第19話 花に囲まれた結婚式

 結婚式当日、ラファエルから貰った婚約指輪を一旦大切に箱にしまい、聖女らしき人のあの指輪だけになった。結婚式の後に外せるのだ。


 結婚指輪の儀式の時に邪魔だけど仕方ないわね。外したら赤ちゃん流産とかきついもんね。

 でも式が終わったら速攻で外そう!!

 結婚指輪は二人でデザインを決めて宝石商にオーダーしておいた。結婚式が終わった後も付けるシンプルなものだけど、ラファエルから貰った婚約指輪も一緒に付けておこうかなと思う。ラファエルの色がいつも一緒にいるとほっとするものね。ラファエルが仕事に行ってる間とか寂しいし。


 純白のドレスを着て髪もお花を付けてセットしてもらい控え室で身内と挨拶する。ラファエルが作った薬のおかげで皆元気に出席してくれた。


 エレオノーラ様とアルフォンス王子もやってきて祝福してくれた。


「とうとう、アマーリアが結婚か。先を越されたな!おめでとう!」

 とアルフォンス王子は苦笑して


「そう言えばな、シメオンの奴も一応おめでとうと言っていたぞ。もうあいつは君らには関わりたくないそうでな。今は覚醒して別の生き甲斐を見つけたらしくてな」


「シメオン王子が?何の覚醒ですか?」


「それはし…」


「おめでとう!!アマーリア綺麗だよ!!」

 とお父様とラファエルが入ってきた。


「アルフォンス様私達お邪魔ですわ。家族水要らずにして差し上げましょう?」


「そうだね、エレオノーラ!行こう。君との結婚式はド派手にしようね!」

 と言うのでエレオノーラ様は困っている。


「あらラファエル…貴方凄いわね…」

 とお母様が気付いて言う。


「なにがですか?」

 キョトンとしてラファエルは聞いてお父様がフォローする。


「私には見えないが、シルビアや聖女らしき人の血族の方々にはお前の周りには物凄い赤い花々の鋼の糸が会場内あちこちに芸術品みたいに咲いているそうだよ。ひっそりと噂になっている」


「ええ!?何それ?ちょっと私も視たいわー!」

 するとお母様が


「ダメよ!貴方だけは絶対に視てはいけないの!!外すとどうなるか判るわよね?」


「ぐううう…」


「大丈夫だよ。アマーリア!我等男にも視えないのだからね。なぁラファエル…」

 とお父様がラファエルの背中を叩くとラファエルは


「は…はい!とても美しいアマーリアさんしかいません!!」

 と言うから照れる。ラファエルもとても素敵なのに!


「あらあらまぁ!ラファエルまた花が咲いたわ!ごめんね、アマーリア…オリヴァー様。私達視える人だけ楽しんで!!すごっ!おお!!まぁぁ!!素晴らしい!!」

 とパチパチ拍手までしたお母様に私達はジト目になった。いいな。

 この聖女らしき人の指輪外せば視えるだろうけど式が終わるまでは無理か。


「さっさと式終わらせて外したい」

 と言うと


「まぁ、アマーリア!一生に一度の結婚式なのに!そんなことを言ってはだめよ?」


「そうですよアマーリアさん。これからなのですから」

 とラファエルが言うから私もうなづいた。

 お父様達も出て行き二人きりになるとラファエルは手を取り手袋越しにキスする。


「本当に美しいです!この世で1番美しいです。僕は今日とても幸せで嬉しくて浮かれています!花はそのせいなんでしょうね!」

 と言う。くそう、視たいな。


「ラファエルも凄く素敵よ。お、王子様みたい!!」


「光栄です!お姫様!!」

 とラファエルは胸に手を当て軽く会釈した。


「ああ、僕の姫は美しい!!幸せにしますね!一生!!」

 きっと私達今ラファエルの糸で蓑虫グルグル巻きなんだろうなと苦笑しながらも時間になり私達は会場へと足を運ぶ。


 新郎が先に入場し花嫁を待つ。お父様と途中まで歩きラファエルと交代して司教様の元へいった。その際も親戚達は


「まぁ!綺麗ねぇ!アート展に来たみたい!」


「うちの旦那と結婚した時もこんなだったら良かったのに」


「綺麗ねぇ!」

 と口々にラファエルの花を褒めている。

 うわーっ!気になるわぁ!!


 その時、指輪が光輝く。


『とうとう結婚式………ごめんなさい。この世界で私は貴方に似たこの人と幸せになります。ごめんなさいね。戻れなくて。でも私絶対に幸せになるわ…』


 という声が私には聞こえた。

 そして一瞬だけラファエルが違う男の人に観えた。それは直ぐに消えたけど。

 光も直ぐに消えた。やだ、ちょっと何なの?この怪奇現象!皆こんな声聞こえたのかな?後でお母様に聞いてみよう。


 そして儀式に則り、私達は誓いの言葉を神に約束して指輪交換をした。

 ヴェールの向こうのラファエルはこれまでかと言うほど幸せそうだ。

 もう


「おおお!」

 と女性陣から感嘆の声が響く。

 きっと凄い花が咲いたんだろう。いちいち気になった。

 司教様に


「では、誓いのキスをせよ」

 と言われてラファエルは緊張しながらもヴェールを上げて私を見る。

 ゆっくりと近付いて軽くチュッとすると歓声が上がる。


「おめでとう。二人とも!今二人は夫婦となった!盛大な拍手を!!」

 といい、会場内は拍手に包まれた。

 私は感動で胸一杯だ。義弟との結婚なんて最初はあり得ないって思ってた。


 ラファエルは嫉妬の糸で常に私をヒヤヒヤさせたし私と出会った頃はまだ糸は視えなかったけど段々と糸ができて硬度を増して鋼になったのよね。

 今はその鋼に守られている気がする。鋼は決して切れない強い糸だもの。何があってもラファエルは私を守ってくれるだろう。


 私もラファエルを好きになって良かった。こんな素敵な旦那様が隣にいることが嬉しい。

 皆に拍手され退出し幸せの鐘が鳴り私達も笑った。沢山の花びらの中私達は幸せな夫婦として認められた。反対派の貴族との対立なども予想されるけどどんな困難も乗り越えるわ。


 私達は運命の赤い糸で繋がってる。


 **


 宴会も終わり、私は綺麗に清められてから薄い初夜用のベビードールって言う下着を着用される。これが噂に聞く恥ずかしい下着だわ。


 よかった。この日の為に私はちょっとダイエットしてきたしお肌も磨いたわ!完璧ね!!

 髪に香油をつけられて侍女は退室し私はベッドの上で待っていた。ドキドキしてくる。

 聖女らしき人の指輪は外して箱に大切に入れた。元に戻しに行くのちょっと怖いけど。


 ベッドの周りはもはや赤い薔薇の糸でハート型に囲まれていた。これが皆の視ていた花々!確かに素晴らしいわ!!

 そしてラファエルが入ってきた。


「遅くなりましてごめんなさっ…」

 と扉を閉め振り返るラファエル。ガウンを羽織りポカンと口を開けて固まっている。


「ラファエル!?大丈夫ちょっと!!?」

 するとラファエルの糸の形が変わっていく。

 えええ!?

 背中ににょきりと手が何本か生えたような糸。

 ちょ!?何これ??と思っていると私の手首や足首に糸が巻きつき更に私を中心に雲の巣みたいな鋼の糸が誕生する!!


 ラファエルはゆっくりと近付いてもはや獲物を狙う蜘蛛になっていた。

 興奮して赤くなってる!!ひええええ!!


「アマーリアさん…やっとですね…」

 と恍惚な顔で迫られキスされる。


「ラファエル…」


「ふふふ…逃しませんから…」

 と妖艶に笑い、彼は私を優しく押し倒してしまった。



 *

 夜が明け私は寝台でぐったりしている。ラファエルの糸は絡まったまま私はめちゃくちゃ食べられたからラファエルはお腹一杯で幸せに眠っていた。避妊薬を飲むかどうかは事前に話し合っていたけど、結局飲まないと決めてラファエルはしぶしぶ了承した。まぁ、子供が出来るまでは元気だからと慰めた。男の子ならまだ体調は崩さないだろうしね。


 話し合いの時ラファエルは


「絶対最初の子は男の子で少しでもアマーリアさんが辛くない身体になってほしいです!!」

 と心配してくれた。

 ラファエルの為にも最初の子は男の子がいいなぁ。


 そう言えばラファエルはもう旦那様で公爵様となった。お父様達は近くの離れに移り住むこととなる。

 今は新婚休暇でラファエルは1週間ほどべったりだ。その間に子供ができるかな??まぁ判らないけど、ラファエルの子なら私は歓迎だ。もし女の子だとしても…


 考えているとラファエルが目を開けた。


「おはよう…アマーリアさん…」

 ぎゃあ!朝から色っぽいな!!

 そう言えば寝起きのラファエルは初めてだわ。まぁ、当たり前だけど!


「身体は大丈夫?辛い?」


「一晩で子供が出来たとか判らないわよ?そりゃ出来てるか判らないけど、まだ体調はそんなに悪くないわ」

 と言うとラファエルは赤くなり


「い、いや違うよ…たまに天然だなぁ…。そこも好きだけど。普通に…ゴニョゴニョ」

 と耳元で指摘され赤くなった!そっちか!!


「だ、大丈夫です!」

 愛され過ぎた証拠だし、ラファエルの我慢が昨日爆発してたからしょうがないことだよ!!


「ふふふ…もう姉様と呼べなくて寂しいな。ごめんね。これからは僕の奥さんだし」

 と微笑みキスする。


 それからしばらくはラブラブな日々を過ごしてラファエルはまた仕事に戻る。公爵の仕事もちゃんとしている。流石ラファエルは完璧で優秀だ。弟子も良い子が来たようだからラファエルは教えがいがあると言っていた。


 彼の育ての親のサーラさんがしてくれたように彼も今師匠となり弟子に引き継いでいる。

 初夜から3日後に私は地下室に行き、指輪を聖女らしき人の指にはめ直した。


 結局どうしてここにこんなのがあるのか判らなかったけど次に産まれた成長した私の娘にいつかお母様と同じことをすると思うとちょっとだけ娘の驚いた顔が想像できて面白い。

 きっとそれはびっくりするんだろうな。


 …あ、お母様…きっと私の驚いた顔見て面白がっていたわね?歴代の母達が娘の驚いた顔見てほくそ笑む…それもまたある種の伝統…受け継ぐものなのかもしれない…。


 ……とかっこ良くキメてみたけどね、何じゃそら?の心境だ。


 *

 それから一年と少し後に

 私は妊娠した。


 ラファエルは


「どっちだ!?」

 と苦しんでいたり喜んでいたりした。

 でも体調に普通の妊婦以上に異常は見られないことからお母様は


「あ、これ長男だわね。良かったわね。アマーリア!!」

 とあっさり見抜いた。それでも普通に吐き気もするしイライラしもしたからラファエルは過剰に心配もする。優しい。


 長男が産まれたらラファエルと同じような髪と瞳で名前はミカエルと名付けた。

 私は長男がラファエル似なので溺愛した。だって凄く可愛いもの!!ラファエルが思わず息子に嫉妬するくらいには溺愛した。


 それから…数年後今度はミカエルの比じゃないくらいに酷い苦しみが私を襲い、私は女の子を妊娠したのだと直ぐに判った。ラファエルの方が毎日死にそうなくらい心配して出産の時はずっと神に祈りを捧げていたらしい。

 ラファエルが日頃良いものをくれたからお母様程ではないにしろ。お産はミカエルより長時間になりほんと死にそうかと思い、一応遺言さえも伝えたけど何とか無事に産まれてその子はガブリエラと名付けた。私と同じ銀髪にアメジストで能力は引き継いでいるだろう。


 私の身体は少し体調は悪いのが続いたけどラファエルの薬の効果で大分マシになっている。

 母として簡単に死ぬわけにもいかない!

 それにラファエルに3人目が欲しいと伝えたらラファエルは流石に呆れていたけど、大分渋って最終的に了承した。

 よーし!お母さん頑張るからねー!

 と男の子の3人目も産んだ。銀の髪に黒い瞳の男の子だ。名前はウリエルと名付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る