第6話 待ちきれない想い

 王宮で働くことになり自分の部屋が与えられた。さすが王宮で置かれている家具にも高級感漂う。公爵家も勿論高級なものは多いけどここまで贅を尽くしたのは貴族の頂点に相応しい内装。


 荷物を置くと王子に挨拶したりして薬師の先輩を紹介される。硬い顔つきのおじさんだ。笑うことなさそうだから厳しそう。


「薬師のシルヴァン・ジョルジュ・ロローだ。お前の先輩上司だからな。しっかり指導を頼むよロロー」


「はい!王子!……行くぞ新人!ついて来い!」

 とロローさんに付いていき、薬草を育てている温室に入った。

 ありとあらゆる世界中の薬草達が揃っていて感嘆した。

 僕の知らない薬草もまだ多くあり、詳しく説明を聞き、熱心にメモしていくと僕を見てロローさんはやっとしかめっ面を解いた。


「やる気のある奴で良かったよ。よろしくな」

 と握手された。危険な薬草も多くあり取り扱いに注意しろと言われる。前の人は王子を狙った間者だったから僕の生まれから生い立ちも全て最初に調べられたが全部包み隠さず言うと


「ふん、俺がお前なら間違いなく父親を殺していたな。お前の育ての親の魔女は賢明な判断だった」

 と言う。


 一通りの仕事内容やスケジュールを教えてもらい、母の薬や必要になる薬の調合は全て申請してから検閲に出されようやく手元に来る。


 部屋に帰ると外にいたメイドから夕食を受け取る。


「新しく来た薬師さんね?私は配膳係のメイドのジャスミーヌ・モンタラベールよ。よろしくね」

 と顔を少し赤らめて挨拶して手を差し出す。姉様以外の女性とあまり手も触れたくない。


 軽い会釈をして自分の名前だけ告げすぐに扉を閉めた。鍵も忘れずに。

 姉様に会いたい。

 離れてしまって寂しい。

 毎日顔色を眺めて健康チェックしていた。

 毎日心の中で何度も顔を見ながら愛を囁いて願った。


 あの前夜の告白とキスを姉様はどう捉えただろう。無かったことにされちゃ困る。

 僕をもっと見てもらいたいけど僕は王宮にいるのだ。会えるのは一週間後。ほんの僅かな時間。


 姉様を想い眠る。


 それから毎日仕事をして休憩時間に王子がやってきた。


「調子はどう?あ、前髪切ったんだな!?そこそこいい顔じゃん!俺には劣るだろうけど!女の子にモテそうじゃん!俺には叶わないけど」

 何だろ。この王子。ちょっとナルシストなのかもしれない。ウザいな。


「おかげさまで沢山の薬草達と仕事ができて光栄に存じます。王子におかれましては僕など足元にも及びません」

 と丁寧に敬った。腐っても王子だしなこの人。


「で?」


「は?」


「だから…アマーリアとヤッたの?媚薬で」

 と下品なこと聞かれた。


「……いいえ。特に王子が気にすることでもありませんよ…」


「ええー?いいじゃん!?教えてくれよぉ?俺は座学でしかまだそう言うことは教わっていない。エレオノーラ嬢とする時の参考までに」

 とか言うから殴ってやろうかと思ったが我慢した。腐っても王子なのだ。


「すみません、そろそろ仕事に戻ります!では!」

 と適当に言い、王子に礼をしてさっさと逃げておいた。妙に馴れ馴れしくなったな。


 *

 母の薬を持ち一週間後に楽しみに公爵家へ帰る。少しの滞在しかないけどお義父さまにお義母さまも元気そうだ。薬を渡し姉様を探す。メイドに聞くと部屋でまったりされているとのことで早速会いに行く。

 部屋までの道のりをウキウキしながら。

 ノックして部屋に入ると愛しい姉様がいる。


 帰る度に理由と隙を伺いキスをするので最近は姉様も警戒しているけど、やはり隙を見てキスはする。隙を作る姉様が悪い。

 そして僕をぶたないので本気で嫌ではないのかと勘違いしてもいいだろうか?


 *

 ある日王子から


「最近ロマンス小説にハマっていてな…これお前にも貸してやるよ」

 と無理矢理渡された。普通は貴族の女子が嗜む本なのに。エレオノーラ嬢攻略にでもと思ったのか。仕方なく暇な時間に読むことにしたけど純粋にときめく展開をしていたのでなるほど、こういうシュチュエーションだと女の人はときめくのかと壁ドンとやらを参考にして姉様がお茶会に来た時に鬼ごっこみたいなことのついでに木だけどドンとやってみた。


 姉様は少し驚いたが僕を見て赤くなってる!!そのことに内心嬉しくなっていつもより想いを込めて長めにキスして愛を囁き何度も口付けた。姉様と会える時間は少ないのだ。もっと意識してくれないかな…。


 姉様は嫌がらない。

 あまりしつこいと嫌われるしキス以上は我慢していつもみたいにスッと別れまた一週間後に会いに行くと告げた。

 姉様は何故かボーっとして何も言わないけど手だけ振っていた。


 仕事を終えて姉様とのキスを思い出しているとノックされる。こんな夜更けに誰だと思い扉を薄く開いてみるとジャスミーヌがいた。メイド服ではなく、寝着に着替えておりランプを持っていた。


「ちょっといいかしら?」

 とジャスミーヌは中に入ろうとする。


「ここでいいでしょう?何か問題でも??」


「…こんな所で話せないわ?入れてよ」


「なら話さなくていいです。仕事と関係ない話は」

 と閉めようとしたら扉の隙間にガッと足を入れギギギと扉を押してくる。何この女!!


 そして鼻息粗く


「んもう!判ってるでしょう?私貴方に一目惚れしましたのよ!女性の方から殿方のお部屋に来る意味判るでしょう?中に入れて下さいな!」

 絶対入れるか!帰れボケ女!


「いえいえ、すみませんがもう疲れて眠いし僕には想い人がいるので無理です、諦めて下さい」

 扉を開けないように押して言う。


「私これでも伯爵家の次女の出身ですの!!」


「それがどうしましたか?」

 この女狐!貴族出身だから大丈夫とでも思ってるのか?バカめ!


「判りました。…扉を開けるので一旦下がって下さい」

 と言うとジャスミーヌはようやく判ってくれたのねと足と指を離して下がった隙にバンと扉を締め切り鍵を掛けて布団をかぶる。

 ドンドンと音がして


「ちょっと!騙したわね!いくじなし!卑怯者!」

 と罵声が聞こえるが無視した。

 ああ、折角姉様を思い出していたのに邪魔されるなんてあの女毒薬でも飲ませてやろうか?


 それからしばらくしてアルフォンス王子がまた来た。そしてついにエレオノーラ嬢とキスの成功と告白が上手くいったことを延々と自慢してきた。うざいなぁ。他人の恋愛ほど興味ないものはないなこれ。


「と言うことで俺はさっさとアマーリアとの婚約を破棄したいんだ。ていうかする。お前がグズグズして寝取らんからこうなるんだ」

 と訳の判らないお叱りを受けた。


「そこで俺は策を練った。わざと俺の手の物にエレオノーラ嬢を襲わせ俺が格好良く助けてそのまま既成事実を作ることにした!」

 とかボケた。

 しかも最低な作戦を聞かされた。どうしよう、顔はとても端正で綺麗な顔なのにこの人ちょっとヤバイくらいボケてるのかな?


「え…あのそれエレオノーラ嬢は知ってるんですか?」


「知らないに決まってるだろう?カッコ良く助けるしその為に秘密裏に当日の練習をやった。ゴロツキ共もよくやってくれてるよ。もちろん本当にエレオノーラ嬢に手を出したら打ち首拷問島流しいや、殺してから流すことにしてる」

 と言いながら笑う。つまりは茶番である。

 ええー…エレオノーラ嬢になんか凄い迷惑なことを。バレて逆に嫌われたらどうすんだこの人!やはりボケてる!


「姉様はそのことを知っているのですか?」


「ああ、話したよ。やめろボケと言われたよ」

 それ、見たことか。


「でも婚約解消の為にやる決意を伝えたらアマーリアも勝手に…いや、応援してくれたよ」

 と笑うが、きっと姉様は勝手にしろと言ったのだろう。同感だよ。


「まぁ、楽しみにしていてくれ!!」

 と颯爽と去り、程なくしてその計画は実行されたようだ。

 何か演技でエレオノーラ嬢を助けて都合よく酷い嵐の晩だったのであらかじめ用意していた古びた小屋に逃げ込み一夜をイチャイチャ過ごしたらしい。しかもエレオノーラ嬢は助け出されたのを本気で信じていたそうだ。後で姉様に聞いたらエレオノーラ嬢は完全に王子と結ばれて今は王子に夢中らしいと言っていた。


 当然噂になり国王の耳にも入りとうとう姉様とアルフォンス王子の婚約は破棄される運びになった!


 これは僕も姉様も待ちきれない思いだった。

 お義父さまとお義母さまは残念がったが姉様の見事な演技でしばらく社交界から離れて部屋に篭りますとも言っていた。本音は2人になった時姉様は


「ああ、良かったあのボケ王子から解放…じゃなくてエレオノーラ嬢が幸せで!」


「でも騙されてるのに気付かないのは可哀想かな?亡くなられた好きな人がいたと聞いたよ?」


「あらいいのよ。それは!彼女も前を向うと元々は王子に気持ちが行っていたし、もう既成事実もできたしこうして数日後には正式に婚約破棄できるわ。お疲れ様」

 と笑ってた。

 本気で未練無さそうで安堵したよ。


「そっかあ、じゃあ、次は僕とのことも考えてね?姉様」


「えっ!?」

 と振り返る姉様にキスした。

 またポカポカ叩かれるかなと思ったけど姉様が力を抜いたから顔を見ると真っ赤になり瞳は潤んでた。


「ね…姉様…」

 ズルイ。そんな顔をされたら。

 でもグッと我慢をした。

 いつものように


「じゃあね」

 と言い、去ろうとしたら袖を掴まれた。

 驚いて振り返ると姉様は赤くなり


「………私達なんなの?……ラファエル…もし現実に私と結ばれたらどうする気なの?結婚なんて…許されると思うの?」

 と言われた。


「姉様…。少なからずとも考えてくれたんだね!嬉しい!!大好きだよ!」

 思わずついガバリと抱きしめた。

 あっ!もう姉様のいい匂いで酔いそう!

 ついでに銀のサラサラな髪も撫で梳く。


「ちょっと!もしもって言ったでしょ!勘違いしちゃダメよ!ラファエル!私まだ貴方のことは弟でしかないわ!!」

 とポカポカ叩かれた。

 それでも幸せだから額にもキスして僕は浮かれて公爵家から出た。


 来週姉様と王子は正式に婚約破棄する。そして新たに婚約するエレオノーラ嬢とのお披露目パーティーの夜会が開催されることになる。姉様にとっては皆の前で婚約破棄されるからさも可哀想な演技をすることになってる。


 しかしそこにつけこんで害虫共が寄ってこないよう僕はしっかり姉様の隣にいよう!そう決めたんだ。

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