第20話 最愛の人と眠り

 三人の子供達ミカエル、ガブリエラ、ウリエルは元気にすくすくと育った。


 アマーリアさんは僕似の長男ミカエルが可愛いとデレデレしていたりした。僕はガブリエラのことが心配だった。女の子と言うことは大人になり結婚して女児を産むとガブリエラも身体が弱くなる。


 だから僕は公爵家お抱えの薬師の弟子を雇った。秘伝の薬は僕にしか作れずこの薬の作り方を受け継いで貰わなきゃいけない。王宮の弟子の中でも1番優秀な若い者を選んだ。

 名前はレイモンド・セルウェイ。


 彼は真面目で物腰も柔らかい素直な少年で目元に泣き黒子がある。髪は濃紺で透き通るような蒼の瞳だ。10歳から王宮に働き伯爵家の三男の出だ。娘のガブリエラと同じ年頃だった。彼は少し耳が悪くて伯爵家からは早々に手放されていた。薬師を目指したのも自分の耳のことを馬鹿にされ、何とか完治する薬を開発したいとの思いでいろいろと試行錯誤の研究をしていたりもする。

 15歳の時、彼を初めて公爵家に招いて挨拶させた。


 するとひそりとアマーリアさんが囁いた。


「ラファエル…あの子とガブリエラ…繋がっちゃったわ。早いわね。二人とも一瞬だから二人とも一目惚れね」

 と。

 僕はレイモンドがガブリエラの婿になるのか…。そして次期公爵となるのだと思った。因みにミカエルはなんと幼い頃から早々にアルフォンス王とエレオノーラ王妃の第一王女のメアリー様に片想いし続けていた。まだ実っていないらしいが。次男のウリエルも第二王女のアラクネ様に少し気が有り、アラクネ様の方は何というかウリエルに僕と同じ鋼の糸となりウリエルに付き纏っているらしい。


 ウリエルは嫌そうな顔をしているが内心はちょっと絆されてきているらしくこちらも公爵家跡取りにはなれそうもない。


 そのことで子供たちを見守りつつ過ごした。

 お義父さまとお義母さまが旅行先の落石事故で亡くなったことが辛かった。二人庇うように抱き合い亡くなっていたそうでその日はとても辛かった。

 レイモンドが来てくれて薬湯を入れてくれた。


 ミカエルも17になる頃ようやく長い気持ちを打ち明けたらしい。メアリー様に婚約話が山程来ていて焦ったらしい。そしてあっさり結ばれたらしい。


 ウリエルの方もついに16になる頃にアラクネ様に襲われて強制的かは知らないが次の日にはもう結ばれたという。若干気の毒だと思ったけどウリエルも観念したのだろう。


 二人の息子と娘も幸せそうだ。

 ガブリエラとレイモンドは出会った時から恋に堕ちていたから詮索はしないが僕はレイモンドに跡継ぎのことを託した。

 それからレイモンドはガブリエラと婚約関係になりアマーリアさんがとうとうガブリエラに赤い糸の話を始めた。その場にレイモンドもひっそり呼びつけた。


 ガブリエラも当然糸が視えており驚いていた。


「お母様!!お母様も視えるなんてっ!!私頭がおかしい子に見られると思って誰にも言わなかったのに!!」

 と昔のアマーリアさんと同じような反応をしていたから二人ともクスクス笑った。


 アマーリアさんは例の聖女らしき人の婚約指輪の儀式をする為ガブリエラを何処かに連れて行き、帰ってきたガブリエラはまた嫌そうな顔をしていた。懐かしのあの白い指輪だ。レイモンドと顔を合わせて不思議がった。これは聖女らしき人の血を引く直系のものにしか教えられないのだと言う。


 アマーリアさんの薬は僕がいつも調合した。少し季節の変わり目が近づくと寝込むくらいだ。それでも心配した。


 ガブリエラにはレイモンドが付いている。彼も弟子を取ることを考え出した。

 しかし最終的には二人が結婚してできた双子の女の子ディーテとキアラが完璧に薬の調合を覚えて二人とも聖女らしき人の力を継いだ。


 そしてとうとう双子達が10歳になる頃にアマーリアさんは倒れた。

 もう若くなく55歳であったが彼女は昔のまま美しい人だと思う。僕は優しく手を取った。

 アマーリアさんは


「ラファエル…私…とっても幸せに生きたわ…。本当感謝しているわ…。子供達も孫も立派に育ち良かったわ」


「そうだね。僕も幸せだったよ。とても」

 後ろで子供達が啜り泣いていたり我慢して震えているのが判る。皆でアマーリアさんに交代に声をかけた。アマーリアさんは皆の挨拶を聞き終えた。


 最期に僕は彼女にキスをして


「アマーリアさん…姉様…僕も直ぐに逝くから先に待っていてくださいね?天国で変な人とお茶しないでくださいよ…」

 と言うと彼女はにこりと微笑み


「やあね…。ラファエルったら…ふふ。ちゃんと…待っているからね…あり…が…と…」

 と握った手が力なくなり彼女は眠るようにして旅立った。


「お母様!!」


「くっ!!」


「おばあちゃん!!」

 と子供達は号泣した。

 僕も憔悴し、レイモンドが薬を作り励ました。それから5年程経つと僕は呆気なく心臓発作の病にかかり、薬を飲み続けたが、ある晴れた日に庭園で倒れてしまい、執事が呼びに言ってるいる間に呆気なく旅立ってしまい、子供達と別れの挨拶は出来なかった。


 身体から魂と言うものだろうか?それが抜け出すとそこに若い頃のアマーリアさんがいた。


『ずっと側にいたのよ』

 僕の姿も若くなっていて手を取った。


『それは嬉しいですね…』

 涙が出て二人で抱き合った。

 愛する人と再び出会えてもう一度恋をしようと誓う。


 僕の亡骸は庭園の花の中で囲まれていたからアマーリアさんが文句を言う。


『ラファエル…貴方死に方も美しくていいわね!!』

 なんだそれは?と思ったら…場面がいきなり変わった。


 子供達が僕の亡骸にすがり泣いている。いつの間にかベッドまで運ばれていたのだ。


「お父様!!」


「何で!?お別れも言えなかったわ!!うわぁああん」

 それは済まないことをしたなぁ。


『心臓発作だから仕方ないわよ。うん』

 と横の奥様は結構あっけらかんとしていた。


 レイモンドも


「うう、師匠…!ラファエル様ー!!」

 とめちゃくちゃ泣いている。彼は結構泣き虫なのだ。前に犬が苦手で泣いてたことがあった。いい歳して。


『ああ…レイモンド…そんなに泣かずともいいよ?もう死んだんだから君は最高の弟子だ』

 と言うとアマーリアさんは


『まぁ死んだから泣くわよ。私が死んだ時も皆泣いてたじゃない。泣くものよ』

 とフランクに楽しそうに言う。


『死んだ人にできるのは見守ることのみ』

 とキッパリ言った。


『じゃあ、そろそろ天国に行く?それとも埋葬まで見る?』

 なんか自分が埋葬されるとこ見るのもなんか嫌だなぁ。最期まで見ていく人が一般的らしい。こっちの世界では。


『いや、いいです。さっさと天国とやらに行きましょうか。そこで幸せに暮らしましょう!』


『そうね…!天国では順番待ちがあるからね。生まれ変わりの!それまで楽しく待ちましょう。子供達も時々見守りつつね』


『生まれ変わり…そういう風になってるのですか。生まれ変わっても出会えますかね?』


『私達は運命の赤い糸で繋がってるからまた会えるわよ!来世も!!』

 そう微笑むと雲間からなんかごごごっと変な箱が降りてきた。


『なんですか!?あれは』

 初めて見る大きな箱みたいなものにびっくりしていると


『天国へ行くエレベーターという乗り物ね。あれでこっちと行き来できるから便利なのよ』


『ええ!?さっきずっと側にいたと言ったのに!』


『死んですぐ私も一度使っただけよ。手続きを済ませてすぐにまた降りてきてこっちに…貴方の側にいたわ』


『なんですか!?手続きとは!?』

 するとアマーリアさんは


『天国にいる人にこっちにいる許可を貰うの。そしたら愛する人とか大切な人が死ぬまでは生者の世界にいられるの。たまに面倒臭くて手続きしない人はそのままこっちでゴーストと呼ばれてるわ…』


『へえ…』


 アマーリアさんは再び手を握り


『それじゃあ、乗りましょうか?思い残す事はないかしら、ラファエル。私は貴方が来てくれたからもう何も無いわ』


『僕もありませんよ!子供達は立派に育ちましたし幸せでした。最期までアマーリアさんが亡くなった後も気遣って優しくしてくれたし。子供達の人生が幸せであるように願います』

 と僕はアマーリアさんにキスして二人エレベーターに乗った。

 扉みたいなのがシュッと閉まったけど、子供達の様子が天井付近の何かの箱?のようなものに映し出された。


『これテレビって言うんですって。これで天国にいても時々子供達の様子とか見れるらしいの。天国に着いたら神様に貰いましょうね。天国到着特典で貰えるんだって!便利よね』


『そう言えば気になっていましたがあのクズ親達もこちらに?』


『いいえ、犯罪者とか悪いことした人は地獄に行くのだからこっちとは正反対の下へ降りるエレベーターがあるらしいの。それに乗らない人はやはりゴーストになって姿も恐ろしく変貌するらしいわ。悪いゴーストね』

 と説明された。なるほど。そういう風になってるのか。


 テレビに映し出される子供達の泣き顔を見ながら僕はアマーリアさんと寄り添いながら天国へと向かった。


『ラファエル…天国には…貴方のお母様やサーラさんもいるわ』

 と言ったので驚いたが、そりゃいるよな!と思った!!


『やった!!サーラにまた会える!!それに顔は知らないけど僕の本当のお母様にも会えるのか!凄いですね!!』

 するとヒュッと僕の姿は縮んで子供になってしまう!!


『ええ!?なんですか!?これえ!?』


『ふふふ、死んだら姿なんて自由だわ!私も変えられるの』

 とヒュッとアマーリアさんも縮み子供の姿になる!子供の頃のアマーリアさんを見たことのなかった僕は感動した!!


『かっ、可愛い!なんて可憐な姿!!』

 と幼い彼女を抱きしめる。

 やはりもう一度恋をしよう。何度でも生まれ変わっても!


『ラファエル…そろそろ天国よ?』

 子供の姿のままついキスしまくってた。


『そ、そうですか…』

 大人の姿に戻りピシッとしたらついにゴウンと到着音がして扉が開く。

 そしてこの世のものとは思えない美しい風景やら建物が建っている。いやこの世のものではなかった。


『なんて綺麗な…』


『ラファエル!ほら!見て!』

 とアマーリアさんが指す方向には二人の人がいた。

 一人はサーラ。亡くなっと時より少し若くなっていた。

 そして隣の黒髪で黒い瞳の優しそうな人が…


『ラファエル…やっと会えたわね!』


『お…お母様?本当の…?』


『ええ!もちろん!貴方と同じ黒い髪に瞳よ。貴方をずっと見てたわ。テレビや時々地上に降りてね』

 と頭を撫でられる。


『ふっ、ラファエルあんたがイチャイチャしてるとここっそり見てたよくくく』

 とサーラが笑った。覗き見は良くない。ちょっと恥ずかしかったけど二人に再開して喜んだ!!


『大きくなって立派な薬師や公爵だったわよ』


『あんたが公爵家の跡取りとかびっくりしたよ!頑張ったね!』

 とサーラもにこやかにして


『明日辺り一緒に飲み明かそう!!準備しなきゃね!人生お疲れ会だよ!』


『えっ!?死んでからも食べ物とかあるんですか?食べれるんですか??』


『酒だけは飲めるし、あんたもさっさと天国住居の許可証取ってきてアマーリアさんと今日はイチャイチャしたらいいよ!じゃあね』


『またね!ラファエル!!』

 と手を振って消えた。


『どうやらこっちもいろいろと楽しそうですね』


『楽しいわ。ラファエル…きょ、今日は姉様って呼んでもいいわよ?久しぶりに…』

 とモジモジし始めた可愛いアマーリアさんを見て僕は久しぶりにドキドキした。


『姉様…姉様…永遠に愛してます!!もう絶対離さない!!』

 と微笑んだ。




 完


 ***************


 番外編あるかも。


 1…アルフォンス王子とエレオノーラ

 2…シメオン王子

 3…始まりの聖女物語

 4…天国生活







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