第269話:加速する進化

 喉を鳴らしながら飲むのはおそらく戦車を動かす燃料。人を取り込み、戦車をも飲みこんで一体化したあいつがどう動いているのかは分からないが、動かすためには燃料がいるのかもしれない。


 燃料切れを待ち動けなくなくなったところを叩く作戦が真っ先に思い浮かぶが、もし燃料切れを察知出来る機能が備わっているなら、ここにある燃料がなくなったら補給の為町へ下りる可能性がある。

 穴を掘ったり、壁を作って足止めすればいいのかもしれないが、あいつらは空飛んだり土の中を潜ったりと、とんでもない進化で町へ向かうことが予想される。


 となればここで討つのがベストと言うことになる。


 その考えはエーヴァも同じらしく、彼女の魔力を含んだ鉄板が放たれたのを丘の影から覗いて確認する。

 自分目掛け飛んできた鉄板に反応したヴァロトンが、機関銃の銃口を向け鉄板を撃墜すべく弾丸をまき散らす。


 弾丸とただの鉄板ではいくら魔力が含まれていようがぶつかれば、鉄板の方が負けるのが覆ることのない結果。

 それを覆せるのが、基本技名を付けないエーヴァに無理やり付けさせた『リアーピ』と言う波紋を意味する技。


 エーヴァの指が鳴らしたパチンと乾いた音が響く。


 板に含まれた魔力は音に共鳴し宙に波紋を空間いっぱいに広げる。空間に広がる音の魔力は弾丸の持つ殺意を包み込み打ち消すとただの鉄の塊へと変え地面へと落としてしまう。


 何事も対策は必要、そんなことにならないことを祈るが対銃弾の対策としてエーヴァの編み出した技がこんな形で役に立つとは分からないものだ。


「うたぁ……スーはここに隠れているのですから降ろしてほしいのです」


「目が覚めた? 隠れるって言ってもここも安全じゃないし」


 私の背中でもぞもぞと動くスーが眠そうな小さな声で話し掛けてくる。力のない声からまだ体力や魔力が回復していないのが伝わってくる。


「気配を消すのは得意なのです。影に隠してくれれば大丈夫なのです」


 私が答える前にスーが降りようと背中を押してくる。


「エーヴァと戦ってくれた方が安全なのです。このままではうたもエーヴァも危ないのです」


「分かった、ちょっと行ってくるから寝てて」


 スーの言う通りこのままここで隠れていてもヴァロトンは倒せないし、今唯一攻撃できるエーヴァも攻めきれずピンチに陥る可能性の方が高い。

 私はスーを抱きかかえると丘の窪みにそっと寝かせる。スーが着ているヒョウの着ぐるみのヒョウ柄のおかげか、土や草に馴染んで意外に目立たないことに少し安心感を覚える。


 寝かせると疲れていたたのだろう、直ぐに眠ってしまう。


「さてと、私もやんないとね」


 エーヴァが放つ二度目の波紋が弾丸の雨を鉄の塊へと変えた瞬間に私は飛び出る。


 宙に描く『弾』を叩き風の弾丸をボディーに当てる。鉄が混ざっているであろう皮膚に弾ける風の間に、地面に『穴』を描いていく。

 主砲と機関銃の狙いを定めさせないように高速で移動をしかく乱を目論む。そして、私の反対から飛び出して来たエーヴァによって更なるかく乱を行いつつ、エーヴァが上に投げ周囲にばらまいた鉄板が地面に刺さったら攻撃の合図。


 戦場に置いて一番有効なのは相手の足を潰すこと。ヴァロトンが高速で動こうとも、足を押えれば勝機は見えてくる。

 私の放つ風の弾に反応した『穴』はヴァロトンのキャタピラの足を僅かに取る。そしてエーヴァが仕込んだ鉄板をヴァロトンが踏んだ瞬間、キーンと甲高い音と共に地面が破裂する。


 音の魔力よる地雷はヴァロトンの足にダメージを与えれたようで、黒い塊をバラまきながら真横へ強引い移動し逃げる。だがその先にあるのは『濘』の漢字、泥濘ぬかるみむ大地は重量のあるヴァロトンの体を地面へ沈め拘束する。


『火』『弾』を描き放った火弾びだんで牽制しつつ槍状の朧を構え向かう。私の向かい側から飛び出してきたエーヴァも同じく鉄板を投げ、ヴァロトンの目の前で音の波紋を生み出し銃弾を放たせまいと牽制をしてミローディアを振り上げ詰め寄る。


 鉄の体は簡単には切れなくても砲塔から飛び出ている首、戦車の脆い場所からの内部攻撃、または肉を伝わせ本体へとダメージを与える。など攻撃方法を考えるがまずは近付けないと始まらない。


 ヴァロトンの首がピンと真上を向く。と同時に翼を広げ砲塔を中心にゆっくり回ったと思ったら高速回転が始まる。

 突っ込もうとしていた私たちは慌ててブレーキを掛け、高速回転するヴァロトンに巻き込まれるのを避ける。


「なっ!?」


 扇風機のように真上に向かって高速回転するヴァロトンの翼から真っ黒な物体が飛んできて慌てて私は弾く。


 弾いた瞬間、重く鈍い感触が槍状の朧から伝わってくる。


 足元に落ちたそれは、黒い羽根のようで不揃いな長さの脚が生えたゲジゲジのなりそこない。私に切られたはずのなりそこないゲジゲジが脚をバタバタと動かし、地面をゆっくり這い始める。

 その口にある尖った管を私に向け這いずるゲジゲジに警戒を向ける暇も与えてくれない、ヴァロトンから連続で放たれるゲジゲジの弾。そして落ちた弾から不揃いのゲジゲジへと変化し群れを大きくすることに危機を感じつつ、本体であるヴァロトンとの距離が遠くなっていくことに苛立ちを感じてしまう。

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