第268話:見せるぜ進化!人には到達出来ない領域へと!

 ヴァロトンの翼、と言っても形が翼なだけで羽根とゲジゲジの間をした中途半端な生物が繋いでいる代物である。

 伸ばした先にいた自衛隊員を二人をかっさらう。その瞬間にゲジゲジの口にあたる部分から伸ばした管は無数の針となって自衛隊員を串刺しにしてしまう。


 命を繋ぐために他の命を吸う行為、光がある方へ希望を感じて伸ばした翼は隊員と共に近くにあった戦車を飲み込む。

 猫巫女たち希少種の追撃から逃れるため、飲み込んだ戦車を軸にして、バラバラになった体を引き寄せ戦車を黒い影で覆う。


 戦車を飲み込んだのは偶然、そして飲み込んだ隊員達の記憶がフラッシュバックするのは奇跡。

 進化とは試行錯誤の繰り返しと奇跡の積み重ね。偶然の産物が現在の環境にマッチし生き残っていく。それは今もなお行われていて生命は等しく未来へ生き残る為に篩にかけられている。

 宇宙からの来訪者にこの地球で生きる為の篩にかかる資格が無いのかと問われれば、否としか答えれないだろう。


 ヴァロトンは自分の頭にフラッシュバックしてくる記憶の言語は分からないが動きは体で理解出来る。自分が今生きる為に必要な情報を選別する。


 飲み込んだ戦車に、ゲジゲジに捕らわれ体の一部と化した隊員を中へと押し込むと、ゲジゲジで繋いだ体を戦車の内外へ這わせ貼り付けていく。

 どんなに時代が進もうとも、有り得ないであろう進化は無機物の鉄の板の上に生命の鼓動を宿す。


 鉄の板の上で脈打つ黒い体をより良い方向へ作り変える。


 戦車をベースに翼を広げ、胸元から主砲を張り出し本来の出入り口のある砲塔には長い首とカラスの頭が生える。

 足はないが、代わりに悪路を走行する為のキャタピラに肉が巻きつき鈍く不気味な光を放つ。

 コックピット内の機器には黒く脈打つ血管が張り付いて脈打ち、操縦席には人の形をした黒い物体が操縦桿を握る。


 人に寄生し人が機械に寄生する。二つの生命と無機物を融合した新たな生命は排気口から黒煙を吐き、低い産声を上げ主砲を猫巫女たちへと向ける。


 ついさっき自分を苦しめた砲弾は今は自分を守り、そして敵を討つ大切な武器。


 試運転も兼ねて、挨拶代わりにと一発放たれた徹甲弾が地面を大きく抉り、そして深く突き刺さる。赤く変色した鉄の塊が放つ熱は空気を揺らめかせる。


「兵器のことは詳しく分からないけど、爆発するタイプじゃなくて助かったかも」


 詩が力を使い果たし目を回しているヒョウの着ぐるみを着たスーを背負い、着弾した徹甲弾を見て呟く。走って逃げる詩の隣にエーヴァが並んで走ると、目を回しているスーをチラッと見る。


「ちっ、スーの攻撃タイミングミスったな」


「愚痴っても仕方ないし。それよりもあんなの町へ出すわけにはいかないし、どうにかするのが先でしょ」


「違いねえな」


 二手に分かれた詩とエーヴァに対し、ヴァロトンはキャタピラを高速で回転させ土を巻き上げながら車体をほぼ真横に移動させる。

 戦車にあるまじきスピードと動きで真横に移動しながら砲塔に備え付けられている機関銃が咆哮を上げ銃弾の雨をバラまく。


「うわわわっ! やばい、これはやばっ!」


 詩は攻撃のチャンスを窺うのを諦め、別の戦車の影に飛び込み銃弾を凌ぐ。


「避けろ! 主砲が向いてるぞ!!」


「まじで!?」


 アンテナを搭載していたピックアップトラックの影から叫ぶエーヴァの声を受け、戦車の影から覗いた詩に向かって砲台が火を噴く。それと同時に詩が身を潜めていた戦車の車体が大きく揺れ、火花と破片が散ると炎に包まれる。


「んなあっ!!」


 隠れていた戦車が破壊される寸前にスーを背負ったまま走る詩を、今度は機関銃から放たれる弾丸が追う。自分の歩いた後を追って来る弾丸が起こす土煙から逃げ、ひっくり返ったピックアップトラックの影に飛び込むと、代わりに弾丸に襲われるピックアップトラックの車体に穴が開き、火花を激しく散らし身を砕かれていく。


 無惨な姿へ変わり果てていくピックアップトラックを背にして詩が木々の間を抜け、小高い丘のへと逃げ身を隠す。


 圧倒的な火力に頑丈な体、足の形は変わったが走ることが出来る。

 キャタピラを回して調子を確かめるついでに、まだ無傷な戦車に近付くと鉄を取り込んで作った翼を振り下ろし車体に穴を開けると、砲塔から生えた首を伸ばして穴にくちばしを突っ込む。


「燃料補給ってとこか……」


 ゴクゴクと喉を鳴らし他の戦車から燃料である重油を補給しているヴァロトンを、エーヴァが木の影から見ながら、スリットから覗く足に隠してある鉄板を手に取る。


 そして視線を上に向けると、葉と枝の間から僅かに見えるヤシの実に脚が生えた生物を睨む。


「さっきから飛び回るあいつがなんなのか気になるところだが、ヴァロトンの野郎をどうにかしないとな。

 念のために用意した対人専用の技をここで使う羽目になるとは……ボヤいても仕方ねえか」


 数枚の鉄板に魔力を込めながらエーヴァは苦笑する。

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