第252話:親衛隊!? そんな名前でしたっけ?

 スリムになった分、硬くなったタコサシの攻撃は鋭さを増していたが避けられない程ではなく、私たちは避けつつ反撃の隙を窺っていう。ちょこまかと逃げる私たちに痺れを切らしたのか、タコサシがプルプルと小刻みに震え始める。


「下がれ!」


 エーヴァの声と同時に私たちは大きく後ろに下がりながら、遮蔽物を盾に出来る位置へと逃げる。


 震えていたタコサシが身を反らすと皮膚の表面が盛り上がり、全身から針を噴き出す。鋭利な先端は建物を突き抜けて周囲を無差別に攻撃をする。


「うわっ!」


 遮蔽物であった家を突き抜けて来た針を、私は朧で叩きながら避ける。エーヴァやスーたちもそれぞれ避けているのが見える。


 タコサシの体から飛び出てきた無数の針は、するすると縮んでいき元のタコサシに戻ってしまう。


 自分の体を確かめるかのように、タコサシは足を眺めた後その足を大きく凪ぎ払う。

 凪ぎ払う瞬間に針を生やし、トゲトゲの釘バッドみたいになった足で家の壁を叩き壊してしまう。


 私たちはタコサシから離れた場所に身を潜めて話し合う。


「ますます近寄れなくなった感じだね。間合いを詰めるにはシュナイダーがいない今、スー頼りだけど」


「スーの火力は一瞬なのです。決定打に掛ける今近付くのは得策じゃないのです」


「地味だが先端から切って体積を減らすしかねえだろうな。そっちの方でもイヌコロは使えるんだが、いない今はあたしが切るしかねえか」


 ミローディアを担いだエーヴァが立ち上がる。


「私がエーヴァの援護と切断の補助を、スーと白雪は切断したやつの後処理をお願い」


 敬礼をするスーと白雪の姿が可愛らしい、そんなことを思いながらも先ずは私が飛び出す。


 矢で牽制する私を見つけタコサシがピンと伸ばしてきた足は、到達前に先端に針を展開する。

 弓から刀へと変形し終えている朧は、針の攻撃を流しつつ、袖に潜ませてある直尺付きのワイヤーを数本投げ針の根本へと絡ませる。


「まっ、挨拶がわりってってことで」


 魔力を流せば直尺に描いてある『電』の漢字が光り放電する。

 弾ける火花に無数の針は一瞬硬直し、慌てて引っ込んでしまう。その期を逃すまいといつの間にか上空にいたエーヴァがミローディアを縦に振るう。まさに一閃、閃光が縦に走る。


 空気が裂け、音が消えたかのような静寂が一瞬訪れ、エーヴァが声を上げる。


「よし切れねえ! 撤退だ!」


 美しさと、力強さを持った一撃でタコサシの足は切断……とはいかず朧とミローディアをそれぞれ担いだ私たちはその場から逃げ出す。


「撤退ってなんでよ! ここは切る流れでしょ!」


「文句言うな、そもそも建物を貫く針が体から出てくるんだぞ。簡単に切れる訳ねえだろ。結構深く傷を入れただけでも誉めてもらいたいもんだ」


 文句言い合いながらも撤退する私たちを、今命名したタコサシの必殺技『ハリセンボン』が襲ってくる。


「お帰りなのです」

【なのよ】


 無数の針から逃げてきた私たちをスーと白雪が迎えてくれる。


「作戦的に方向性は間違ってない。必要な駒と武器が足りねえ」


「まあね、シュナイダーは向かって来ているみたいだから待ってれば来るだろうけど、武器って急に用意できるものでもないじゃん」


「なのです」


 私とスーの意見に、エーヴァがニヤリと笑みを浮かべる。


「それは詩のじいさんに頼んでるから問題はねえ」


「え~なんかエーヴァばっかりズルくない」


「お前も牡丹一華とか新しいの作ってもらってただろ。あたしのはミローディアベースに拡張だからいいだろ」


 私とエーヴァの間にスーが手を上げ割って入ってくる。


「スーも美心に白雪のパワーアップのお願いしたのです! それに尚美にもガチャを頼んだのです!」


「ガチャ?」

「ガチャ?」


 スーの口から出たよく分からないワードに私とエーヴァは一緒に首を捻る。


 丁度その時だった、私の耳にこの場にそぐわない爽やかな音が聞こえてくる。一般の人には聞き分けれないであろう音は、おさらく自転車のタイヤが地面を走る音。

 スーも耳を傾け、白雪は耳をぴょこぴょこ動かしている。


 エーヴァが笑みを浮かべ腰に手を回し硝煙弾を取り出す。


「あんたどこに隠してんのよ」


「お嬢様は秘密が多いんですわ。それよりタコサシに位置が特定されますからはしりますわよ」


 訳の分からない答えが返しながらエーヴァが上空へ放った硝煙弾は黒い煙を上げる。間髪入れず二発目の硝煙弾を離れた位置に上げ、更に別の場所へもう一発。


 一発目はエーヴァの位置、二発目は移動先、三発目は陽動だったっはず。私はあまり使わないけど、エーヴァは結構細かいやり取りをしているみたいで教えてくれた。


 二発目の黒い煙に向かって走る私たちに自転車の音が近付いてくる。タコサシに見つからないよう建物の影に身を隠しながら進む私たちの前に、スポーティーな自転車乗りにはそぐわない重装備を纏った集団が現れる。


「エーヴァ様! 装備品のお届けです!」


「ご苦労様」


 一人の男が自転車から飛び降りると、エーヴァに敬礼をして報告する。

 他の人たちもいつの間にか後方で並んで、ビシッと敬礼をしている。


「お褒めの言葉ありがとうございます! 早速ですがこちらをお納め下さい!」


 先頭の男が合図をすると後ろに並んでいた男が大きな鞄からプチプチエアーパッキンで梱包された物体を取り出す。


「危険な道中わたくしの装備を届けていただき、感謝いたしますわ」


「勿体ないお言葉! 『我々エーヴァ様親衛隊』、別名『対宇宙獣討伐補助部隊』感激の極みです!」


「逆! 名前逆!」


 エーヴァの言葉に感極まって、今にも涙を流さんばかりの表情で敬礼をする男たちに私の声は届かない。

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