第242話:不毛な議論で実るものもある
ずいっと口元に寄せられるマイク。正確にはお面の口元だが。
周囲の記者たちは私からちょっと距離を取っているのは恐れからなのか、私のお面にマイクをぐりぐり寄せてくる尚美さんの放つ圧なのか。
「さきほど討伐成功したと情報が入ってきました。お疲れ様です! 今回は虎の姿を模した宇宙獣でしたが、私どもの方からも虎が姿を変えて襲ってくる姿が確認できました。
討伐には苦労しましたか?」
「最初虎から猿が生えてきて、蜘蛛みたいになって、最後はまん丸モグラになりましたが、自衛隊の人たちの協力のお陰で無事討伐できました」
「相手は多彩に変化してくるのですね。その変化に惑わされず、結果を残す猫巫女さんを尊敬します」
「いえいえ~、被害を最小限に押さえつつ結果を残せたのは、地球の皆さんの協力あってこそですよ~」
「謙遜されますね。猫巫女さんの活躍は大きいと思いますよ。それでは最後に何か一言お願いできますか?」
「はい、私も含め進化とは本来緩やかに、そして多彩に行われるべきことです。急激な進化は脅威ではありますが脆くもあると思います。
この宇宙人との戦いを必ず終わらせますので、地球の皆さんも協力してもらえると嬉しいです!」
「なるほど、宇宙獣が得意とする急激な進化は裏を返せばウイークポイントになると。勇気づけられる言葉をありがとうございます」
「どもっ、それじゃあ、じゃあねぇ~」
尚美さんが頭を下げたのを切っ掛けに私は手を振ると、地面を蹴って素早くその場を去る。後ろから「おぉ~」と感激の声が漏れるのがくすぐったく感じる。
* * *
「60点!!」
「えぇ! もうちょっとあるでしょ」
テレビに映し出される猫巫女のインタビュー映像を見たママの評価が下される。
「ぼ、僕は100点だと……思います」
「でしょ! でしょ! ほらっ宮西君は100点だって! そうそう、最後の急激な進化は~ってヤツ宮西君が言ってたこと参考にして言ったんだし、知的な感じがしない?」
「なにっ? ちょっと君、話がある。こっちに来なさい」
「えっ!?」
私が宮西君の手を引っ張ってママの前に出すと、顔を真っ赤にして頭をペコペコ下げる。そんな宮西君の腕をパパが掴み連れ去って行く。
顔面蒼白な宮西君がリビングからフェイドアウトしていく姿に一瞬心配したが、今はママとの会話が優先である。
「美心、衣装の赤、お面の色に寄せて朱を強めにした方が良いんじゃない? それに白い生地はもう少し白くした方がメリハリがつくと思うんだけど」
「う~ん、白い生地を保つのが難しいんだよね。確かに詩の鮮血を映えさせる為にも白さは必須だし」
美心親子が私の衣装について熱く語っているのが聞こえてくる。ここは私の家のリビングで猫巫女の正体を知る人たちが集まって思い思いのことを語っている。
ちなみに私はママよりインタビューの内容についてダメ出し中である。
「そもそも喋り方が軽いのよ。もっとビシッと喋りなさい」
「えぇ~、元々こんな喋り方だし、あんまり硬い喋り方だと親しみにくいって尚美さんも言ってたよ」
「もっとしっかり喋らないと、ママは詩のあの喋り方ですぐに分かったもの。正体を隠したいならもっとしっかりしなさい」
前世で戦いを終え今後の為に反省会をすることはあったが、喋り方がどうとか衣装がどうとかを話し合ったことはない。これが次の戦いに生かされるかといえば多分あんまり関係ない。
だけど、なんだか楽しい。戦いが進むにつれ苦しくなっていく感覚、敵を追い詰めれば追い詰めるほど自分も疲弊して余裕のなくなる感覚。
だけどもそれが今は感じれない。
「ちょっと詩、聞いてる?」
「聞いてるよ。最後の締めに『じゃあねぇ~』はないだろうってことだよね」
戦闘に関しては不毛な議論かもしれない、だけど私の心は満たされる。この楽しい時間を胸に頑張ろうって思えるのだ!
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