第249話:滑る一方で強固になるものもある

 頭(※1)に突き刺さったハルバードの衝撃で、僅かに前のめりになるタコサシが頭を起こす前に、ふわっとハルバードの柄に降り立ったエーヴァが口に付けた楽器を見て、私とスーは急いで耳を塞ぎ、白雪は長い耳を畳む。


 いつもの銀色のフルートとは違い、本体は黒く高貴に輝くその楽器はピッコロ。フルートの仲間だが……と解説する間にも耳を塞いでていても突き抜ける高周波に耳がキンキンする。

 管楽器の中で最も高い音を出せるピッコロの音色は、エーヴァの魔力を受け切り裂くような音を響かせる。


 私たちに向けて放ってなくても耳が痛いのに、頭に刺さったハルバードを通じ体内に直に高周波を流しこまれるタコサシのダメージは相当なものだと思われる。


 それを証明するかのように、目や、頭と顔の隙間などから青の混じった液体を幾度も噴き出す。


 ただタコサシも大人しくエーヴァの演奏会に付き合うつもりはないらしく、巨体を強引に動かし自分の体ごと近くの家へ突っ込みエーヴァを押しつぶしにかかる。

 豪快な破壊音が響き、破壊された壁の破片と埃が派手に舞い上がる。


 そんな破片の隙間を鋭い光の線が走るとタコサシの頭に亀裂が入り液体が吹きあがる。自ら立てた埃のせいで視界を失い、目を必死に動かすタコサシのこめかみにミローディアが突き刺さるとそのまま切り上げられる。

 目を見開くその頭にスーと白雪の蹴りが落とされ、地面に顔面を鎮める。さらにその上から私が放ったワイヤー付きの蕾が脳天へと突き刺さる。


『回』の漢字を光らせ回転を始めた蕾をタコサシの体の中へと突き進ませる。牡丹一華ぼたんいちげの先端が肉を裂く振動から、タコサシの肉の硬さが伝わってくる。


 足よりも筋肉質ではないが、その分厚い肉に阻まれ先端の回転が止まってしまう。


 それにタコサシだっていつまでも倒れているわけではない、私はワイヤーの先端から手を離し、牡丹一華を捨てると弓状の朧に持ち変え矢を引く。


 巨体を豪快に起こし家をぶち破り道路に出たタコサシに雷の矢が突き刺さる。額辺りに放電された電気が走り、僅かにのけぞったところをスーと白雪の掌底が決まる。

 先ほどエーヴァがつけた眉間の傷から青白光を放ち大きくのけ反ったところに、鉄板が突き刺さり、鋭いホイッスルの音が鳴り響く。音の衝撃に弾けた眉間に私が別に持っていた牡丹一華を放ち眉間に蕾で傷を掘り進める。


 痛みから逃げるため体を大きく捻り、数本の足で薙ぎ払うタコサシの攻撃を私たちはそれぞれ避ける。


「ったく、体がデカすぎてダメージが薄いんだけど。エーヴァならあれくらいスパッと切れるでしょ?」


「あんなでかいもの切れるか。深く傷つけただけでも褒めてほしいもんだ」


「でもでも、前世では大きいヤツもバシッと切ってたのです」


 手を大きく広げ手刀で「切ってたのです」とジェスチャーをするスーを可愛いと思いつつ、後ろでスーに向かって拍手している白雪の存在に突っ込むべきか判断に迷ってしまう。


「前世ならいけたかもな。でも今はそんな力もねえ、か弱いお嬢様なわけよ」


「……」

「……」

【……】


 三人とも「どこが?」と言う言葉を飲み込み黙る。


「……おい、なんか言えよ。あたしが滑ったみたいになってるじゃねえか」


「いや実際……」


【かなり……】


「滑ってるのです」


 一人じゃ言えないから三人で順番に答えると、エーヴァが眉をピクッと動かしたところでタコサシの薙ぎ払い攻撃が襲いかかる。


 散開しながら、タイミングよく攻撃してくれたタコサシに感謝をする。

 さっき私が切り落とした足も再生されたようで、八本の足を振り回すタコサシの攻撃を私たちはそれぞれ避けていく。


 スーと白雪は素早く避けていきつつ足に突きや蹴りを叩き込んでいく。

 私は避けつつ物陰や朧を使いいなしながら攻撃を避け、足を斬ったりする。


 対してエーヴァは、ミローディアを使っていなすというよりは、カウンター気味に鋭い一撃を加え、攻撃の軌道を変え避けている。

 それのどこがのか、聞きたいとか思っていたら目が合って睨まれる。


 慌てて目を反らしつつ、タコサシの攻撃を避けていく。


「て言うか、なんか足増えてない?」


 幾度も攻撃を避けつつ、反撃を繰り出そうと間合いを詰めるはずが、段々とタコサシの体から離れていくことに疑問を感じよく見れば、足が増えていて、少なく見積もって十数本はあることに気付く。


「まあ、宇宙獣の足が八本って決まりはないからな。でも足が増えた分細くなってるし切りやすくなってるんじゃないか?」


 私の問いに答えたエーヴァが、襲いかかってきた足にミローディアの斬撃を加える。

 キンッと音がしたタコサシの足は切れることなく弾かれ、建物の壁にぶつかるがすぐに私たちに向かって襲い掛かってくる。


「細くなった分、引き締まってかてえな」


 ミローディアを担ぎながら避けるエーヴァから感想が述べられる。


「あんまり硬いとタコ刺しにもタコ焼にも向かないね」


 食材としての魅力をどんどん失っていくタコサシに、スーも目をバッテンにして悲しんでいる。


「お前らあれを食う気か? 正気とは思えねえぞって……ん?」


 私たちに向け散々な言いような言葉を並べる途中でエーヴァが黙り、タコサシを睨む。


 私も視線を寄越すと、相変わらず足を振り回すタコサシの本体がプルプルと震えているのが見える。


「あ、これなんか来るやつだっ」


 前世からの直感、これがかなり当たるんだよね。



 ※1 詩がタコの頭と呼んでいる部位は実際は胴体になります。

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