第272話:家族と姉妹と
お父さんはこの国を救った凄い人なのです。
この世界に悪い魔王が現れたとき、五つのお星さまが落ちてきて、やっつけるお話をカミュラが寝るときお母さんがよく聞かせてくれたのです。
「実はその五つのお星さま、その一つがお父さんなのよ! ねえすごくない!? ね、ねえってば!」
せっかく眠たくなってうとうとしていたのに、お話が終わると決まってお母さんはカミュラを揺さぶってお父さんの自慢をするのです。
今もなんだか揺れています、どこか懐かしい匂いがしてゆっくり目を開けると辺りは真っ白で、カミュラはポツンと一人いるのです。
ポンポンと背中を優しく叩かれたのでビックリしてしまいますが、振り返るとニコニコしたお母さんが立っていて隣にはお父さんもいるのです。
ビックリしたけど、それよりも嬉しくて二人に抱きついてしまうのです。
「カミュラ苦労をかけてすまない」
「どうして謝るのです?」
お父さんが申し訳なさそうに謝ってくるので尋ねると、お父さんとお母さんは目を合わせた後、カミュラの頭を撫でてくれます。
「きみの幸せを願って転生をしたのに戦いに巻き込ませてしまったこと、本当に申し訳ないことをした」
「カミュラごめんね。お母さんもサポートするつもりが足引っ張っちゃて」
二人の言っていることがよく分からないので首を傾げると、お父さんは優しく笑ってくれながらカミュラの頭をそっと撫でてくれます。
「カミュラの今の名前は
「えっ!? でもでもスーは元五星勇者でマティアスで……あれ?」
自分で言っていて意味がわからなくなって混乱してしまいます。でもスーは確かにマティアスなのです。エーヴァとうた、シュナイダーの前世の姿の記憶もありますし、戦い方だって知っています。
そもそも娘のカミュラはただの女の子で戦ったことなんてないのです。
「カミュラにお父さんの魂を三つ分けた内の二つを、もう一つをお母さんに渡して二人は転生したんだ。
身体能力が高いのはお父さんの魂が混ぜた影響、そして記憶があるのも同じ理由だよ。カミュラがマティアスとしての記憶が濃くなったのは初めての戦闘が始まってからじゃないかな? もっと言えば転生の女神の使者が現れたときからだと思うんだ」
お父さんに言われてハッとします。暮らしていた中国で派手な鳥オルドを見たときスーは前世絡みだなって思って、そして関わりたくないなぁって思ったのです。
それまでただのスーだったのに……
「お母さんも白雪の中でスーの成長を見守っていたんだけど、変な鳥に起こされてね。一生懸命に体を動かそうとしてお父さんに手伝ってもらったら記憶が吹き飛んじゃったのよ」
舌を出してテヘへと笑うお母さんはカミュラがよく知っている明るい姿なのです。
「えっと、えっと、お父さんが魂を分けてくれて代わりに転生したからカミュラはスーになった……ですか?」
まだ頭が混乱してて自信無さげに言うと、お父さんは頭を撫でてくれて、お母さんは手を叩いて誉めてくれます。
「じゃあこれからはお父さんとお母さんと一緒なのですか?」
カミュラが尋ねるとお父さんとお母さんは悲しそうな顔になって、首を横に振ります。
「ごめんよカミュラ。お父さんはもうここにいれそうにないんだ」
「カミュラを助けに来たからなのです?」
スーの記憶から倒れているスーを白雪が助けに来て力を使ったからだと、なんとなく理解してしまったカミュラが尋ねるとお父さんは困った顔になってしまいます。
「カミュラは今の世界で生きていくこと、嫌じゃないか?」
「今の世界なのですか?」
突然の質問に頭の中がぐるぐるしますが、大事なことだと感じたので一生懸命考えます。
「うたは遊んでくれるし、お姉ちゃんみたいなのです。エーヴァは口が悪いですけど優しいのです。美心はぬいぐるみを作ってくれますし、おじいちゃんは美味しいもの沢山食べさせくれるのです。あっ、いぬころは……変態なのですけど頑張り屋さんなのです。それから、えーとそうお友だちができたのです! ユーユーって言う子なのです!」
ぐるぐるする頭の中に浮かんだ言葉を口に出すとお父さんは優しく笑って頭をちょっぴり強めに撫でてくれます。
「カミュラが今の世界が好きなのは分かった。お父さんはカミュラに何もしてあげれなかったけど、この世界を生きていく力を残すことくらいはしよう」
お父さんはそれだけ言うとカミュラをぎゅっと抱きしめてくれます。
「ノエミ、後をお願いしてもいいかな?」
「もう行くの?」
「ああ、すまない」
お母さんが悲しそうな顔でお父さんを見てるのです。カミュラも何となく分かるのです、お父さんはもうお話できないってことを。
「もー謝ってばっかり! せっかくお話できたのにさぁ~」
「すまない」
頬を膨らませて不満を言うお母さんをお父さんが抱きしめて、また謝っているのです。
「もう! そんなとこがカッコいいんだから!」
「うむっ……」
そしてここからイチャイチャする……いつものパターンなのです。
「もう時間がないようだ」
そう言ったお父さんはなんだか体が透けていて、風が吹いたら消えてしまいそうな感じがします。
「カミュラ、君の本当の力それを見つけるんだ。それがここからの戦いを生き抜く力になるはずだ」
「本当の力?」
「カミュラが元から持ってたもの。今のスーとして使うべき力を見つけるんだ」
突然カミュラとしての力を見つけろと、難しいことを言われて困ってしまったカミュラの後ろからお母さんがぎゅっとしてくれます。
「カミュラが今まで使っていたのはお父さんの力をベースにしたもの。本当の力は違うはず。教えてあげれればいいんだけど、それが何かまでは分からないんだ。最後まで何もしてあげられなくてすまない」
頭に置かれた手はもう触れているか分からないくらい軽いけど、温かくて心がポカポカするのです。
「お父さんと話せて嬉しかったのです。カミュラはお父さんの娘で幸せなのです! だから、だからっ……」
もの凄く悲しそうな顔をしていたお父さんを励まそうとしたら上手くまとめられずにしかもカミュラの方が泣いてしまいました。
「ありがとう。何か一つでも、僅かでもいい、自分が幸せを誰かに残せたらって思って生きて来た。カミュラにそう言われて報われたよ」
「二つ!」
お父さんが微笑んでくれたと思ったら、頭の上でお母さんが声を上げます。
「少なくとも二人をマティアスは幸せにしてるの!」
「いや、だが俺のせいで……」
「誰が不幸だって言った? 体を失ってもあなたをずっと待っていた私たちをなんだと思ってるのよ。不幸だって思ってる人がこうして一緒に転生するわけないでしょ!」
腕を組んでお母さんが怒って、お父さんが困っています。
「悪かった、そうだな。ノエミ、カミュラ、きみたちに出会えたこと幸せだった。そしてこれからも幸せであって欲しい。本当にありがとう」
お父さんは笑顔でそう言うと、お母さんカミュラに微笑むと光となって弾け消えてしまうと、カミュラとお母さんの間を優しい風が頬を撫で抜けていきます。
これが本当に最後、もう二度と出会えないお父さんとの別れということはカミュラでも理解できます。
お母さんを見上げようとしましたが、上を見るとカミュラの頭に落ちてくる大粒の雨がカミュラの目に入ってしまうと泣いてしまいそうなので、下を向いて震えるお母さんの手をぎゅっと握るのです。
カミュラはお父さんとお母さんのお陰でここにいられるのですから、スーとして前に進まないといけないのですから、泣くよりも一歩でも前に進んでみせるのです。
────
ゆさゆさと揺れるのは誰かにおんぶしてもらっているから。昔迷子になったカミュラをこうして背負ってくれた人は……
「あ、起きた? スー大丈夫?」
心配そうな声でうたが尋ねてきて、スーは詩に背負われていることを知るのです。
ぼんやりとした視界で今いるのが森の中なのこと、
右隣でミローディアを杖にしてだるそうに歩くエーヴァが、スーを見て笑みを見せてくれます。
左隣にはシュナイダーがいて、背中には紐で縛られ背負われている白雪が見えるのです。まだ目が覚めていないのかぐったりとして、ただのぬいぐるみのようなのです。
黒いボタンの目が潤んで見えるのはスーの目に涙が溜まっているからなので、涙を脱ぐってうたの背中にしがみつきます。
「思い出したのです」
「ん? 何を?」
「エレノアはカミュラのお姉ちゃんになってくれるってことなのです!」
「えっ!? なに? どういうこと? 状況がつかめないんだけど!?」
スーの言葉にうたが混乱してる姿が可笑しかったので、ついつい笑ってしまうのです。
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