第295話 文明の力に染まりし者よ。エコだ!

 私の渾身のダンゴムシの知識お披露目はスーの「うぜーのです」の一言で大失敗に終わったと言ってもいいだろう。

 いや待て、その前になんと言った……「宮西みたい」と聞こえたような。


 私は思い出す。様々なシーンで宮西君の知識を頼ってきたことを。


 簡潔にまとめ説明すればいいのに余計なことを話してイライラさせるあの姿が目に浮かぶ。じゃあ私はどうであろうか……


 パー君、いわゆるダンゴムシと、今回出てきた巨大な宇宙獣メガボール。見た目はダンゴムシっぽいけどネッタイタマヤスデと言う本名がさす通りヤスデの仲間であって別物である。

 だから足が多くて、戦闘に関係あるような気がして詳しく説明をしようと思ったわけで……


「やばっ、一緒じゃん」


「分かればいいのです」


 手をポンと叩いて自分の行動を振り返り出た結論を口にすると、腕を組んだスーが満足そうに頷く。


【どうでもいいけど後ろ来てるわよん。メガパー君】


 頭を掻いて己を恥じる私と腕を組んでうんうんと頷くスーに白雪の声が掛かる。後ろを振り返るとメガパー君が軽く飛んで体をくるりと丸まる。


 丸まったまま地面に落ちたメガパー君の体が弾む。そして巨大ボールと化したメガパー君が地面や建物にぶつかっては跳ねながら詩たちい向かって来る。


「うそでしょ!? あんなもの受け止めれないって!」


 私が叫びながらバイクにまたがるとスーが飛び乗るって来る。


「急ぐのです!」


「もちろん!!」


 キーを回しギアを入れバイクを急発進させる。オフ車ゆえ少々の荒れ地は難なく走ることが出来るしスピードは文句なしに速い。そしてなによりもスタミナを使わないというメリットだらけのバイクの名前を考えようなんて考えていると後ろに乗っているスーが腰を突っついてくる。


「どした?」


「メロンパン食べるのです」


「この状況で?」


 今私の後ろでは地面や建物をへこませながらバウンドしながら向かって来るメガパー君が迫ってきているのだ。さっき私が避けた車を潰して大きく跳ねながら向かって来る、この非常事態にメロンパンはないであろう。


「今はダメ。あのメガパー君をどうにかする方が先だよ」


「ぶーぶー! スーはメロンパンが食べたいのです」


 不満を言うスーだがここで折れては我慢のできない子に育ってしまう。それに空気の読める人になるため情操教育上もよくない。


「あいつを倒してから食べれるから今は我慢。分かった? だからメガパー君を止める方法を考えようよ」


「むー、分かったのです」


 頬を膨らませ不満そうながらも承諾したスーを見て、スーの将来を守れたと安心する私の腰をスーが再び突っつく。


「ところでスーが預けたメロンパンはどこにあるのです? 匂いがしないのです」


「うっ!?」


「うた、まさか落としたとか言わないのですよね?」


 私の腰をツンツン突っつくスーの攻撃は私の心の奥にまで響く。


「ごめんなさい。落としました……」


「ぶーぶー!」


 嘘は教育上悪い。潔く謝った私に不満の声と容赦ない突っつき攻撃がなされるが耐えるしかない。


「ごめんなさい。これが終わったら弁償します」


「むー」


「他に好きなもの追加していいから。ねっ!」


「許すのです」


 メロンパンを落としたことを許されホッとした私の隣に、上空からシュナイダーが駆け下りてきて並走を始める。

 その背中にはミローディアを肩に担いだエーヴァが立っていて、揺れるシュナイダー背中の上でも器用に立ち乗りしている。


「バイクとはまた文明に染まったもんだな?」


「便利だしいいじゃん。エーヴァも免許取ってみたら? 楽しいよ」


「う~ん、まあ考えてみるか」


 私のバイクを見てエーヴァが悩んでいると、下から声が聞こえる。


「エーヴァよく考えてくれ。エーヴァまでバイクに乗ったらオレは誰を乗せればいいのだ。頼む乗ってくれ、できれば足で踏まないで挟んでほしいっ!」


 訳の分からないことを言い出すシュナイダーに冷たい視線を送ると、シュナイダーはさらに訴えてくる。


「バイクも素晴らしいが、オレはもっと速く走れるしなんなら宙も駆けれる。それにだ、ガソリンも使わないし……そのなんだ、エコだ! 凄くエコだぞ!」


「なにがエコよ、エロの間違いでしょ」


「違いねえ」


「なのです」


【だよねー】


「エコとエロを掛けるとは、詩のセンスには驚きだわん」


 私の発言に納得するエーヴァたち女性陣と、照れるシュナイダー。和気あいあいと和やかな雰囲気に包まれながら走る私たち。


「でさ……後ろのどうする?」


 和やかな雰囲気の後ろでは相変わらず、メガパー君がその巨体を生かしバウンドしながら建物や車を破壊しながら向かって来ていたりする。


 私の問いに皆が首を横に振って、対策が思いつかないことをアピールする。


「とりあえず逃げながら考えよっか」


 悩んでいても仕方ない。思いつかないものは思いつかないのだから、その場にとどまるより動いていた方がなにかナイスなアイディアを思いつくってものだ。


 だから私たちは動くのだ! 物理的に。

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