第7話 婚約破棄演技と最低な罠

 ついに王宮での婚約破棄(演技)が実施されることになった。しかしもはや王宮の者やうちの家辺りにはほとんどもうバレバレの筒抜けで婚約破棄されることはわかり切っていた。


「来賓の為の劇だと思えばいいじゃないか」

 とこのボケ王子はのほほんと言い放つ。


「姉様僕が隣にいますから大丈夫ですよ!」

 とこちらも爽やかに微笑んでいる義弟。エレオノーラ嬢は普通に


「だ、大丈夫でしょうか??あの私…皆様にご迷惑をおかけしたのでは?」

 と言うから3人揃って


「「「とんでもない!!!」」」

 と言い放った。

 むしろ被害者というか騙されてるのはエレオノーラ嬢よ、可哀想に。


 ボケ王子が


「エレオノーラ…俺とアマーリアは単なる幼馴染さ。俺はアマーリアには良き友人であり相談役…恋などとんでもないよ。俺が生涯共にいたいのは君だけさ」

 とキザな台詞を言い放つ。気持ち悪っ。


「そうですよ、エレオノーラ嬢。私腐っても王子に幼い頃ほんの一瞬だけ憧れましたが今はもう本性を知り幻滅していますのよ」


「おい!」

 と王子が言うが本当のことだしね。


「エレオノーラ嬢…姉様は僕が見ておきますのでご心配なく!心置きなくアルフォンス王子とお幸せになって良いのですよ!」

 と義弟の過保護が発動した。

 エレオノーラ嬢は少し力が抜けて決意新たに発表に向け気合を入れ直したようだ。


 *

 そして夜会は始まった。

 国王と王妃にお父様とお母様も挨拶した。

 私と王子は距離を取り、ラファエルとエレオノーラ嬢が脇に控えた。


 国王の挨拶から始まる。


「本日はお集まりいただきありがとう皆。しかし残念なことといい知らせがある。アルフォンスよ。お前の口から言うがいい」

 と国王は下がり王子が前に出て満面の笑みで言う。おい、ちょっとその笑顔で婚約破棄する気?


「この度第一王子であるアルフォンス・ウルリヒ・ハッシャーと公爵令嬢であるアマーリア・カーヤ・フローベルガーは此度を持って王家との婚約を解消する運びとなった!!」

 言いやがったわ!素晴らしい笑顔で!!

 私は仕方なく無言で頭を下げた。

 会場内が一気にざわついた。


「どういうこと?婚約破棄?聞いてないわ?てっきりアマーリア様ととうとう結婚の報告かと思ったのに」

 と声がした。王子は続けた。


「アマーリア嬢と俺は親同士が幼い頃当人の意思を無視して契約されたものだ。貴族社会によくある風習であるが、俺にはどうしてもアマーリアと結婚するわけにはいかなくなったのだ。俺が好いたのは侯爵令嬢のエレオノーラ・メルツェーデス・ブランケ嬢だ。彼女との婚約を今日を持ち執り行うこととなった」

 また会場内はざわつき、


「どういうことだ!?もうお相手が?」

「まさか…殿下はエレオノーラ嬢に誑かされアマーリア様は捨てられたと!?」

「そうであればアマーリア様なんと惨めな…」

 予想していた通りになったので私は俯いて悲しげにしていた。もちろん演技だ。そして私は


「皆様…この度殿下は真実の愛を見つけられました!エレオノーラ嬢もです!私は潔く身を引きますのでどうかお二人の幸せを祈ってください!この国の新しい王妃となられるエレオノーラ様は私よりもよほど殿下にお似合いかと存じます!!」

 と力説しておいた。

 実際エレオノーラ様すっごい綺麗な方だし本当にお似合いである。王子とエレオノーラ様の小指は今ではしっかりと繋がっているしもう心配はないでしょう。


「お二人に祝福の拍手を!!」

 と私は言い、拍手を始めた。ラファエルが合わせ、お父様とお母様に国王様王妃様、そして貴族たちも拍手をした。それから曲が流れ王子とエレオノーラ様のダンスが始まる。私は俯きながら会場を出る演技までした。さぞ、傷ついてまーす!振られてまーす!みたいな感じだから誰も声をかけることなく退場した。ラファエルも付いてきたけどね!!


「あー肩凝るわ。なんかお腹空いたわ。折角王宮に来たし料理食べてくれば良かった」

 と言うとラファエルは可笑しそうにクスリと笑い、


「姉様待ってて、何か食べ物取り分けてくるから一緒に食べよう!」

 と言ってくれたから素直に喜んだ。


「やった!見つからないようにね?あ、ローストビーフとかガッツリ持ってきてよ?高い料理からガバガバと!」

 と言うとラファエルは


「はいはい、じゃあ、そこの小部屋は誰もいないみたいだしそこで待っててよ!すぐ持ってくるね」

 と一応中を確認して私を押し込みラファエルは駆けて行った。


 まぁ…休憩室の一つね。

 ソファーとテーブルがあるのみのお部屋だ。

 婚約も解消できたし万歳だわ。後は引き篭もってしばらくしてどっかに嫁に行くのか……。でもラファエルはそれしたら殺すとか言うしなぁ。私もラファエルはもう認めるけど好きなのよね。しかしなぁ、鋼の赤い糸だしなぁ。


 思案しているとギィと扉の音がした。ラファエルはやっ!と思って振り向くと見知らぬ貴族の男がいた。

 誰だ!!?


「初めまして。アマーリア様…私はヴェルク・クレンペラー伯爵の嫡男でありますセバスチャン・クレンペラーと申します!」

 クレンペラー伯爵家の嫡男ー?


「も、も…もしや貴方…」


「お噂はかねがね…貴方の義弟のラファエルは私と腹違いの兄弟ということになるんでしょうかね?不貞の子ですから父は認めませんが。このことが世間に知れたら公爵家も大変なことになりますかな?」

 と茶色と碧の全くラファエルとは似ていないイヤらしい顔をして私の隣に座った。

 何こいつキモ!失礼過ぎる!


「伯爵様が認められない子?それならば子でもなければ親でも兄弟でもないはずです!ラファエルは私の弟ですわ!」


 しかし肩に手を回された。うげっ!

「義理のね?ですから私と結婚していただきたい!貴方が嫁にくればうちも安泰ですし公爵家の持参金もかなりの額でしょう?」


「私とラファエルを揺すってお金を搾り取る気かしら?ご都合主義ね!」


「大丈夫です!ラファエルにも今頃父が親戚の娘を手配している頃でしょう!お互いに既成事実を作ってしまえばいいのですよ、だって貴方もラファエルも救われるじゃあないですか?」

 と耳元で囁かれた。

 この男…きっと内偵か何かに探らせて私とラファエルの仲を知ってしまい揺すっている!

 私利私欲の利益の為か?


 *


 姉様に美味しい料理を取り分けていると後ろから声をかけられた。

 なんと僕の本当の父である。後ろには年頃のどこかの娘がいて僕に色目を使っていた。

 警戒していると父は


「……まさか公爵家の跡取りにまでなっているとはな!庶民のくせに!これが知れたら貴様の信用も失うだろう!庶民が公爵などと!悪いことは言わん。この娘と今すぐに寝ろ。部屋の鍵を渡そう」

 ととんでもないことを言い出した。


「なんなのですか?貴方は?何処のどなたでしょうか?」


「この娘は私の親戚の子爵家の娘のアンナ・アリーヌ・マルゴ・ドゥグルターニュだ。公爵家の嫁に相応しくなれよう」

 なんて奴だ。隠し子の俺を今になって揺すってきているのか!最低な奴だ!!誰が言うことを聞くものか!!


「母を殺してサーラに生活費一つ寄越さず今度は僕に高ろうというのか?このクズめ!」

 吐き捨てると


「何とでも言うがいい、庶民のお前がやすやすと幸せを掴めると思うなっ!」


「僕はもう庶民じゃない!オリヴァー公爵の息子だ!!」

 父と睨み合う。

 そこに


「きゃーーー!!貴方!!どうなさいましたの?しっかり!!」

 とお義母さまの叫び声と周囲のざわつく声がした。悲鳴もした。お義父さまの身に何かあったのか!?


「貴様!何をしたっ!?」


「ふ、このめでたい席でよもや毒を盛られるとは思っておらなんだか?警備も緩い王宮だな!」


「なんてことを!どけ!」


「ははは!退いてもいいぞ?お前の言う書面上の父らしき公爵を助けに行くか、私の息子に今犯されてるいるだろう義姉を助けに行くか、アンナと寝るかだ。ちなみにアンナは公爵に盛った解毒剤を持っている。毒の種類がすぐに判別できるかな?」

 最低なことを言い退けるこの父を殺したいと殺意が湧いたがそんな場合ではない!姉様の側を一瞬でも離れて後悔した!!それにお義父さまのことも心配だ。毒ならば猶予はない!

 どちらを助ければ!!?どちらも大切だ!!


 しかしその時だった!


「なるほどね、話は聞いた。クレンペラー伯爵…中々悪い企みだね。君のとこ税を誤魔化して結構使い込み借金があるんだろう?」

 いつの間にか金髪蒼眼の端正な王子が後ろに立っていた。

 後から聞いたがこの会場内には王子の影を何人か忍ばせていて不穏な動きをする者を見張っていたのだ。


「伯爵…貴方が公爵の飲み物に何か入れたのを見た者がいますから言い逃れはできません!話をお聞きしましょう!その娘も捉えておけ!」

 僕は伯爵を殴り、胸ぐらを掴んだ!


「お前なんかを父親など!僕の方が認めるものか!!」

 と吐き捨てると姉様の元に走った!!


 廊下を駆けながら姉様が犯されていることが頭に浮かび青くなった!!嫌だ!!僕以外に他の男が!しかもよりによってあのくそ父の息子!つまり腹違いの兄に犯されるとかない!!


「姉様!!!!」

 僕は必死で扉を蹴破った!

 そして…


 白目を向いてパンツをずらした情けない男が床に倒れていた。額からはドクドクと血が出ていた。


「ね…姉様??」

 血のついた花瓶を見て姉様は泣き叫んだ!


「ち、違うわ!殺してない!!せ、正当防衛なの!!」

 僕はとりあえずこの情けない男の脈を測ってみた。


「ちっ、生きてるよ…姉様殺しても良かったのに」


「いやいや、殺人犯になるのは嫌ー!」

 僕は姉様から花瓶を取り上げて念入りに拭いて指紋を消しておいた。


「まぁ、後は王子に隠蔽工作を頼むといいよ、行こう」

 と出る前に一回男の脇腹を蹴ってズボンも下履ごとズルリと取り去り窓からズボンを落としておいた。


 姉様は


「ぎゃっ!きったな!!」

 と顔を隠した。


 王子の影らしき人が現れこの惨状を見た。


「うわっ、変態が寝ている!」


「一体何があったのか大体判ります。こちらで処理しておきますのでご安心ください」


「お父上は今毒の手当てを受けております。急ぎ救護室へと!」

 と言うから姉様は驚いて


「ちょっと待って!?毒?お父様に何があったの?」


「とにかく行こう姉様。行きながら説明するから!」

 影の人達にお礼を言って姉様と僕はその汚らわしい部屋から出た。

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