第8話 誤魔化せない気持ちと

 お父様が運ばれた王宮の救護室に向かいながら私はラファエルから事の成り行きとついでにあの訳わからんけしからん男が私に迫った理由も聞けた。


「全くいい迷惑な!何であんな奴等呼んでるのよ!!」


「仕方ないよ。王宮からの夜会の招待状は国中の貴族に届くんだから。無碍には断れないし、王族と縁を作りたい為に近付く不穏分子がいるってことだよ…あの男のようにね!」

 ラファエルは怒っている。この子は嫉妬に狂うことはあったがこのように敵意剥き出しで怒ることは珍しい。


「姉様が無事で良かった!」

 いつの間にか繋がれていた手がギュッと握られた。


「だって馴れ馴れしかったもの。肩に手を置いたり押し倒そうとしたりだから側にあった花瓶で思わず殴っちゃったら額からドバーと血が出てきて…ひっ!」

 そうつい言ったら一気にラファエルの鋼の赤い糸がまた人型を取り私の肩にガッチリ手を置いた。その手の甲部分からトゲみたいなものがブワッと生えた。


「姉様の肩に手を置いたり…お、押し倒そうと?それはいけないね。姉様は全く悪くないからね…」


「ラファエル…け、決して良からぬことは考えてはダメよ?」

 義弟が嫉妬で殺人を犯したらそれこそ我が家は没落しかねないぞ!?


「………判っているよ姉様。そんな愚かなことはしないさ。ともかくお義父さまのとこに急ごう!」

 と強く手を握るラファエルの手は少し震えていた様に思えた。


 救護室をノックして入るとお母様が泣いていてお父様はぐったりしている。側にはアルフォンス王子や医師にエレオノーラ様に影の人たちや従者さんなどがいた。


「お父様!!」


「お義父さま!!」

 私達は父に駆け寄る。

 医師は


「あの女の持っていた解毒剤を飲ませました…」

 と言っているが大丈夫だろうか?

 ラファエルは側により症状を確認しだした。

 医者ではないけどラファエルも薬師として知識はある。


「倒れてからまだそんなに経っていないしさっき飲ませたばかりならまだ薬が即効性でない限り中和はまだですね…。時間がかかる」


「仰る通りです。段々と楽にはなりますが回復には朝までかかるかと」


「あの娘の持っていた薬の成分を調べたいので薬瓶はお待ちですか?」


「はい、ほとんど飲ませましたが数滴なら…」

 と医師はラファエルに渡した。


「姉様はここにいてくれる?王子!姉様やお義父さま、お義母さまの護衛をお願いします」


「ああ…もちろんだ。お前にも護衛はつける。行ってこい」


「ありがとうございます!」

 とラファエルは薬瓶を抱えて行った。


「お母様大丈夫?顔色が悪いわ!休んで?お母様まで倒れてしまうわ」

 と心配した。


「ええ…でも…お父様急に倒れて…血、血を吐いたの!!私の目の前で!!驚いて!!ううっ!!」

 母はショックを受けていて私は母の背中をさすった。

 王子は父の隣にベッドを置くよう指示してそこに母は横になってしまった。私も付き添った。

 しばらくしてラファエルが戻ってきて毒の成分に解毒剤の作用も調べてきてくれた。そしてついでに母の薬と私のリラックス用のお薬も持ってきた。できる義弟だ。


「ともかくお義母さまも安静になさってください。ショックなものを見てしまって動揺なさっていますが、落ち着いて。朝には父は回復しますからね。今はお眠りください。ラファエルは安眠薬も渡し母に優しく言うと母はようやく一息つき眠りだした。


 母達は警備の人たちに任せて王子たちと別室に移った。


 *


「あの男は?」

 ラファエルが怒りを押し殺しつつも聞くと王子は


「父親は事情聴取の拘束にあの間抜けな息子には一泡吹かせる為男色家のハゲデブ親父のとこに放り込んでやったよ」


「えっ、酷っ!」

 と言うとラファエルはギッと睨み


「姉様!あいつに犯されそうだったのに何を呑気な!」


「は、はいごめんなさい」

 と謝ると手を握られる。こんなとこで!!王子達もいるのに!!


「ともかく今夜はもうあいつらのことは気にせずともいい!全く、人の婚約発表に水を刺した伯爵には息子共々きつい仕置きが必要だ。王家主催の夜会に毒を盛るとはな。愚かすぎる!ラファエル…悪いが奴等の家は没落することになるが構わないかな?」

 と言うとラファエルは


「アルフォンス王子様…元々僕はあんな男親とも思ってません。昔否定して認めなかったのはあちらの方なのに今更、僕が公爵家の跡取りになると知り汚らしい手を使いこんなことになった!本当の母までも手にかけておいて今度はまた僕の大切な人達を!!…少なからずとも原因は僕でありますが、僕も処罰されますか?」

 と言うと王子は


「あほか!被害者はお前もだ。処罰と言うならお前の好きな女と良い仲になり結婚すればいい。なあに、心配するな。公爵が気が付いたらそう言う話も進めよう。実はもう既に俺の父、国王にはお前たちの仲を伝えている。時間の問題だな!あはは」


「なっ!なっ!何勝手に!!私達そんな仲ではないのよ!!?バカ!ボケ王子っ!」


「はい、不敬罪」

 と言いつつエレオノーラ嬢に肩を回して王子は


「この部屋は好きに使え。行こうか、エレオノーラ。疲れたろう?」


「アルフォンス様…私知らなくて。アマーリア様!そうだったのですね?お幸せに!!」

 とこちらも大いに騙されて笑顔で祝福された!!


 待って違うの!そ、そりゃ、好きだけど?今2人きりとか!!いやああ!!

 虚しく扉は閉まり鍵までかけられたわ!!用心のためだろう。あんの野郎!!


 ラファエルはしかし沈んでいた。


 そして私の手を取り涙を流し撫でた。


「ちょっと泣かないでラファエル!貴方のせいじゃ…」


「ううん、完全に僕のせいでしょ?僕がいなければ、僕が生まれなければ姉様やお義父さま、お義母さまにも迷惑はかけなかった。もし姉様があのクソ野郎の息子に犯されていたら?お義父さまが死んでしまったら?お義母さまが倒れられたら!?僕のせいで…」

 ラファエルは悔いていた。だから私は彼の頭を抱えて抱きしめた。


「違うわ。ラファエルがうちに来ないとお母様はとっくに亡くなっていたかもしれないし。救われているわ。お父様もずっと息子を望んでいたけど子供はもう作れないし、お母様は私を産む時だって大変だったの。身体の弱い母が無理をしてでも産んでくれたから私にはこの先兄弟姉妹なんて必要ないと思っていたわ。


 だから貴方が弟としてうちに来てくれたのは嬉しかったわ。うんと優しくしてお姉さんにならなきゃって。まぁもうお互いにいい歳だけどね」


 ラファエルは震えると私の胸に顔を埋めてギュッと抱きしめた。ひいっ!慰めすぎた!!ラファエルの鋼がうごうごして私をまたがんじがらめにしだした!!


「姉様…姉様…僕を許してくれるのですね?僕が生きててもいいと!」


「あ、あはっ、そ、そりゃ当たり前でしょう?貴方公爵家の跡取りなんだから?可愛いお嫁さんを見つけて結婚なさい?うふふー…」

 と冗談交じりに言うと顔を上げてラファエルはまた睨んだ。


「姉様…僕の気持ちを知っているのにからかうのはやめてよ…。僕がどんなに心配したと思ってるの?他にあいつに触れられた?」


「いいえ?肩に触られて悪寒がしたから側の花瓶でつい殴ったから…」

 そう…あの時私は伯爵の息子にまさにやられようとする気配を感じた。何故なら奴の糸は紫色だったからだ!あれは女好きの糸の色。本命はおらず女なら誰でもいいと言う遊び人特有の色だ。あの糸はとても下品で私の下腹部に向けて伸びようとしていたから気持ち悪くなり殴ったのだ。


「くっ!!」

 ラファエルは左肩か右肩かを聞いたから左肩と答えたらそこを何度も埃を払うようにして払って今度は自分の手を置いた。暖かいラファエルの手が私の肩を抱いてる。妙に安心してドキドキするわ。あの男のように不快じゃないし私の赤い糸もラファエルの小指に絡む。


「姉様…もし…お義父さまたちが反対なさったら…姉様と逃げたい」


「いや、ちょっとダメってば!そんなの!お父様悲しむでしょ?ラファエルは悲しませたいの?それに逃げたらお母様の薬は誰が作るのよ?」


「…………」

 これにはラファエルもしゅんとした。


「……姉様の言う通りですね…。僕もお義父さまやお義母さまを悲しませるようなことはしたくありません…例えどんなに愛してても。僕の一方的な愛を押し付けることもできない。姉様がとても大切ですから!」

 と言われて私はかあっと熱くなってドキドキした。何てことを素で言えるのこの義弟は!!


「でも、ならば…誰かのものになると言うならその前に僕が姉様の初めてのお相手になりたい!夢でもいいのです」

 と私の髪を取りキスした。

 真剣な想いなのはわかっている。ど、どうしよ。


「ラファエル……あの…私は…」


「弟にしか見えませんか?アマーリアさん」

 名前で呼んだし!!

 名前でっ!!恋人みたいにっ!!

 なんたる破壊力なの!?クラクラする!!

 絶対今沸騰しそう!!爪先まで熱を感じる!!


 年上だから敬意を持ち、さん付けで呼んだのがラファエルらしい!!


 も、もうダメ!!


「ラファエル!!た、確かに私達姉弟だけど血の繋がりはないけど!で、でも…何故かしら?私…貴方にキスされても嫌とかじゃないの…。そりゃ本来ならいけないことに決まっているわよ!!貴方全然辞めないし!!本当にバカなことよっ!」


 ラファエルは静かに微笑み赤い鋼も何か柔らかくなったような…??そして私の赤い糸とラファエルの糸の先がくっ付いたり離れたりまるで糸同士キスでもしてるみたいで妙に落ち着かない。


「アマーリアさん…好きです。とても愛しています。僕には貴方しかいないのでやはり他のお嫁さんを娶ることはできそうにないです。お義父さまにもし紹介されても僕は生涯独身でしょう」


「そんな…ラファエルそれは寂しいわよ…」


「………仕方ないのです。アマーリアさんは明日になったら僕を嫌って忘れてお嫁に行って幸せになってもいいです。お義父さまにできるだけ良い方を紹介するように僕からも言いましょう…でも今日だけは僕を見てくださいますか?」


「ラファエルっ!!」

 私は涙を流した。ラファエルの一途な気持ちに感動した!!何なのもう!いいじゃない!!義弟でも!こんないい男いるか!馬鹿野郎!!優しいしちょっと執着し過ぎてるけど!!


 私はラファエルに抱きついた。お互い泣いている。


「ううっ、今夜はもう姉様って呼びませんアマーリアさん!!」

 泣きながら私の髪を撫でるラファエルに私はもう誤魔化せなかった。


 めっちゃ好きじゃああああ!!!


「うぐうっっっ!ラファエルううう!!もういいのおおおおお!!ごめんなさいいい!!困らせてごめんなさいいいい!!」


「は?困らせてるのは僕の方だよ?アマーリアさん…」


「違うのおおおお!!もうずっとアマーリアでいいのおおおお!!ラファエルのこと私も好きなのおおおお!判ってたのおおお!ぐううう!」

 と鼻水グッしょでラファエルの服を濡らした。


「…………」

 瞬間私は見た!!!

 彼の鋼の赤い糸が背中で天使の羽のような芸術的作品に変わって行くのを!!

 これアート展に出したら賞取れるよラファエル!!


 と考えているとラファエルは鼻水ごとハンカチで綺麗に拭き取り涙の跡を舐めた!!

 きゃっ!!

 舐められたしっ!!

 と驚いていると嬉しそうにラファエルは笑っていた。


「アマーリアさん僕とても嬉しいよ、こんな気持ちは…こんなに愛しいと感じたのはアマーリアさんだけ。嬉しいよ…」


「ラファエル…私もよ…」

 と手を握り合いしばらく見つめ合う。

 も、、もうこれ反対されても駆け落ちしちゃってもいいわ。お母様には作った薬を足がつかないよう人に頼んで送って貰えばいいじゃない!!


「嬉しい!」

 と笑うとラファエルはついに我慢できず私にキスした。

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