第262話:ぬいぐるみと動物の共演!いわゆるアニぐるみパニックなのです!

 ヴァロトンを目的の場所に誘い込み包囲する。それにはヴァロトンの進路を予想しつつ、地形を生かしつつ追い込んでいくわけなのだがここで問題になるのは、攻撃の手段が限られるということだ。


 高速で走るヴァロトンを猫巫女たちを乗せたバイクで追いかけるにしても、道路が破壊され倒壊した建物が道を塞げば、いかに小回りの利く追撃部隊と言えども遠回りを余儀なくされる。


 そこで行わる作戦はスーと白雪を中心とした追撃である。そしてこれをサポートするのがシュナイダー率いるアニマル部隊。


 飛行機から投下された銀色の球体、通称ガチャには全国から集められたぬいぐるみが詰まっている。

 空中でパカンと開くと風に乗ってぬいぐるみたちは町中に降りそそぐ。ただ、このままでは風に乗ってぬいぐるみたちは自由に散らばるだけである。


 アオォォォーン!!


 町中に響き渡る遠吠えに反応した鳩などを始めとした鳥たちが空中でぬいぐるみをキャッチすると、四方八方に均等に飛び散り町のいたるところに置いていく。

 先に地面に落ちたぬいぐるみたちは犬や猫たちが口にくわえ、重ならないように配置していく。


 シュナイダーの呼びかけにより雇われたアニマルたちは、美味しいオヤツの為にせっせとぬいぐるみを並べていくのである。

 国の予算から出るおやつ代により、これまでとは比べ物にならない規模の動物たちを動員することが可能になった。


 国家予算スゲーである。


 至る場所に散りばめられたぬいぐるみはヴァロトンの目から見れば小さなものであるが、小さきぬいぐるみを見て僅かに目を見開いたのは前回のタコサシの経験があったからなのかもしれない。


 ぬいぐるみとの距離を取るため、ルートを変えるヴァロトンの足元に炎の刃が走り抜ける。

 炎を纏うシュナイダーが炎のチェンソーを咥えたまま低く短く吠えると、建物の影からヴァロトンを囲い現れた五匹の兄弟猫たちが一斉にぬいぐるみを宙に放る。


 散りばめらたぬいぐるみを伝わり、五体のぬいぐるみを走り抜ける魔力の線は真上に立ち昇ると家の屋根に引っかかっていた金のガチャボールに当たり弾ける。

 大きく手足を繋げる膜を広げ現れたムササビは、猛スピードで滑空しながら爪を振り下す。


 避けるか受けるかを考える間もなく、音も立てずに忍び寄ったスーによる掌底が、ヴァロトンの顎下から放たれ大きな頭を揺らすと、脳天にムササビ白雪の爪が突き立てられる。スーと白雪の魔力がヴァロトンを中心に爆発すると更に頭を大きく揺らす。


 二本の太い足で踏みとどまるとヴァロトンは、飛べない翼を大きく広げ羽ばたき周囲のぬいぐるみ吹き飛ばすと再び走り始める。


 ムササビを背中に背負ったスーがシュナイダーの背中に飛び乗ると、シュナイダーがヴァロトンを追い走る。

 それよりも先に走る魔力の線は、散らばったぬいぐるみの間を駆け抜けヴァロトンを追い抜くと、幹線道路に設置された金色のガチャをカチ割るとヒョウ柄の凛々しいヒョウが現れる。


 突然目の前に現れたヒョウに向かってヴァロトンは、自慢の硬い頭を突き出して突進する。ヒョウはしなやかに体を捻り避けながら爪を立てヘルメットの上に火花を引いていきながら、ブレーキを掛け空中に身を投げると更に体を捻り、空中に追いついたシュナイダーの前足を足場にしてヴァロトンに飛び掛かる。

 それと同時にシュナイダーの背中から飛び出したスーは、ヒョウに避けられビルの壁に頭から突進しするヴァロトンの両翼の付け根に掌底を放つ。


 スーとヒョウの肉球パンチに加え、自身の突進の勢いで体勢を崩しながらビルにつっこんだヴァロトンの頭上目掛け投下された漆黒の盾は、上空から猛スピードで滑空してくるエーヴァが手にするミローディアとドッキングを果たし、重力を味方にし更に魔力のスパイスを加え、殺意を加速させ落下してくる。


 首を目掛け落とされた重い一撃はヴァロトンを地面に叩きつけ伏せさせる。一瞬だけ訪れた静寂は討伐の期待をさせる間もなく、勢いよく跳ね起きたヴァロトンによって破られる。


 吹き飛ばされるエーヴァとスーと白雪を目掛け、ヴァロトンが羽を広げ飛ばしてくるのは鋭く尖った羽根。


 ミローディアとスーの足が引く無数の閃撃が羽根を弾き、ヒョウの爪がはたき落としつつシュナイダーが風の盾で吹き飛ばす。


 エーヴァが着地すると、僅かに遅れてシュナイダー横に着地する。既に背を向け走り去るヴァロトンを睨みながら肩に担いでいたミローディアを降ろす。


「ちっ、結構手応えあったんだがな。速攻首の骨を修復しやがったか」


「まずは所定の場所まで追い込むことが目的だ。ここで無駄な進化をされても困るしこんなものだろう」


「違いねえな。スーと白雪はもう行ったみたいだし、あたしらも追いかけるとするか」


「ああ、そうだな」


 そう言って自分の背中をずいっと出すシュナイダーとエーヴァが見つめ合う。


「なんか、嫌だな……」


「その言い方やましい気持ちが俺にあるとでもいうのか? それはさすがに失礼と言うものだ。俺にはやましい気持ちしかないっ! エーヴァが背中に乗ってくれて嬉しさしかないぞ!」


「潔ければ良いってもんでもねえだろうが……」


 呆れたため息をつきながらエーヴァはシュナイダーの背中に飛び乗る。鼻息荒く走るシュナイダーの頭の上で揺れる耳を見ながら人として恥じらいを持つことの意味。実家で母や教育担当から教わったことの大切さを何となくだが今悟る。


 ──こいつから学ぶのは癪だな……いつか思いっ切り殴りたいな。


 だが、反面教師の頭を殴りたい衝動を抑えるエーヴァが真のお嬢様になる道のりは険しいようである。

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