第294話 知ってる?あれはね……

「日本でよく見るダンゴムシってオカダンゴムシって、実は外来種で在来種の方が滅多に見掛けれないんだ──」


 とか言う宮西君の長い解説を思い出しながらバイクのアクセルを捻る私は、途中走るバイクに飛び乗ってきたスーに話し掛ける。


「ねえ、スーはさ何匹ダンゴムシ倒した?」


「倒した数なのですか?」


 どこで手に入れたのかクリームパンを食べながら私の質問に首を傾げたあと、小さく首を縦に揺らしながらカウントし終えたのか私を見てくる。


「二十匹なのです。五匹ずつ来て、四回戦ったから間違いないのです」


「結構倒したね。私はまだ十五だから三回か。こいつらってなんで五匹で一チーム作ってんだろうね?」


「んー、リーダー一人に残り四人が実行部隊、サポート部隊と比率を変えやすくて作業分担が容易だとか、人数が増えすぎると関係が希薄になって意志の疎通がしづらいから五人くらいが丁度いいとかなんとかだった気がするのです」


「お? おおっ? 突然どうした。私は五人でご飯を食べると美味しいからなのです~って感じの答えを期待してたんだけど」


「んーそれもあるのです」


「うわぁ……投げやり」


 クリームパンを一生懸命に頬張るスーの頭の上でどこで手に入れたのか、おもちゃのバイクのヘルメットとゴーグルを見に付けた白雪が気持ち良さそうに揺れている。


【あらら、なにか来るわよん】


 スーの頭の上にいる白雪が立ちあがって手を上げる。髪の毛の上でピンっと立ち上がる白雪の姿、それはどっかの幽霊族の少年と目玉だけのお父さんのようである。


「むぅ~、まだクリームパン食べて終えてないのです」


【ほら、詩っちにクリームパンを預けて倒しに行くわよん】


「はぁ~いなのです」


 宿題をやるのを渋る娘と母親のようなやり取りをすると、スーが走るバイクの荷台に立ってクリームパンの入った袋を括りつける。


「クリームパンをよろしくなのです」


 そう言って荷台を蹴ったスーが路駐してある車の屋根に飛び移り、街灯を蹴ってビルの壁に足を付けるとそのまま斜めに駆け上がって行く。

 そして壁を這って下りてくるダンゴムシこと、パー君に正面から向かって走って行く。


 正面から来るなら来いと言わんばかりに沢山ある足を激しく動かし加速するパー君だが、スーが右手をくいっと動かした瞬間ビルの窓を破ってアルマジロが飛び出して来る。

 腹を鋭い爪で貫かれたうえに、そのまま両肩に担がれ地上へ落下しパー君の背中の節を弓なり反らし、へし折るアルマジロのアルゼンチン・バックブリーカーがきまる。


 壁を蹴って空中でバク転し落下するスーを、空中から高速で落下したきたムササビが追い越し地上を走るパー君を掴むと地面スレスレを滑空してそのまま壁に激突させる。

 ダメージを受けヒビの入ったパー君の頭をスーとウサギが踏みつけ砕くと、そのまま掌底を打ち込み青白い光と共にパー君が灰になる。

 その二人に向かって、アルマジロが肩に担いでいたパー君を投げるとスーとウサギが同時に掌底を決めこちらも灰に変えてしまう。


 二匹のパー君が灰になったとき、アルマジロが糸が切れたようにパタリと倒れたかと思うと、代わりにチーターが走って来て別のパー君の腹に噛みつき地面に叩き伏せる。


 体を丸めようとするパー君の頭と尻を、ムササビとウサギが踏んで無理矢理体を伸ばしたところにスーの掌底が腹を突き破る。

 朽ちていくパー君の腹で足に魔力を集めたスーが、体を丸め弾丸のごとく飛んできたパー君を蹴り真上に上げる。


 宙で沢山の足をバタバタする、パー君のさらに上を飛ぶムササビが鋭い爪を立て地上にそのまま地上で青白い光を放つスーのもとへと急降下していく。


 スーの手にパー君の背中が触れた瞬間青白い光が天に向かって走り、魔力の炎に包まれ真っ二つになったパー君の体が地面に転がる。


「あの子、前よりも強くなってない……恐ろしい子」


 マティアスから本来のカミュラに戻ってから、スー本人のスピードとパワーは落ちたが代わりに彼女を守るぬいぐるみたちが凶悪過ぎて恐怖を感じてしまう。


 前世のとき戦場で会わなくてよかった、そんなことを思わせるくらいに今のスーは強い。


 前世であのまま戦いが続いていたら、こういった若い世代にとんでもない者が現れたんだろうかと、お年寄りみたいな考えをしてしまう私の視界に影が過る。


 いや正確には影が私たちを覆う。


「ふえ~大きいのです」


 ぬいぐるみたちと一緒に見上げるスーが口を開けて驚きの声を上げる。さっきまでの殺意マシマシな姿から一転可愛らしい姿を見せるスーにギャップ萌えを感じつつ。私はビルの間から顔を覗かせる巨大なダンゴムシを指差して説明する。


「体が緑色に輝いているでしょ。それに脚の数をよく見て、ダンゴムシには十四本しかないのに倍以上の三十四本あるよね。あれはダンゴムシに見えるけども、正確にはヤスデの仲間。その名もメガボールって言うの! だから名前もメガパー君でいいかな?」


 一通りダンゴムシを学んで知りえたことを説明をした私はドヤ顔でスーを見る。だが、私の思う反応とは全く真逆の顔をするスーはジト目で私を見て一言。


「うた、宮西みたいなのです。うぜーのです」


 思ってもない言葉に私はメガボールの存在なんかどうでもいいくらいにショックを受けて叫ぶ。


「マジで!?」


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