第261話:怪鳥ヴァロトンを包囲せよ!
ダチョウという鳥、テレビだけでなく動物園などで見たことがある人も多いことだろう。だが、サバンナを全力で走る姿を見たことがあるのは、こと日本においては少ないと思われる。
体がカラスなのでダチョウではないのかもしれないが、その走りはダチョウを彷彿させる見事な走りっぷりである。
彼(?)の名前は『ヴァロトン』
巨体が時速一〇〇キロ超えるスピードで走れば道路は抉れるし、車やバイクはスクラップと化する。
それに加え銀色のヘルメットをかぶっているような頭で頭突きを繰り出し、破壊行為を繰り返す。
そしてなによりも困るのが……
ビルの屋上から飛び降りた黒いドレス調の衣装を身に纏う少女、エーヴァが落下しながら回転して鉄板を数枚放ちヴァロトンの足元に突き立てる。
鉄板の牽制を軽やかなステップでかわしたところを、ミローディアの軌跡が右目に向かって引かれるが身を屈め銀色のヘルメットで受け止めると、鋭いクチバシでエーヴァを払いのける。
ミローディアでクチバシを受け止めるも、勢いで吹き飛ばされるエーヴァを追撃しようとするが、その間を与えられずに首を囲む三本のワイヤーが駆け抜け、三角形を作ると建物に直尺が突き立てられる。
と同時に足元にも複数のワイヤーが走り自由を奪う蜘蛛の巣を生み出す。
だがそんなのは興味がないといった感じのヴァロトンは、絡まらるワイヤーを強引に引っ張り自分の肉体を傷付くのもお構いなしに走り去ってしまう。
「あぁ! 逃げられたぁ!」
猫のお面を被った少女の声が響く。世間では猫巫女と呼ばれ自称宇宙人を名の乗っているが、明るく元気な子で名前を鞘野詩というのを俺は知っている。
「わたくしたちには興味なし、と言ったところですわね」
「なんだかムカついちゃうね」
そう、ヴァロトンは今までの宇宙獣と違い猫巫女たちと戦うことに興味を示さずにひたすら走り、そして破壊することを行動原理とするのである。
今回も進路予想を行い、待ち伏せをしていた猫巫女とエーヴァによる襲撃はヴァロトンのガン無視により失敗に終わる。
ヴァロトンの後ろ姿に向かって手を振り回しながら「戻ってこーい!」と叫ぶ猫巫女が可愛いなどと思っていると、白い煙を吐きながら走ってきたバイクの集団が彼女らの目の前に止まり、運転手が荷台を親指で差す。
猫巫女とエーヴァが頷き荷台に飛び乗ると、バイクは白煙を吐きながらヴァロトンを追いかけ走り去っていく。
フルフェイスの目元から見えた男は
歳は俺よりも下で、しかも上司で可愛い奥さんもいるっ! あの男の背中にしがみ付く猫巫女の姿を思い出して嫉妬の気持ちが湧き上がる。
だがすぐに首を振り、最近一緒に鞘野詩と国家資格の勉強をしたことを思い出し、俺の方が凄いのだと自信を持つのだ。
「おいっ!
「申し訳ありません!」
隊長の声に我に返った俺こと
「俺たちより宇宙獣との戦闘に慣れてるのかもしれんが、油断はするなよ。まあ、頼りにしてる」
敬礼してガラ空きになった俺のわき腹を軽く拳で突っつく隊長の言葉が優しくて、涙が出そうになる。
前の
涙が溢れないようにと上を向いたとき、車のブレーキ音が心地よく響き、俺のこぼれそうな涙と、現状の次なる作戦の告知を予感させ現場の雰囲気をキュッと絞めてくれる。
自衛隊が所持する古めかしいピックアップトラックは、電子機器を使用しない武骨さを感じさせ、マフラーから吐く黒煙がその様相を引き立てる。
それとは対象的に荷台に載るパラボラアンテナは宇宙獣の発する電磁波吸収を担い、また別の荷台に載る四角い板は電磁波反射の役割を担っている最新鋭の代物。
板状のアンテナで電磁波を反射させ、通り抜けた電磁波をパラボラアンテナが吸収する。これにより電子機器を使用できる場所が僅かではあるが確保出来るという算段である。
対宇宙獣電磁波対策のアンテナは、まだ開発途中でありながら実践投入される。それは現場が
古めかしいピックアップトラックに、最新のアンテナの相反するコントラストに目を取られていると、
アンテナで守られているとは言え、聞き取りづらいであろう無線でのやり取りをした後大きく頷く。
「次の指令だ! 走り回るヴァロトンを止める為、演習場へと追い込み迎え撃つ!」
合田隊長は一旦言葉を切り溜めを作ると、俺ら隊員を目で一巡した後口を大きく開く。
「作戦名『怪鳥ヴァロトン包囲網』! 破壊行為を続ける憎き鳥を討伐するぞ!!」
「「「はいっ!!」」」
なんだか特撮っぽいノリにテンションが上がる俺は、いつもより切れのいい返事をするのだった。
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