飛べぬなら走ればいいじゃないか

第259話:彩りってやつ

 鞘野周作しゅうさくは詩のパパである。彼は家電メーカーに勤務しており、機械設計の仕事に従事している。


 家電メーカーを始め、今の日本で求められる機能、それは宇宙獣による電子機器の障害を防ぐことである。

 テレビや冷蔵庫が使えなくなることも大問題だが、通信機器が全く機能しないのは宇宙獣への攻防の面でもかなり痛い。


 この問題に躍起になって取り組む企業たちはメーカーや業種の垣根を越え日々切磋琢磨している。共通の目標が出来ると発展するものもある、宇宙獣がもたらしたものの中で良い面だと言えなくもない。


 鞘野周作の仕事は機械設計。その仕事は概念設計・基本設計・詳細設計・生産設計などが主にあるが機械の外見から機能性、素材を考えながら試行錯誤する根気のいる仕事。


 一般の会社員、まして一人が世紀の大発明をしてなんてことはそうそうない。そんなことは求めていない周作は今日も仲間たちと、様々な分野から集められた知識と技術を形にするためトライアンドエラーを繰り返す日々。


 ふと、試作品のお椀状のパラボラアンテナと真四角の板状のアンテナを見上げる周作。大人が四、五人が余裕で後ろに隠れられるほどの大きさのそれら。

 自分たち以外も沢山の人たちがアンテナに集まってそれぞれの仕事をしている。バラバラの人たちが一つのものを組み立て完成させる。


 その過程が好きな周作は大きく息を吸ってこの空間の空気を堪能する。


 自分一人では出来なくてもみんなと力を合わせれば誰かの役に立てるかもしれない、ましてや今回は大好きな娘である詩の役に立てているかもしれない。


 そう思うといつも以上に頑張れるというものだ。


 詳しくは言えないけど……と今進めている仕事の内容をボソッと口にしたとき、詩が「パパ凄い!!」と褒めてくれた。日頃から会話が少ない父娘ではないが、自分自身のことが話の中心になることはあまりないような気がする。


 娘に褒められる、本当にちっぽけかもしれないが、なんてことない自分の仕事が世界に広がってどこかのだれかの役に立ってるかもしれない、そう身近に実感できた瞬間だった。


 そう言えばそんな歌があったなと思いながら周作は仕事へと勤しむ。



 * * *



 鞘野里子さやのさとこは詩のママである。家の掃除を終えて一息つきながら彼女は娘である詩のこと思う。


 幼い頃からどこか雰囲気の変わった子だと感じていたが、宇宙獣と戦う今の姿を見ると逆に納得してしまう自分がいる。

 現物を見たことはないが激しい戦闘が行われているのは理解している。親としてはそんな危険なこと反対すべきなのだろうが、なぜかあの子が戦うと言ったときそうあるべきだと思ってしまった。


 シュナイダーを拾ってきて戦う力を与えられたとか言ってたけど、多分嘘だろう。


 そう思ったら我慢できずにくすくす笑ってしまう。


「昔から嘘つくのが下手なのよね」


 思わずこぼれた言葉にまた可笑しくなり笑ってしまう。


 ──悪いことをする子じゃない!


 それだけは自信を持って断言できる。なんと表現すればいいのか分からないけど、ずっと昔から詩は詩だった気がする。


 ──幸せになって欲しい、それは昔から変わらない思い。だから今は見守ろう。ただすぐに調子に乗るからときどき怒らないとね!


 ね! の勢いを原動力に夕食の支度でも始めようかと立ち上がる。


 娘である詩を支えること、それが世界を救う小さくも大きな仕事。

「ただいま」と言われたら「おかえり」と返し、「美味しい!」と褒められれば「ありがとう」と答える。

 なんてことないやり取りでお互いが笑顔になれれば素敵な日常なんだと、そんなことを思ってしまう自分が可笑しくて里子はまた笑ってしまう。


 そう言えばそんな歌があったなと思いながら里子は鼻歌を奏でながら今晩の食卓の彩りを考える。

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