第4話 雨
ある日、どんぐりちゃんに、ぱたぱたとひんやりした粒が音を立てて空から落ちてきました。どんぐりちゃんの緑色の肌に、ひんやり粒はぽつぽつとくっついてきました。そしてそれらはまたくっつき合って、大きな粒になると、つるりっとどんぐりちゃんの肌をすべって、…音もなく地面に向かっていき…落ち葉の上にぱたりと落ちました。
「これはなあに?今日はおひさま出てないね。おひさまが出ない日は、かわりにこれが降ってくるの?」
どんぐりちゃんが聞くと、お母さん木は
「これは、雨よ。わたしも、おまえたちも、これですくすく育つの。とってもいい飲み物なのよ。」
「ぼく飲めないよ。」
どんぐりちゃんがちょっぴりむくれると、お母さん木はふふふと笑って答えました。
「そうね、おまえの今のかたちでは飲めないわ。地面に落ちて、少し眠っていると、ぐっと体が立ちあがる時が来るの。その時には、真っ白な根っこが生えてきて、ぐんぐん背たけが伸びるのよ。それから、息をすると、地面に落ちた雨が飲めるの。それはそれはとてもおいしい飲み物よ。そうしたら、うーんと体をよじって、硬い殻を脱ぎ捨てるの。地面から上を見あげると、大きな木が大勢こっちを見てにこにこ笑っていたわ…お誕生日おめでとう、って。近くを通ったアリも『やあ、おまえ新しい顔だな。目印に覚えておくから、がんばって大きくなれよ。』って、励ましてくれたわ。」
お母さん木は、その日を懐かしむように微笑みをうかべていました。どんぐりちゃんにはまだ知らないことがたくさんこれからおこることと、雨がとても大切なことがわかりました。
そうして話しているうちに雨は止んでおひさまの光がさしてきました。葉っぱや枝の水滴が、きらきらと輝きます。雨を避けて静かにしていた鳥たちも、楽しく喜びの歌をさえずりだしました。そよ風が吹くと、枝がゆれて、まばゆく光りながら落ちていく水滴が、地面と音楽を奏でます。
日の光で温まった地面からはもやが立ち、森の中は水のカーテンがかかったようでした。水のカーテンはゆらめいて、光に当たった所が虹色に輝きます。カーテンの中を行き来するのは、鳥たちです。
どんぐりちゃんがその美しさに見とれているうちに、光は黄色く西に傾き、水のカーテンは次第に消えていきました。
今や森の中は、沈みゆく太陽の光でオレンジ色になり、さらに燃えるように赤く照らされ、そうしてすうと消えていきました。
青かった空が、ゆるやかに群青色に染まっていきます。
「あ、お星さまだ。」
どんぐりちゃんは、見上げた黒みがかった透明な青い空に、ちらちらとまたたく光を見つけて言いました。
深い深い宇宙の果てから、お星さまの低い歌声が聞こえてきます。暗くなるにつれて、お星さまがまたたき始めるたびに、歌声は増えていき、それはやさしく、時に強く、ゆったりとしたハーモニーをたたえて流れるのでした。どんぐりちゃんはあくびを一つすると、お空に向かって言いました。
「おやすみなさい、お星さま。」
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