
なるほど。びっくりさせないで欲しい。
【そんなんじゃない。ちょっと、出会う機会があったんだ】
同小というところまで言うと、相手を特定される危険があったから、誤魔化す。
【ふーん。年上?年下?】
やけに食い下がってくるな。でも、虚構の相手だ。適当に言ってもいいだろう。
【年上だよ。大学生のお姉さんでな。それ以上はノーコメント】
なんで、こんな話をしてくるのかは不明だけど、あんまり聞かれたい話ではない。
【そっか、そっか。急にごめん。それじゃ、おやすみー】
そうして、渡瀬さんからのメッセージは終わったのだった。
◇◇◇◇
(なんで、あんな事聞いてきたんだか)
少し不思議に思ったけど、考えてみれば渡瀬さんはその手の話が大好きだったか。なら、そういう話を聞いてくることもあるかもしれない。そうして、思考を打ち切った俺の元にメッセージが届いているのに気がつく。
【急ですいません。今夜、真先輩の家に行っていいですか?】
それは、澄からのメッセージだった。今夜?なんでまた急に。元々、週末に泊まりに来るはずだったのに。と、ひょっとして、彼女の家庭絡みで何か相談があるのかもしれないと思い直す。
【ひょっとして、重大な相談か?】
澄は常識を弁えない子じゃない。その彼女がそうまで急ぎで相談したいという事柄だ。それこそ、今すぐにでも助けを求めるような。
【はい。凄く、重大な、話、です】
それを聞いて、心を決めた。
【わかった。今からそっち行くから】
先輩として、そして、彼女を好きな一人の男として。それくらい、相談に乗ってやれなくてどうする。
【え、えーと。今夜で、大丈夫なんですけど……】
【遠慮するな。俺たちは親友だろ?困ったことがあったら、お互い様】
彼女の居る土浦まで、電車で1時間と少し。それと駅からの歩きをあわせて1時間30分程か。こうしちゃいられない。
「悪い、
クラスメートでよくつるむ陽平に言伝をする。
「お、おい。急にどうしたんだよ、真」
「家族関係で急ぎの用事が出来たんだ」
「そ、そうか。じゃあ、言っとくよ」
その言葉を聞いて、さっさと鞄を抱えて学校を出る。うちの高校の最寄駅は市ヶ谷。秋葉原まで10数分といったところか。気ばかり逸る。
【真先輩。今、どこに居ますか?】
気がついたら、そんなメッセージが届いていた。
【今、市ヶ谷。土浦まで1時間30分か40分くらいかかると思う】
【ほんとに、即決即断なんですから】
【他ならぬ澄の頼みだ。相談くらい乗ってやれなくてどうするよ】
【……わかりました。私も、早退して家でお待ちしてます】
澄の家の場所はよく覚えている。しかし、考えてみると。
【その。何も早退する必要なかったな。すまん。先走って】
つい、緊急事態だ!と勢いに任せて高校を出たけど、やりすぎた。もう後の祭りだけど、澄の方も巻き込んでしまった。
【いいですよ。私も、早く相談出来てちょうど良かったです】
それにしても、一体相談というのは何なのだろうか。あの澄が、急に今日、こっちにまで来たいという相談事。
【ところで、相談事ってのは、家族関係か?】
【いえ。そういうのではなくて……私の個人的な問題です】
【そっか】
だとすると、人間関係だろうか。誰かに苛められているとか。女子校の苛めは陰湿だと聞いたこともある。
そのまま、総武線で秋葉原へ。日比谷線で、秋葉原から北千住へ。そして、常磐線で土浦へ。
(そういえば、澄はいっつもこの路線で来てたんだよな)
今更ながら、常磐線の車内でそんなことを思い出す。どっちかというと、澄の方がこっちに遊びに来ることが多かった。この路線でいつも俺のところに通っていたと思うと、少し感慨深い。
時刻はお昼前。そんな中で、制服を来た高校生が居るものだから、奇異の視線で見られている。まあ、そんなこと気にしても仕方ないか。
学校から徒歩含めて合計1時間40分。ようやく、俺は土浦駅近くにある、彼女の家があるマンションにたどり着いたのだった。
「お待ちしてました、先輩」
玄関で俺を迎えた澄はどことなく緊張しているように感じられる。それだけ、重大な相談ということだろうか。
「ああ、こっちも先走ってごめんな」
「いいですよ。それに、こっちの方が誰もいないからいいかもですし」
最後の方は小声でよく聞こえなかった。
「それで、相談ってのは何なんだ?個人的な話って言ってたけど……」
今日、急に、それも面と向かってというのだから、よっぽどの話なんだろう。
「その前に、聞いておきたいんですが。先輩は、今、好きな人がいますよね?」
予想もしていなかった質問に、俺の心臓が跳ねた。
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