第293話 国家権力すげーって思った

 ダンゴムシの軍隊は五匹編成。前はもっといたが、お腹が空いて共食いを繰り返した結果選ばれし五匹が残った。

 我々は選ばれし五人! 誇りを持ち敵である二足歩行を倒し食らいつくのであります。


 がっ


 我が軍はピンチであります。



 ***



 巫女の衣装に猫のお面を被った猫巫女は右手のハンドルをひねりアクセルを吹かすとバイクを加速させ、クラッチを切り左足のギアを心地よい音を立て上げると更に加速した車体から手を離し弓を引く。


 転がるダンゴムシに向かって矢を放つ。


 固い背中に阻まれ矢は刺さらないが衝撃は伝わり、ダンゴムシは軌道を変えられてしまい家の壁に衝突する。


「ほいっと」


 前輪を上げ軽くジャンプすると家に飛び込むと、家の畳の上で転がり無数の脚をバタバタさせるダンゴムシの腹に槍を突き立て一瞬で凍結させる。

 槍から手を離すと袖から取り出した無数の直尺を投げ家の壁や畳に突き刺す。


 家の壁を突き破って勢いよく飛び込んでくる二つの丸い弾丸は、室内に張られたワイヤーに捕らえられ勢いを殺され無様に宙ぶらりんになる。瞬間、走る電流はダンゴムシの体を焼き尽くす。


 アイドリング中のバイクのクラッチを切り、ギアを踏むと左足を軸にして車体を回転させながら急発進する。焼けちぎれる畳の破片を後に窓を派手に割って外へと飛び出す。


 飛び出して走る猫巫女の真正面から転がって来る大きな団子に臆することなく加速すると、衝突まで後少しというところで前輪を浮かし道沿いに乗り捨てられていたトラックの荷台に掛けると、そのまま側面を走り転がる団子とすれ違う。


 前輪から着地し後輪を浮かせたままその場で反転すると、後輪が地面に下ろし接した瞬間急発進かつ急加速をし、後輪のタイヤから白い煙を吐きながら一気に転がる団子に追いついてみせる。


 追いつくや否や両手を離し朧を槍へと変形させると、フルスイングしてダンゴムシをかっ飛ばし道路に乗り捨ててある車へと激突させる。

 ダンゴムシの硬い体で変形した車体の下から漏れた液体がじんわりと広がり道路を湿らせていく。そして通りすがりにバイクから放たれた炎を纏った矢は、液体から気化する気体に引火、爆発を引き起こす。


 爆風で吹き飛び硬い体をボロボロにし、道路に転がるダンゴムシを戻ってきたバイクから猫巫女が電流を纏う薙刀で地面をすくうようにし切り裂き真っ二つになり動かなくなる。


「もう一匹で最後っと」


 そう呟くと正面から転がって来て地面で跳ね猫巫女向け飛んでくるダンゴムシを避けるため椅子の上に足を掛け跳躍する。

 ダンゴムシを避けつつ空中で回転しながら弓を引くと、すれ違い様に矢を放ちダンゴムシの硬い背中の継ぎ目に矢を突き刺す。


 空中で一回転した猫巫女はそのままバイクに跨ると、スキール音と煙を吐きながら車体を半回転させ矢が刺さって無様に転がるダンゴムシへ向かって急加速する。

 朧を槍へと変えつつ、穂先に血文字を描くとダンゴムシに刺さる矢に槍の穂先をぶつける。

 矢に描かれている『雷』と穂先の『鳴』が光った瞬間に『雷鳴』の起こす凄まじい電流と音の圧がダンゴムシの中で巻き起こり、ダンゴムシは木端微塵に吹き飛ぶ。


 ギアをニュートラルに入れ一定のリズムで刻まられるアイドリング音を響かせながら、猫巫女はお面を上げ詩として戦闘の跡を眺める。


「機動力は抜群! 戦闘の幅も広がるし。シュナイダーと違って空は飛べないけど自分の意志で動けるのはいいね。それにしても……」


 詩はバイクをポンポンと叩く。赤いボディに白のラインが特徴的なオフロード車は、悪路走行もものともせずガンガン走ってくれる。排気量は二四九CCの普通自動二輪、中型などと呼ばれるスペックに分類される。


 普通自動二輪免許は十六歳から取れるので年齢的問題はない。だが詩の通う学校はバイク通学禁止であり免許を取ることも許されていない。

 しかし、詩個人的にバイクに乗りたかったのもあり「今後一層の多様化が予想される宇宙獣との戦闘において必要だと思うんですよね~」的に国のお偉いさんに発言してみたら、次の日には学校で呼び出され校長先生から「誰にも言っちゃダメだよ」と言われ、学校には何も言っていないのにバイクの免許を取る許可が下りてしまう。


「う~ん、国家権力ってすごいなぁ~。戦闘中であればヘルメット着用も免除だし、授業中にいつでも戦闘に備えるためお菓子を食べる必要があるんです、とか言ったら許可されちゃいそう」


 今度試しに言ってみようかなどと考える詩が両手を上げ伸びをしていた手を止める。


「ふーむ、ここから二キロもないかな。私の魔力を使った感知式トラップも役に立つものだね」


 こんな武器が欲しいとか、こんな装備あったら便利だなぁ~なんて詩たちが言うとおじいちゃんをはじめ職人さんたちがノリノリで作ってくれる。国が惜しみなくお金を使って作ってくれる武器や装備品は期待以上の物が渡される。

 この度の詩の魔力を利用した感知トラップもその一つである。


「初めのころに比べればなんとも贅沢なことだね」


 詩はお面を被り猫巫女になるとバイクのギアを入れアクセルを吹かし反応があった方へと向かって走り去る。





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