第247話:乙女心としてはアイツを殴りたいわけです

 今からタコサシと殴り合いをしようと言うのに、宮西君のアドバイスは「触ったらダメ!」なわけだ。

 しかもなんかヒョウモンダコは近年海温の上昇と共にぃ~とか長そうな説明が始まる。


 全力で抗議案件である。


「──だから、あれをタコ刺しにして食べるのはダメだよ!」


「宮西くんはタコ刺し嫌い?」


「えっ? あ、いえ、そんなことはないけど……」


「あんな大きなタコを見て、タコ刺し食べたいなぁと思うのは自然の摂理だと思うんだ。宮西くんは──」


 ここで私の記憶の中にある美心がひょっこり出てきて耳打ちしてくる。


 ──宮西の知識って役に立つじゃない? でもあいつすぐにテンパって訳の分からないこと言うでしょ。無駄に長い説明とかし始めるじゃん。

 あれは乙女心が分かってないのよ。だから『お前は乙女心が分かってない!』って言ってやれば効果バツグン!


 特に詩が言えばね(小声)


「宮西君は、私があのタコを殴りあわよくば勝利の暁には、今晩の御飯のおかずをタコ刺しにしてもらいたいなぁ~って言う私の乙女心を理解していないよ」


「お、乙女心っ!?」


 美心のアドレスの通り『乙女心』に反応する宮西君、それと同時に持つべきものは友だと確信する。

 シュナイダーが何か言いたげな顔をしているけど、どうせろくでもないことだろうから触れないでおく。


「私はアイツを倒したいの。毒があるのは有益な情報だけど倒す策を考えて欲しいわけ」


「そ、そうだよね。ヒョウモンダコの詳しい説明をしている場合じゃないよね」


 膝を叩いて考え始める宮西くんに、何らかの打開策を出してくれるのではと期待を込める。じっと見る私をチラチラ見ては視線を逸らし、ソワソワしているのはプレッシャーを与え過ぎたかもしれないと反省してタコサシの方を見る。


 ちなみにタコサシは、乱入してきたシュナイダーと宮西くんと私のやり取りに警戒しているのか、それとも何をするのか興味があるのかは分からないがじっとこちらを見ている。


 なんとも空気の読める敵に感謝の気持ちを送り、ちゃんと討伐するよと胸に誓う。


「あの、鞘野さん」


「ん?」


「ごめん、僕だけじゃ思いつかないや。坂口さんとか他の人にも相談してきてもいいかな? もし自衛隊の人たちの力を借りれるなら一旦戻った方が良い案が出せると思うんだ」


 申し訳なさそうに言う宮西君だが、言い方からなんらかの考えはあるんだと思う。妙案が更に発展する可能性のために一旦下がるのなら、前線の人間は信じて待つのみだろう。


「分かった。ここは食い止めとくから宮西君は坂口さんたちのところへ戻って」


「なるべく早く考えてどうにかするから。申し訳ないけどここは鞘野さんにお願いするよ」


「うん、任せて! 宮西君、期待してるからね!」


 タコサシを討伐する意気込みからなのか顔を真っ赤にする宮西君と、しかめ面で鼻をむずむずさせくしゃみをするシュナイダー。


「そうと決まればとっとと戻るぞ」


 鼻をズビズビ鳴らしながらシュナイダーが空中に足を掛け走る体勢を取る。


「お~けぇ。丁度いい具合にもう二人来てくれたし」


 私が朧の先端を向けると、向けられたタコサシも空気を読んで体に力を入れ身構える。


 そしてビルを伝ってやってきた気配が上から降りてくる。


「お前を倒して今日はタコパなのです!」


 たこ焼きを口にほおばりながら爪楊枝の先端を向けつつ宣言するスーと、たこ焼きの乗った舟皿を手に構える白雪のコンビ。


「だからあのタコは食べちゃ──」


 宮西君は言いかけた言葉と、困った顔のインパクトを残しシュナイダーに連れて行かれるのである。

 そして私以上にタコサシにかぶりつきそうな勢いのスーの登場に、タコサシの瞳に警戒の色が宿る。

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