第273話:残された時間を考える
「エーヴァ、あんたスーのこと気付いてたでしょ」
「まあな、だてに長い付き合いじゃないしな。とは言っても疑いはあったが確信は最後まで持てなかったけどな」
私の家のソファーでくつろぐエーヴァに問いただすと、読んでいた雑誌を畳み視線を私に向けてくる。
「それに白雪がマティアスの妻だったとか分かるわけねえしな」
「まあね、自分の魂を使って娘を転生させるとかとんでもないことするよね」
ソファーに座るエーヴァの前に持ってきた椅子に座って向かい合って話す私たちは同時にため息をつく。
「まったくとんでもない転生をするっす。おかげでめちゃくちゃ怒られたっす」
「ほんとほんと、魂を三等分にするとか普通出来ないわよ。痛いとかそんなレベルじゃないもの。落ち込まなくていいわよ、だってそんなことする人が現れるなんて、だれも予想出来てなかったしさ。で、でも、そのさ、どーしても癒しが必要とか、あればさ、そのね?」
突然聞こえてきた騒がしい声に目をやると、いつの間にかエーヴァ隣に座る赤髪の少女は転移を司る女神スピカと、そしてその肩に止まるぐるぐる目玉の派手な鳥オルドがいて、ぐるぐる目玉の鳥から聞こえるのは転生の女神ことシルマの声。
気付けば私の家の中であって、外と遮断されたような不思議な空間に私とエーヴァはいた。
「ちょっとあんたらいつの間に!?」
「ん? 今きたとこだけど、あぁお構い無く。女神だからって緊張しなくていいわよ」
どこから出したのかティーカップでお茶を飲むスピカが手をパタパタさせて、リラックスしなよーと訴えてくる。
「それより何用? あんたらが来たってことはただお茶を飲みにきたわけじゃないでしょ?」
「そんな慌てなくていいじゃない。まずはシルマの愚痴を聞いてもらえる?」
スピカに突っつかれたオルドが翼の先端を丸め拳を作ると、口元で咳払いをする。
実際にしてるのはシルマでオルドはそれを再現してるのだろうけど、おそらくこの行動に意味はない。
「マティアスは転生をするとき自分の魂を三等分したっす。その内二つを娘のカミュラの魂と混ぜ転生に使ったっす。そして残りの一つを妻のノエミの魂と混ぜ、ぬいぐるみに宿しノエミを自分の転生ルートに乗せたっす」
丸めていた翼を広げ私に向かって翼の先端を向ける仕草は、指をさしているものと思われる。
「カミュラとノエミに混ざるマティアスの魂は元々一つ、引かれ合うのは当然で生まれてすぐに贈られたウサギのぬいぐるみにはノエミの魂があったわけっす」
「なるほどな。だからあいつらが密着すると本来の力が発揮出来てたのは、魂が一つに近い状態になってたってわけだ」
「おおっ、理解が早いっす。その通りっす。ついでに反動で力尽きるのは元の魂の力ではないマティアスのものをカミュラが使うからだ思われるっす」
「ん? カミュラ、つまり今のスーの元々持っている力は別ってこと?」
「詩も理解が早くて助かるっす。こんなパターンは初めてっすから憶測も交えてるっすけど、スーはマティアスの力を多少は引き継ぎつつ、本来の力を見つける必要があるっす」
翼を組んで踏ん反り返ったオルドがヨダレを垂らしながら、うんうんと満足そうに頷く。なんだかイラっとするのは私の心が狭いのだろうか? と自問自答。
「ちっと聞きたいんだが、マティアス自身の魂はどうなった? 娘と妻を転生させてあいつは死んだってことか」
エーヴァの質問にオルドが黙って下を向く。
「代わりに私が答えたげる。マティアスが選んだのは完全な消去。自分の魂を割って他の魂を包んで一緒に転生したんだから無事では済まない」
「消去ってのは死ってことじゃなくて?」
「死は輪廻の終わりであって始まりなの。循環する流れの通過点だけどマティアスがやったのは魂の譲渡。全体における魂の量は変わらないけど、カミュラとノエミに移したんだから消えてしまうのは当然と言えば当然なのよね」
「希に起きることとはいえ、転生を司る者として魂の消滅は避けたいものっす。それを自ら行う者が現れるなんて思ってもみなかったっす」
オルドから聞こえるシルマの声には、いつもの元気が感じられない。今回のことは彼女なりにイレギュラーでありショックだったみたいだ。
「それともう一つ、白雪のことっすけど。おそらく動ける時間は少ないと思うっす」
「どういうこと? マティアスのお陰でノエミとして魂は転生できて白雪になったんでしょ?」
「たしかに魂は転生してるっす。だけどそもそもぬいぐるみに定着するだけでも大変なのに、それを動かすとなると一般人のノエミだけでは無理っす」
「その口振りから今まではマティアスのヤツが白雪を動かす為に力を使っていたってことか?」
「本当に察しがよくて助かるっす。転生したとはいえ、ノエミは元々普通の人。今はマティアスが残した力で動いているっすけど、現時点でも戦闘はきついと思われるっす」
「宇宙人、あー今は宇宙獣の方が伝わるんだっけ。反抗的なヤツらとの戦闘も終わりが見えないわけじゃないし、ここでスーを前線から外すのも手じゃない? 一般人よりは何倍も強いから、後方で人を守るとか役割を考えてあげたら良いと思うんだけど」
オルドから聞こえるシルマの言葉に続きつつソファーから立ち上がったスピカが、手に持っていたティーカップを傾け手を離すと落ちたカップは床に当たる前に跡形もなく消えてしまう。
「他の神々は知らないけど、シルマと私はこの戦いにおいては詩たちを応援してるからさ。まっ、直接手を貸すことは出来ないけどね。ってことで私たちはこれで帰らせてもらうわ。じゃあ頑張って!」
翼をぶんぶん振るオルドを肩に乗せたスピカが手をひらひらさせて私たちに声を掛け空間に消えていく。同時に周囲にあった聖域と表現できる澄んだ空間は消え元の私の部屋に戻ってくる。
「さっきのスピカの話、白雪は気付いてるよね」
「だろうな、じゃないと目が覚が覚めてそうそうに美心のところに行くとか言わないだろ。スーも一緒に行ったみたいだが……あんま深刻なことになければいいがな」
私とエーヴァはそこまで言って黙る。ここから先は私たちがどうこうできることではないことは分かっている。だけれども、それでも白雪の残された時間が短いかもしれないことに気に揉んでしまうのだ。
***
『てわけでー、改めて娘共々よろしくお願いしますね♡』
ホワイトボードを掲げた後、手でハートを作ってよろしくアピールする白雪と、隣のスーが美心と母親であるに頭を下げる。
「白雪がお母さんでスーがその娘で、お父さんのお陰で転生したと……なんか複雑ね」
「娘と妻が亡くなって、その魂を救うために自らを犠牲にする! そして娘の為にぬいぐるみに魂を宿して見守る! 愛ね! 愛よ! 愛だわ!」
「なにその三段活用みたいな言い方……てかお母さんうざい」
白雪とガッチリ手を組む自分の母親である
「それよりもさっきの話だけど、白雪はもう戦えないってこれからどうするの?」
美心に言われスーと白雪は目を合わせ、スーが頷く。
「白雪はこのままだと動くことも出来なくなる可能性があるのです。だからみこにお願いがあるのです。白雪の新たな
「依代!? そんな凄そうなもの作れる自身ないんだけど」
「白雪が言ってるのです。色々なぬいぐるみに移ってきて、みこの作ったぬいぐるみが一番居心地がいいそうなのです」
『乗り移っている本人言うから間違いないわ。腕のいい職人が心を込め作ったものに勝るものはないわよ。それに私自身が美心の作るぬいぐるみを気に入っちゃったから』
「んーっ、なんか恥ずかしいけど、そこまで言われたらやらないわけにはいかないよね!」
白雪のホワイトボードの言葉を見て、照れながら言う美心にスーと白雪が両手でハイタッチする。
【もともと親ってのは子供より先に逝くものなの。スー、お母さんの残された時間は分かんないけど一緒にいれる間はこの白雪人生を謳歌してみせるわ! だから今を強く楽しく生きるのよ!】
「分かったのです! やれることは全部やって楽しくやるのです!」
ハイタッチした後両手を握り合い決意を誓う二人に、詩たちの心配は気苦労に終わるのかもしれない。
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