第267話:生きる>走る
真正面からのぶつかり合い。それは私がもっとも望まない戦い方。
指先から垂れる血を空中に押さえつけ引くと『糸』を描く。
真正面から向かい合い、そのままぶつかると見せ掛けてからの真横に飛んで逃げる。
その瞬間に柄の部分を外し、『糸』の漢字を通しつつ槍先を投げつけ、手に持った柄も『糸』に触れさせる。
ヴァロトンが投げられた槍先を翼で弾くと、真横にいる私を向くタイミングに合わせ柄を引くと空気の糸で繋がった槍先がヴァロトン目掛け戻ってくる。
再び弾かれた槍先を手繰り寄せつつ投げたのは直尺、ワイヤーの付いていない直尺はヴァロトンの硬い翼に弾かれるが槍先とすれ違う瞬間に魔力の供給を受け『火』の漢字を光らせ燃え上がる。
空中で突然燃えた直尺と胸元目掛け飛ぶ槍先に三つの頭の六つの目が向いた瞬間、真上から落下してきたヒョウの白雪が一つの頭のくちばしに噛みつき回転する。
頭を捩じられるヴァロトンに続けて落ちて来たスーが白雪の体に抱きつき回転を加速させる。
巨体の中では細い部位であるヴァロトンの首の骨を折るのではなく、首を構成する
鳥にじゃれるぬいぐるみに抱きつく少女と言う、言葉だけ並べれば可愛いらしくも聞こえる技によりヴァロトンの首が二回転して絞られた雑巾みたくなる。
一つの頭を護るため、翼から舞い上がったゲジゲジの群れがスーたち目掛け落下してくる。だが豪快かつ繊細に走る閃光がゲジゲジを粉砕しながら進むと、ヴァロトンの捻じれた首を捉え走り抜ける。
大鎌を振り抜き勢いに流れる銀髪の隙間から、エメラルドグリーンの瞳が残光を覗かせる。
ヴァロトンの頭の一つが落ちていく。その光景を瞳に映す別のヴァロトンの首に突き刺さるのは私が投げた
首に突き刺さった蕾は回転し、首に侵入すると身を引き裂き進む。と同時に落ちていく首から飛び移ったスーと白雪が勢いを生かし首を捩じ切り引きちぎる。
支えがなくなり、もたげる二つ目の頭を蹴って二つに分かれたスーと白雪が互いの右手から引く魔力の糸は三つ目の首へと引っ掛かると、二人はすれ違い糸を交差させ結ぶ。
勢いよく首を真横へ引っ張られ残された頭の真横に、勢いをつけ落下してきたエーヴァが突き立てるハルバードの槍先に首から鈍い音が響く。
折れた首に私の放つ二本の刀の斬撃が切れ込みを作り、槍先を抜いたエーヴァがハルバードの斧を振り下すと三つ目の頭が落ちる。
「本体は?」
「分かんねえ。頭の方にないのは確かだが、もう少し切り刻んで細かくするしかねえな」
私の問いに答えながらエーヴァがハルバードを振り上げ、先に乗った白雪を真上へと投げる。
【いっちゃうのよ!】
「任せるのです!」
落下してくるスーを胸元のジッパーを空けた白雪が空中で受け止める。ジッパーを上げヒョウと合体したスーが落下すると同時に小さな爆発が起きる。
炎の軌跡も残さないスピードで移動するスーを目で追うのはいつも以上に困難を極める。頻繁に起こる爆発はスーが方向転換をするためと、スピードを加速させるもの。
ヒョウの爪と牙がもたらす斬撃はヴァロトンの体を分割していき、徐々に小さくしていくその技は『
散らばる破片を私とエーヴァが追撃しこの世から消滅させていく。
* * *
一瞬で首を落とされ、三つの頭を失う。だが視界を失ったわけではない。翼だけでなく全身にゲジゲジの元となる羽根を有するヴァロトンは羽根にある複眼の一つ一つで視界を得ることが出来る。
だが見えるからと言って、自分の身を切り刻む敵の姿が見えるわけではない。必死に痛覚を遠くへ追いやって、この現状を打破する方法を無数の複眼で探す。
目の前にある敵を退けるため、遠くに視線を移すとシュナイダーとミミズが戦う姿が見える。そこから少し移動すると先ほどまで自分を苦しめた戦車。更に後退する自衛隊員の姿を捉える。
「生きたい」生き物が持つ本能が、ヴァロトンの「走りたい」を超えたとき考えるよりも体が動く。
残った体から放つ全方向への羽根の攻撃。よもやそれで敵が止めれるとは思っていないが、一瞬のスキを作れればいい。短くなった翼を伸ばすとゲジゲジの出来損ないが翼を延長させ大きく伸ばす。伸ばしたその先にあるのは自衛隊員、いわゆる人間。
その間もスーたちに切られるが、切れた瞬間にゲジゲジで体を繋ぎ止めていく。繋ぐと言うよりはゲジゲジで体が飛ばないように囲ているだけだが生きている。
体を切り刻まれながら執念で伸ばした翼は二人の隊員をかっさらう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます