第246話:ある意味名前を全否定

 宇宙人に寄生された生物が巨大化するのにはもう慣れたが、こんなに大きくなるものだろうか。私はビルの高さほどあるタコを見上げながら感心してしまう。


 宇宙人の目的が地球侵略なのか、人類滅亡なのかは知らないけど、こうも大きい生き物に好き勝手暴れられるのは迷惑でしかない。


「さてと、まずは電気を流してみるとしますか」


 二本の刀の形に変えた朧を構えながらタコを見つめる。


 スーパーで見かけるタコが赤いのは、茹でられているからだと言うのは私も知っている。元の色が茶色っぽいのかは知らないが、あんまり美味しくなさそうなのは無駄に大きいからなのか、はたまたこの個体の魅力不足なのか。


 電気を流すとか言いながら朧に火を纏わせるのは、茹でてみたい好奇心からなのかもしれない。

 道路を我が物顔で這いずってきた大きな足を避けつつ、すれ違い様に切れ込みを入れる。そう大きすぎて切れ込み程度しか入れれなかった。

 しかも見た目柔らかそうなのに、肉厚なのか思った以上に傷が浅い。


 だがここで、傷口にワイヤー付きの直尺を突き刺し予定通りに電流を流す。


「あんまり効いている気がしないなぁ……」


 電気が流れてピクっとでも反応してくれればやりがいを感じるのだが、傷口がグズグズするだけで本体の方は平気そうな顔をしている。


「むぅ~サクッとさばいてタコ刺しにしてやろうと思ったのに。んっ!?」


 私は朧の先端をタコに向ける。


「あんたの名前! タコサシに決めた!」


 我ながらいい名前を閃いたと弾む心を胸に、迫りくるタコサシの足を横に跳ね避ける。


 大きい分避けるための距離は必要だが、攻撃は見切りやすくなる。避けた先にあった家の壁に足をつけ、朧を弓に変え氷の矢をつがえ放つ。


 氷の矢は真っ直ぐ飛びタコサシの足の付け根辺りに突き刺さる。だが、視力の上がっている私の目で見ても、皮膚の表面に小さく氷が張ったのがギリギリ見える程度。効果がないのは明らかだ。


 大きい分こちらの攻撃が効かない。この大きさだと落とし穴に落とすことも難しいし、内部から凍らせるにも私の血が足りなくなる。世の中うまくいかないものだ。


「ダメージがないのも問題だけど、そもそも距離が遠すぎて攻撃が失速するしなぁ。もうちょっと近づきたいけど一人だと厳しい気もするし」


 私の魔力を感じ来てくれるであろう仲間たちの到着を待ちつつ、家の壁を豪快に破壊しながら凪ぎ払われるタコサシの攻撃を飛んで避ける。


 空中に浮いた私を絶好の的とばかりに、別の足が襲いかかってくる。


 草履に描いてある『風』が光り、右足を空中に着けると風の波紋が広がる。宙を足場に方向転換して、襲ってきた足を避けるとそのまま一閃叩き込む。


「空中で方向転換出来るのがうちの犬とスーだけと思ってもらっちゃ困るねっと」


 タコサシの足に付いた傷口に炎を叩き込む為、宙に左足を着けつつ『火』『弾』を描き『火弾』を放つ。


 火弾が着弾し傷口からちょっぴりだけ上がる煙が逆にむなしさを感じさせる。


「全然効いてないや。やっぱ本体にダメージを与えないといけないよねぇ。かく乱すれば近付ける?」


 私はタコサシに視線を向けたまま上に向かって話す。


「近付くことは出来るだろうが、致命傷を与えるのは難しいだろうな」


「じゃあさ、前にジラントの口から入って内部から切ったんでしょ? あれやってよ」


「お前なぁ……」


 頭上にいるシュナイダーをタコサシの体の中に入れて、内部から八つ裂きという完璧な作戦を立てるが意外なところから『待った』が入る。


「鞘野さん! タコの口は鋭くて獲物を噛み砕くからシュナイダーが危ないよ。あれは蛇が獲物を丸呑みするから成功したんだよ」


 そう、シュナイダーの背中に乗っている宮西君からの『待った』である。


「なんで宮西君をこんな危ない場所に連れてくるのよ。そもそもあんた、背中に男を乗せない主義じゃなかったの?」


 上に向かって文句を言うが、答えるのは宮西君である。


「僕が連れてくれってお願いしたんだ。シュナイダーを責めないであげて。それよりあのタコだけど」


「むぅ……。タコサシがどうかしたの?」


「タコサシ?」


「あいつの名前だけど」


 宮西君がシュナイダーを庇うので文句を言えない私は、タコサシを倒すことを優先すべくヒントを得られそうな宮西君との会話に集中することにする。


「鞘野さん!」


 私を呼ぶ大きな声に、この状況を打開する何かを思いついたのかと期待を持って耳を傾ける。


「あれはヒョウモンダコ。あいつには毒があるから食べちゃダメだよ! 触るのもダメだよ! あぶないよ!!」


 どうでもいい情報が傾けた耳に入ってくる。

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