第18話 伝統の婚約指輪

「ふふふふ……」

 ベッドに寝転び戻ってきたラファエルのくれた希少なブラックダイヤのネックレスを見て笑う私。正直戻って来なかったらどうしようかと思ったわ。


 危うく王子に処女奪われる所だったけど…。

 いや、その前にラファエルにか。まぁいづれは奪われるものだけど、結婚前だものね。


 押し倒された時はどうしようかと思ったわ。

 狼の耳と尻尾の鋼の糸が出た時はちょっと可愛いと思ったけど目つきヤバかったし。

 そりゃあ、私だってラファエルなら別に良かったけどもし最中に王子とかお父様が戻ってきたら気まずくて顔合わせられないわ。


 でもキスまでは許したけど。だってラファエルったらあんなにがっつくんだもの!!

 も、もう色気も凄かったし!


「ぐふふふふ…」

 思い出してにやける。

 その後、私の巨大なお腹の音でめっちゃくちゃ恥ずかしくなって渾身の力で突き飛ばしたらラファエルがソファーから落ちて頭打っちゃったのは悪かったな。

 てか、婚約者を突き飛ばす女とかどうなんだろ。


 ラファエルはすぐに食事を持ってくると部屋を出たけど本当は怒ったり呆れたり落ち込んだりしていたらどうしようかと思ったけど、その後別に気にしていなかったし、私を膝に乗せて遅い夕ご飯食べたし。


 ほんと、会場ではどんな料理に何が仕込まれてるか判らない。もちろんうちのシェフがそんなことはしないのは知ってるけど社交界での油断は大敵だ。お父様が前に毒を盛られた時はお母様の憔悴が酷かった。お母様までショックで倒れてそのまま天国に逝ってしまったらと思うと食べ物は警戒したから実はほんとペコペコだったのだ。


 でも鳴らなかったらあのままラファエルと♡


「きゃあ!きゃあー!うふふふふー!」

 と1人で気持ち悪い声が出る。


 今、ラファエルはお仕事で王宮に行っている。

 だから聞かれる心配はない。

 するとそこへ侍女がやってきた。


「お嬢様…奥様がお呼びですよ」

 ヤバイ、聞こえた??


「お母様が?なんだろ…?もしかして体調が悪いとかは?」


「いいえお元気ですよ。今日は体操をされていたそうです」

 元気じゃん!!

 じゃあなんだあ??


 とお母様のところに行くとお母様は優雅にテラスで日光浴していた。


「お母様…アマーリアですわ。何かご用ですの?」


「あらアマーリア。用があるから呼んだの。大切な用なの」

 とお母様は真剣な顔をした。


「え?何?一体何なのです?」


 するとお母様は手招きして書棚に招く。何か本でもくれるのかしら??と思っていたら1冊の本を押したら本棚がゴゴって動いた!!


「えーっ!?」

 動いたところから隠し扉が現れた!


「さぁ行きましょう?ここの場所は代々秘密よ?直系の聖女らしき人の子孫が守ってきたの。オリヴァー様にも秘密なの」


「お父様も?」


「ええ…大事な場所なの。ここは純血の聖女らしき人が現れた場所なのよ」


「えっ!!?マジですか?うちの公爵家どうなってるの!!?」


「まぁこんな場所があるなんて私も亡くなったお母様から結婚前に初めて知らされたわ。驚きよね。ちょっとカビ臭いから口に布巻いて入りましょう」

 と布渡される。


「えー?掃除してないの??」


「お母様の身体が弱かったもの。私も貴方ができる前はちょっとしてたわよ?これからは貴方がしてね?」

 となんか知らないけど掃除係まで任命される。

 扉を開いたら地下へと続く階段だ。ランプを持ち降りていく。


 汚い。埃だらけだし雲の巣はあるし。


「お母様ほんとに掃除したの?」


「え?うん…ちょっとだけね」

 まぁ、管理する人なんか作れそうにないから仕方ないわね。


 下に降りると汚い部屋が現れた。

 絨毯もボロボロ。簡易なベッドにベビーベッドまである。汚いぬいぐるみの女の子。どれも埃っぽくカビ臭い。


「お母様!こんなところにいつまでも入っていたら健康な人でも病気になりますわ!」


「ええ、そうね。手早く済ませましょうか」

 とお母様は古い宝箱のような木箱の埃を払い、洋服のポケットから鍵を取り出した。

 鍵穴に刺して


「んっ!!ちょ!サビ酷っ!!んんっ!!ぎぎー!」

 と格闘している。


「お母様休んでらして。私が開けるわ」

 と私が交代した。めっちゃくちゃ錆びてる!


「グギ!!………ダメだわ。開きません。このまま力任せだと鍵が折れちゃいますわ!せめて油をささないと…」

 と言うとお母様は


「なるほどー、じゃ、戻ろっか」


「え!?マジですか?」


「マジですよ?」

 えー…めんどくさいなぁ。

 そうして私たちは2往復する羽目になる。何気にこの階段角度キツくない?下るのはいいけど昇るのはねぇ。


 そうして油をさしてようやく開いた。

 中には白い長細い箱が入っていた。

 お母様はそれを持ち


「じゃあ開けるけどとりあえず驚かないで叫ばないでね?誰か来たら困るから」


「ええ?なんなの?」


「そうだ、あらかじめ口に布噛んでて?」

 とか言う叫び防止対策までさせられますます中身見るの怖くなる。


 そして


「じゃあ、いくわよ?5…4…321!」

 とカウント途中からめんどくなって早口になるお母様。

 そしてパカリと箱が開いて私は死にそうになるくらいの恐怖が襲った!!


「ふぎいい!!いいいい!???」

 布噛んで必死に耐えた!!

 中には白い手首が入っていた。

 お母様は


「どう?驚いたわよね?私も最初見た時気絶したんだけど貴方よく耐えたわね!凄いわアマーリア!これをまたいずれ貴方の娘に伝えるのよ」

 げええええ!何その気持ち悪い儀式!


「お母様!何なのですか!この手首!めちゃくちゃ怖い!死体からもいだとか?」


「違うわよ。これ聖女らしき人の手首よ。腐らないらしいの。知らないけど。よく見て。薬指に指輪付いてるでしょ?これを外して貴方が嵌めるの」


「ゲッ!!気持ち悪いなっ!!」

 と言うと


「結婚式が終わるまで付けておいてね。指輪のこと事態はラファエルに言ってもいいわ。でも場所は夫となる人にも伝えてはダメ。聖女らしき人の手首についてたとかも秘密ね。適当にそこは誤魔化しといてね」


「えーっ……何なの?それ喋ったら呪われるの?」


「知らないけど…喋ると赤ちゃん流産するらしいの」


「やだっ!!何それ怖い怖い!!」

 と青ざめる。


「結婚式終わって3日以内に外してここにまた嵌めて戻しておいてね。…ということで継承の儀式終わりです。自分の指に嵌めていいわよ」


「え…う…うん…」

 なんか嵌めたくないけど仕方ないなぁ。

 私はその聖女らしき人の手首を持ち上げ指輪を外した。柔らかく生きてるような手でますます気持ち悪かった。

 動いたらホラーだわ。


 そして自分の薬指に付けると…何ということ??


「あっ!!糸が視えない!!!?」

 凄い!視えなくなった!!


「指輪をつけている間は視えなくなるのよ。どういう仕掛けか知らないけど」


「知らないことばかりじゃないですか!」


「そう…いい加減に伝わったんじゃないの?」


「うちの先祖だるいですねぇ…まぁ私もきっちりしてないとこあるけど…」


「ふふふ…遺伝ねぇ…ゲホン」


「そろそろ戻りましょうお母様…。やだここ!」


「…たまに掃除してね?貴方にここの鍵も託しとく。やったわ!私の仕事も終わったわ!」

 とお母様は私に掃除係押し付けた。


 白く輝く丸い石が付いた伝統の指輪…。

 何故か指のサイズがぴったりなことにも恐怖するけど。手首だけ箱に戻してまた鍵を閉めて階段を上がり扉を閉めた。

 地下に手だけあると思うと普通に殺人みたいだけど。


 お母様も結局詳しいことは知らないみたいだ。ただここが始まりの場所としか言わなかった。


 それからしばらくしてラファエルの休みの時彼が戻ってきて指輪を見て仰天した!


「アマーリアさん!何なのですか!?その指輪!まさか!他の男から貰ったとか!?」

 と手を取る。慌てて私は適当に説明した。


「お母様から頂いた伝統の指輪なの。婚約期間中だけ付けてて欲しいんだって。聖女らしき人の付けてたやつみたいなのよね。これつけてる間は糸が視えないから。結婚式終わったら外すわ。そして私が次の娘が結婚する時か、死ぬ前に娘にこれをまた継承するの。継承の儀式は夫にも秘密なの。ごめんね、あまり詳しく話せなくて」

 と言うとラファエルは


「そうですか…。解りました。詮索しませんよ。そうか…なら僕からの婚約指輪は無駄かな」

 と箱を出した。


「えっ!?何?ラファエルが婚約指輪を!??」

 箱の中に綺麗な黒い石の指輪が入っていた。


「無駄になっちゃいましたね」

 と言うから私は


「ラファエルのくれるものが無駄なわけないわ!私これも付ける!!」

 と言い手を差し出した。


「2重になりますよ?」


「いいの!!正直こっちは糸視えなくなるけどラファエルの指輪の方が欲しいの!」

 と言うと嬉しそうにラファエルは指にキスして嵌めてくれた。

 わー!やったー!!

 と喜んで眺める。


「もうドレスも出来上がったし、寝室の改装もそろそろ終わりそうです。招待状も送っておいたし結婚式が楽しみですね」

 チュッと頰にキスされる。


「うん!もちろん…ラファエルと結婚できるの幸せだわ…」


「……………姉様…そんなこと言われるとまた僕我慢できなくなりそうです…。誘惑はやめてください」

 とか言われる。


「別にしてないわよ!ラファエルのバカ!」


「くっ!可愛いっっ!」

 とラファエルは私をハグした。もう少ししたら王宮に帰るものね。結婚してもラファエルは王宮薬師として働いたり公爵家の仕事もするから割と忙しくなるだろう。ラファエルの薬師としての腕は凄いしね。


「そうだ、僕…弟子を取ることにしたんですよ」


「で、弟子??」


「そうです。ほら、うちの親戚の女性の人達身体が弱かったりするでしょう?薬を大量に作りますから人手が欲しくて優秀な弟子を取ることに決めました」


「へえー!いい子がくればいいね!」

 するとラファエルは少しムッとした。


「アマーリアさん…弟子に惚れたら嫌ですよ?」


「惚れないわよ!変な嫉妬しないで!ラファエルだけに決まってるんだからね!!」

 と私はラファエルを叱ると彼は優しく微笑んだ。


「この指輪に誓い必ず幸せにしますし、健康に暮らしましょうね?」

 とキスを交わした。ラファエルはそれから何度かまたキスして名残惜しそうに王宮へと戻る。

 結婚式はもうすぐだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る