第251話:後方支援も着々と ~その2~

 女の子はテレビのCMをまじまじと見つめる。テレビに映るのは大きなウサギのぬいぐるみ。


 大きなぬいぐるみは手を振って、画面の向こうにいる女の子に話し掛けてくる。


「怖い宇宙獣からみんなを守るために力を貸して欲しいぴょん!」


 ぴょんと跳ねるウサギのぬいぐるみの名前は、日本語読みで白雪しらゆき

 彼女は猫巫女のパートナーで、今世間を騒がせている宇宙獣と戦う正義の宇宙人である。

 ぬいぐるみみたいな見た目とコミカルな動きに女の子はハートを鷲掴みされ、白雪の出る番組は欠かさずチェックする。


「みんなのお家にあるぬいぐるみを送って欲しいぴょん! 白雪はぬいぐるみが沢山あればあるほど強くなれるんだぴょん!」


 なんでぬいぐるみが沢山あると強くなれるのかは分からない。分からないけど目の前で白雪が言ってるんだから間違いない。

 じゃあ送るしかないだろうと女の子は心に決める。


「みんなの応援待ってるぴょん! 送ってくれたみんなには白雪オリジナルステッカーを送るぴょんよ」


 白雪のモフモフの手に握られたオリジナルステッカーの登場に、女の子はテレビの画面に顔を擦りつける。


「送り方は国のホームページに載ってるぴょん。分からないときはお父さん、お母さんに聞いてほしいぴょん。それじゃあよろしくぴょんよーっ!」


 手を振る白雪に頭突きをかまし、テレビを大きく揺らすと女の子は母のもとへと走るのだ。


 ──待っててね白雪。私のマドレーヌわにがあなたを救うわ!


 お気に入りのワニのぬいぐるみを白雪のもとへと届けるために、パタパタと走るのだ。



 * * *



「はーい、カット! オッケーいいよいいよ! 尚美なおみちゃん声優もいけるんじゃない?」


「えっ、そう、そうですか? アテレコの経験ないんですけど」


「本当に? なら天性の才だねこれは。今までやらなかったのはもったいないね」


 声を当てるためのアテレコの現場にいる尚美は、監督からのお褒めの言葉に喜びの表情を浮かべる。


「よし、じゃあ次いってみようか」


 喉元に手を当て小さく咳払いをすると、台本に書いてある台詞の文字に感情を込めて声へと変換する。


「みんなの応援待ってるぴょん!」


 別に跳ねなくていいのに思わず跳ねてしまう尚美に、監督はアナウンサーとは違う新たな可能性を感じていたりする。



 * * *



 全国から送られてきたぬいぐるみを運んだトラックが到着すると、フォークリフトで中にあるコンテナを下ろす。


 コンテナは倉庫に運び込まれていく。それを別のフォークリフトが運び定位置へ運搬すると解放される。

 ぬいぐるみたちはベルトコンベアに乗せられると、ゆっくりと運ばれていく。

 それらを前後で挟む作業員たちが、熟練のスピードで仕分けしていく。

 作業員たちの後ろにある仕分け用のコンテナに、すぐに使えるぬいぐるみ、修理が必要なぬいぐるみ、使えない物が分けられていく。


 すぐに使用できるぬいぐるみたちが入ったコンテナはすぐに運ばれていくと、ぬいぐるみまみれの中では目立つ迷彩柄のトラックがへと積み込まれる。


「今日はいつもより多いな」


「そうですね」


 自衛隊員の二人が積み込まれていくぬいぐるみを見つめる。


「何に使うのだろうな……」

「これなんか役に立つんです?」


 同時に呟いてしまい顔を見合わせた二人は同時に罰の悪そうな顔をする。


「宇宙獣との戦いに使うとは聞いているが、正直想像もつかないな」


「ですよね。ぬいぐるみ宇宙人の考えることは分からないですね」


 武骨なトラックが段々とファンシーに染まっていくほどに不安も積もっていくが、その気持ちが表情に出ないよう顔が段々と渋くなっていく二人の会話は続く。


 増えるぬいぐるみに不安を感じる人たちがいる一方で、テンションの上がる母娘もいる。


 詩の親友である米口美心よねぐちみこと母親の美奈子みなこはこれまで作り上げて来たアルマジロ、ヒョウ、ムササビの着ぐるみ化にいそしんでいた。


「そう言えば美心が作ったぬいぐるみで、水に住む生き物ってなんでないの?」


 チクチクと針を動かしていた美奈子が手を止め美心に話し掛ける。


「それがなんでか知らないけど水系、例えばイルカとか魚とか作っても白雪はすぐに出てきちゃうんだよね。本人もよく分からないって言ってるし私にも分かんない」


「でもシャチになったって聞いたけど、それっておかしくない?」


「そうなんだよねぇ。色々試してみてさ、例えば同じヒョウのぬいぐるみでも私が作ったぬいぐるみと市販されているぬいぐるみじゃスピードもパワーも違うらしいんだよね。もしもだよ、作り手の実力とか気持ちに左右されるとかだったら、薫ちゃんって子が持っているシャチの作り手の実力が高すぎるとか……かな?」


 美心の言葉を受け、少しだけ考えるそぶりを見せた美奈子が目をキラリと光らせる。


「そのぬいぐるみを誰が作ったか知らないけど、負けてられないわね」


「だね」


 お互い目をキラリと光らせた後、すぐに仕事に取り掛かる。先ほどよりも熱のこもった手さばきにより、白雪専用ぬいぐるみたちは着ぐるみへと進化していくのである。

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