母親になれない女

クラットス

母親になりたい女

「はぁはぁ……」


息を荒くしながら、少年は「何か」 から必死に逃げようとしていた。


「なんだよ、意味わかんないよ」


吐き捨てながらもひたすら少年は走り続けていた。

なぜこの少年は、走っているのかそして、「何か」とは、なんなのかそれを知るためにはほんの数分前に起きたこと話すとしよう。


***

「英くん!英くん!」

そう叫んでいるのは、同級生の女の子の鈴であった。

二人は、学校が終わり、家が同じ方向にあるのでいつもの道を帰っていた。


「あっ、あぁ悪い、なんの話をしてたっけ?」

「もう、英くんったら、聞いてなかったのね」

そういうと、鈴は先程から話しを続けた、


「この商店街にでるって噂の幽霊のお話でしょ」


英は、いつも帰りに使っている商店街の道についての噂は知っていた、


「そうだな、家のお父さんもこの辺に住んでいて仲のよかった女の子が一人、突然消えてそこにこの道でその子の来ていたワンピースの服だけがあったっていう話をしていたな」


英はそう返した、


「そうなの、英のお父さんにそんな事が…、やめましょうかこの話」


鈴は嫌な話を聞き、別の話をし始めた。

英はその話を聞き流しながら、この道では見かけない女の人がぽつんとそこに立っているのを見ながら歩いた、


(何してるんだろう……)


そう思いつつ、女の人の前を通り過ぎ、前を振り向くと、鈴の姿が無かった、

「あれ、鈴が居ない、鈴! どこにいった、鈴!」


そう叫ぶも、回り商店街に声が吸い込まれていくような感じ、鈴には全く届いてないのを感じた。

(まさか、幽霊に連れ去られた……)


そう思った瞬間、「おぎゃー」という声が後ろから響いた、


「なっ、なんだ!!」


驚いた、英はそのまま後ろを振りむいたが、そこにいたのは先程の女性だけがそこにいた、


「あれ、赤ちゃんなんていないな」


英は、すぐ後ろから赤ちゃんの声が聞こえたと感じていたが赤ちゃん何ておらず、女性だけがぽつんと立っていた。


英はその女性に、先程の声が気になり、自分の近くに居た女性に話しかけた、


「あっ、あの、さっき赤ちゃんの声が聞こえましたよね?」


そう尋ねるも、女性はこちらを向いてじっと睨み始めた。

英は女性の表情を見ながら、震え上がるような気持ちで更に声を掛けた、


「凄く睨み付けてどうしたんですか、僕、何か貴女の気に障るような事でも言いましたかね? もし、言ったのであれば訂正するのでお教えいただけないでしょうか…」


しかし、女性は変わらずずっと英を睨み付けていた、いや、商品を見定めるように下から上へとなめ回すように見始めていた。

ぞっとするような視線を送られた英は、体が震えながらも女性にその視線は止めてほしいと伝えようとした瞬間、


「ねぇ、ならない?」


突然、その様なことを言われ、英は頭の中で疑問符が出てきたことを感じ、今、発した言葉について考えは始めた、


(『ねぇ、ならない』とは何だ? 何にならないんだ)


そう、考えた英はその女性に、何になるのかを聞こうとした瞬間、


「「「おぎゃー」」」


沢山の赤ちゃんが女性の方から一斉に鳴き始めた、その声に驚き耳を塞ぎ目を閉じてしまった、


(赤ちゃんの声があの女性の方から聞こえてくる!)


赤ちゃんの声が聞こえ、泣き止んだのち、女性の方が居る方向に目をゆっくり開いた、


「な、なんだ、あの子どもは……」


そこにいたのは、女の人の手をぎゅっと握っている子供の影がそこにいた。

女性の側に居る、黒い影の子供を見た英は、薄気味悪さを感じた。

すると、女性が足を一歩、英の方に近づいてきた、


「ねぇ、きみ、わたしのこどもにならない?」


近づいてきた、女性は突然「自分のこどもにならない」と言われた英は、この人はヤバイ人だと感じた。

英は、女性の方を向きながら足を後ろに引きずり答えを返した、


「僕には、お父さんとお母さんが居るので無理です!」


そういうと、女性はうつむきながら静かに何かを言い始めた、


「どうして、なりたくないの?」


英は、そんなの簡単だと言わんばかりに直ぐに返した、


「今のかぞ『ねぇ、どうして』」


英の発言は遮られ、女性は徐々に近づきつつ『どうして、どうして?』とぶつぶつ言いながらうつむいていた顔を上げた、


「ひっ……」


その顔は、血管が浮き出ており、目が充血しながら英に同じことを繰り返しながら近づいてきていた、


「どうしてよ、どうしてよ、どうしてよ、どうしてわたしのこどもになりたくないの?」


そういうと、女性は英に向かって全力で走ってきた。

たまらず英は、反対方向を向き全力で走り始めた。


***


英はひたすら、右往左往と商店街走っていると大きな屋敷があり、明かりがついていたので、家の人に助けてもらおうと思い敷地に入り玄関の戸を叩き始めた、


「すみません! 誰かいませんか!」


叫んでいると、敷地の外から物凄い勢いで走ってくる音が聞こえてしまい、応答待たず家の中に入ってしまった、


「すみません、助けてください!」


そう言いながら中に入ったが、その声は空しく屋敷の中に響いていった。

英は屋敷を見回しとても綺麗に掃除されている印象がある反面、なぜか人が何年もこの家に過ごしてない違和感を感じた。


「外から見たときはこんな印象じゃ無かったんだけどな」


玄関の戸を閉め、中に入ってもう一度誰かいないかと確認したがやはり返ってくるのは無音だった。

奇妙な思いをし頭を悩ましたが、外から凄い勢いの足音がし、そのまま土足で家の中に侵入した。


「なんだよもう、いったいどうして僕がこんな目に会わなきゃいけないんだ」


そう愚痴を溢した英だったが、女性は玄関の戸を開けそのまま家の中に入ってきた。


「なんで、入ってくるんだよ」


そう、小言を言いながら英はそのまま廊下を走り、広い部屋に入り近くにあったクローゼットの中に身を隠した。


(すっーすっー)

そうやって、息を潜めていると、部屋の入り口から女性が入ってきた、そのまま女性は部屋の真ん中にあった机の前に座った、そして、手で何かをとりじっと見ていると、先程とは全く違う顔を見せた。

見終わると、そのまま立ち上がり座っていた椅子の反対側に立ち何かに拝んだあと、部屋をうろつきその後部屋を出ていった。


一連を見た後、部屋から出て気配がなくなったのを確認しクローゼットから出た英は、女性が座っていた机を見たらそこには乱雑に置かれた写真が置かれていたので一枚とって見ると、その写真妊娠している女性とそれに耳をあてる男性の写真だった。

とても、微笑ましい写真に英は自分に立たされている状況にも関わらず少しだけ頬ご緩んでしまった。


二人の夫婦の写真を起き、もう一枚写真をふと手にし覗いてみると、女性と一人の生後まもない赤ちゃんが写っていた、だがその赤ちゃんは女性の子ではないことがわかった、なぜなら女性がまだ懐妊をしてないことがわるからだ。


写真を置くと、最後に一枚だけ手に取ると、その写真はどこはかとなく見覚えがある風景の集合写真だった、

(あれ、この人どこかで見たことが……)

英は、その中の一人の男性にどこかで見覚えがあった、しかし、そのどこかが何故か自分の家のどこかで見覚えがある程度のレベルだったため思い出せずそのまま写真を置いた。


女性が座っていた位置の反対の壁に何かがあった、英はそれに近づき触ってみると手に黒い汚れが着いた、その汚れを拭くもなかなか落ち無かったので気にするのを止めた、その黒いのを凝視していると、何か木で出来ているものが立てられていた、それを手に取ると黒く汚れていたが、唯一「水」と言う文字だけが辛うじてわかった。

(水、H2O? どういう意味で書かれているんだ?)

英は、頭を回して考えたがどういう意味がわからずそのままもとあった場所に戻したその瞬間、

(からんからん)


奇怪な音が聞こえ狼狽えた英だが、その音はある一定のリズムを刻んでいた、その音が何なのかを探るため行こうと英はへやから退出した。


***


(そうだったぁぁぁ)

英は酷く後悔した、何故ならこの家には英を含めて最低でも確実に二人居てその片方が先程の女性しかいないと言うことを忘れていた。

音がする部屋には、女性がそこで赤ちゃん用のオモチャで遊んでいた、とても優しいタッチで音の出るオモチャを回しそして、寂しげな顔をしていた。

(追いかけているときは怒髪天を衝くような勢いで追いかけられたけど、あのような寂しげな顔をするのか)

そう感じた英は、表情に惹かれその部屋に入ろうとしたが、

「痛っ!」


突如、足に激痛が走った、その痛みを感じた英は直ぐに足下を見るとそこにあったのはレゴブロックだった、

「どうして、こんなところにレゴブロックが……? はっ!」


英は痛みを訴えるのに我慢できず声を上げたことに気づいた後直ぐに顔を女性の方に向いた、


「あらぁ、そこにいたのねかわいい坊や、わたしの子どもになる気になった?」


「なる気は無い!」


即答すると、女性は追ってきた時と同じような顔になった、


「どうして、どうして、どうして?」


壊れたラジオのように『どうして』と繰り返し始め、英の方に距離を詰めた、


「く、くるなーーー!」


そう言いながら、英は詰められたにも関わらず凄い勢いで来た廊下を戻り玄関のところにたどり着く瞬間、足が宙に浮いた。


「つ・か・ま・え・た♡」

「ひっ!?」


まるで、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうような囁きを聞いた英は逃げたいという一身で女性の腕のなかで暴れ始めた。


「首が絞まる、息が、かはっ」


英は絞め落とされた。


「わたしの可愛い坊や、一緒にくらしましょうね♡」


耳に残るような、その囁きを英に言っていると、女性は突如体を吹っ飛ばされて英が解放された。


「すぅーー」


同時に、英は息を思いっきり吸い込むと、突如手を握られてそのまま引っ張られ屋敷の外に出ることが出来た。


***


そのまま、手を引かれるまま英は走っていると、「痛い!」と手を離そうとした。

その声に反応したのか「ごめんなさい!」と言い、手を離した。

声の主はどうやら女の子のような声で、英は顔を見あげると、その子の顔はとても整った少女だった。

英は、この空間での初めての人間にであった。


「屋敷では助けてくれてありがとう」


先程、助けてくれた礼を英がいうと女の子は、


「いやいや、お礼を言われるほどは」


そう女の子は照れながら応えた。

すると、英はここで初めて出会った女の子に、

「そうだ、ここは何なの? 気付いたらあの女に追いかけ回されて、人がいる気配はなくて、一体何なの?」


一気に英は喋ると、女の子は口を開いた、

「ごめんなさい、私もわからないの、あの女に私も追いかけ回されていたら、いつの間にかあそこにいて貴方が苦しそうだったから助けただけなのよ」


女の子は申し訳なさそうに英の問いに応えていたら、後ろから迫ってくるような足音が聞こえた、その音で英は振り向いたらあの女性が血眼になりながら走ってきていた。


「私の子どもになってよぉぉぉお」


女は叫びを聞いた英はうんざりしたような声で、

「もういいよ、どうして俺をそんなに」


そう呟いたら、「こっち!」と女の子がまた、手を引き走り始めた。


***


手を引かれるまま走っていると、商店街から外れて、大きな川の前に来た、


「こんなところに川なんてあったっけ?」


そう呟くと、女の子が微笑みながら、

「多分だけど、ここの向こう岸まで行けばもとの場所に戻れると思うよ」


そう聞くと、英は『なぜ?』というような顔をしていると、


「ここは、元々なかった川、この川は、多分元の商店街と繋がってると思うんだ」


そう言うと、英は女の子に対して、

「一緒に行こう!」


しかし、女の子はその言葉に対して首を振った、

「私はここで、あの女を食い止めるよ、だから君が行って」


そう言うと、後ろから先程と同じように物凄い形相をしながらこちらに向かってくる女が来ているのを確認してると、


「早く、行って!」


だが、英はその場で立ち尽くしてしまい、女の子と一緒にと川を見ながら考えていると後ろから思いっきり突き落とされた。


「なにするんだ!」


そう、叫んだら、

「早く行って!」


女の子は、叱責するかのように英に言った。

英はそれを渋々という感じに、そのまま向こう岸に向かうように泳ぎだしながら、後ろを振り向くと、女の子は何か口ずさんでいた、その姿を見ながら前へ前へと泳いでると女がその姿を表して、女の子をそのまま取り込んでしまった。


(っ!!)


英は、その姿を見て、涙を堪えながら向こう岸に泳ぐと、波が高くなり英は溺れてしまった。


***


「英っ!」

英は、その声と共に頬に猛烈な痛みを感じて、声の主の方を見ると、そこにいたのは鈴だった、

「す、ず?」


そう呟くと、鈴が泣きながら英に近づいてきた、

「英が戻ってきたぁ」


涙声で言いながら、英に抱きつきいてきた、

「ちょ、ちょ、鈴? 何がどうしたの?」


英は戸惑いながら、鈴に何があったのか聞き出した。


***


鈴から、話を聞き出したら、英は突然ふらふらし始めて声をかけても反応がなく歩いていた、それが、ある程度歩くと一つの地蔵の所で止まり、そこで思いっきり頬にビンタしたら元に戻った。


「そうだったのか……」


そう言いながら、赤い布を着けた地蔵を見た。

英は、何かを思い出したかのように後ろを振り向いた、


「どうしたの、英?」


その行動を見た鈴は英に問いたが、


「いや、何でもないよ」


そう応えたが、英には振り向いた時に一人のワンピースを着た少女がこちらを見ながら手を振りながらその場からすぐに向こう側に歩きだし消えていったのであった。


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母親になれない女 クラットス @schrott

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