第250話:後方支援も着々と ~その1~
半径約十五キロの電磁波による障害は、望遠レンズを使った撮影をも困難にし送られてくる映像はタコ怪獣の驚異を伝えきれていない。
そのせいか会議室に集まった役人たちに今一緊張感が感じられない。
「対策ったって、電磁波の影響で戦闘機も飛ばせないし、まして戦車による砲弾なんかも無理なんだから何も出来まいて」
大きなお腹を抱え、椅子に浅く座り背もたれにもたれふんぞり返る男が発言すると、他の役人たちも、そうです、そうですと何度も頷き同意する。
「それにだ、今回もあの子たちがどうにかするだろ。我々は住民の避難に注視すればいい」
再びふんぞり返った男の発言に周りが頷き同調する。
そんな中一人、渋い顔をしているメガネをかけた神経質そうな男が、自分の机に置いてあるスマホに送られてきたメッセージに気付いてスマホを手に取る。
彼の名は
差出人が坂口となっているメッセージを開くと、眉間のシワを一層深く刻み、ふんぞり返った男の方を見る。
「
「電力復旧? 宇宙獣が暴れるから安全の為に電力を遮断したと聞いてるが。復旧してどうなる?」
「宇宙獣を倒せるそうです」
少しバカにしたようにあざ笑いながら尋ねる芥に対し、淡々と答える市川を見て鼻を鳴らして笑う。
「それに、ここで防衛省として動けることを見せておいた方が良いかと」
「ちっ、宇宙防衛省のやつら前線はこっち任せなのに、
芥の言葉に立ち上がり、了解の意味を込めたお辞儀をする市川に芥が指差す。
「
宇宙防衛省、副大臣である小笠原の名前を聞いて、市川はもう一度頭を下げ了解の意を示すとドアを開けて部屋を出る。
廊下に出た市川がスマホを耳に当てると、もう一つ別の端末を取り出して操作を始める。
「坂口くん、許可は出た。変電所? ああ壊れるだろうね。今更何を、大体一回目の停電だって猫巫女のせいだろ? それも怪獣がやったことにしたんだ、次も怪獣のせいにすれば良いさ。理由? ここは日本だ。怪獣の知識は無駄に多い国だからね、電気を使う怪獣だとでも言えば信じてくれるさ。
これまでが地味過ぎたからね、むしろ喜んで怪獣のせいにしてくれる」
端末で各所にメールを送りながら電話先の坂口と話していた市川の手が止まる。
「そうか分かった。それも伝えておこう。今は君たち宇宙防衛省の方が話も通しやすいだろう、任せた」
通話を切った市川が暗くなったスマホの画面を見つめるとメガネのズレを直す。
「タコサシ……か。相変わらず猫巫女のセンスは分からないな」
僅かに口角を上げ笑みを浮かべると、別の場所へ電話を掛ける。
* * *
戦争をしない前提の国である日本において、武器を作る行為を許されるのは例外中の例外。
本来は喜ぶべきことではないが、孫娘とその親友が求める武器はどれも現実離れしていて、製作者側としての心をくすぐる。
機械など電気系を使わない機構を組み上げ形にしていく喜びは職人ならではの感情だろう。
詩の祖父である
なんと美しい曲線美だろう。目がそう語っている。
前回作った巨大な盾は、音響と重い一撃の面では優秀だったが、持ち運び面では大きな課題を残している。
課題……これまた感嘆の響き。
問題や疑問点、不便性があるということは伸び代があると言うこと。まだまだ可能性を秘め、自分が手を掛けなければいけないことに哲夫は喜びを感じる。
漆黒の盾はエーヴァから受注されたもの。魔力と言う未知の力を利用して動かす機構を考える。こんなことが出来る自分はなんと幸せなのかと、この世で人の為に役に立つ道具を作れ尚且つ未知の技術を要求されることに喜びを噛み締める。
「おやっさん」
「ん? なんじゃ?」
哲夫に話し掛けたのは細身ながらも筋肉質な若者。彼は最近、哲夫の経営する町工場で働いている青年だ。
物覚えもよく細かい気配りも出来る彼は、かつてサルに町が襲われたとき、二本の刀を扱う少女と大きな鎌を振るう少女それぞれに救われ、彼女たちの振るう武器の造形と機能美に心を引かれ、自分も制作に関わりたいと哲夫のもとへ訪ねてきて弟子入りしたのだ。
若く将来有望な彼との出会いに、廃れていくだけだった自分の町工場に光をもたらしてくれた、孫娘と親友に感謝する。
そんな喜びを胸に秘めつつも、それを悟られまいと眼光の光量を上げ(本人比)鋭くして青年の方を向く。
「お客様がきてます。依頼主が注文の武器を送って欲しいと」
青年の後ろにはエーヴァのお世話係りであるアラの姿があり、哲夫と目が合うと深く頭を下げる。いつもは、ほんわりとした雰囲気のアラだが、今はキリっとした目で哲夫を見る。さながら仕事モードといったところだろうが、どこか柔らかい雰囲気を隠しきれていないのは彼女の良さと言ったところだろう。
「お嬢様がご注文の品を使いたいとおっしゃっています。可能でしょうか?」
「もちろんいけるとも」
自信満々な笑みを浮かべる哲夫の表情にアラも、ホッとした様子で笑みを浮かべ頷く。
「そうと決まれば、エーヴァちゃんにすぐに届けんとな。
「はいっ!」
太一と呼ばれた青年は切れのいい返事をすると、有事の際に連絡を取る通信機のある場所へと向かう。
哲夫の作る物が凄いのはもちろん、それを前線で求められる。こんなカッコいいことがあるだろうかと、太一は哲夫のもとに弟子入りして良かったとウキウキで工場を走るのだった。
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