第240話:玉兎の本気(大体95%くらい)
宙に身を置き、顎を上げた白雪の喉元にはファスナーの持ち手がキラリと光る。
これは初めからあったわけではない。前回の戦いで傷を負った白雪は、美心に直してもらう際、スーと白雪の力の出し方について模索したその結果がこのファスナーに込められている。
白雪がファスナーを下ろすと中は空洞であり、内側に光沢のあるウサギのキャラがプリントされた生地が見える。お腹の下の方、人で言えばおへそ辺りまで開いた白雪に縞タイガーを踏みつけ飛び上がったスーが足を突っ込む。
白雪の手が伸びスーの腕をすっぽり包み、ウサギの手になったスーがファスナーを上げる。
服は着る側だけが動かなければいけないが、着られる側である白雪も伸びて自ら着られるので一瞬で着替えは終わる。
スーは白雪と密着度が高いほど前世に近い力が出せる。今まで背負っているときに力を発揮していたが、ほぼ全身に白雪を身に纏うスーはその比ではない。
そう、今のスーはウサギの着ぐるみを着る、着ぐるみ少女となっているのだ。
白雪は伸縮のある素材に変更されており、白雪の顎辺りから顔を出すスーの顔は真剣だが、ウサギの着ぐるみ少女はただただ可愛らしい。
空中から地上へ青い閃光を引き地面に当たる瞬間、地上スレスレで光が弾けると縞タイガーへと向かう。
光に驚きハサミを振るうが、ジグザグに光が弾けながら駆け抜け、縞タイガーの鼻下を蹴り上げる。
地面を焦がしながら回転し右手で裏拳を頬へ入れると、縞タイガーの皮膚が弾ける。流れるように傷口に力を込めた左手の掌底がヒットし顔面の三分の一程度が吹き飛ぶ。
再生どころか横向きにのけ反った顔を戻す時間も与えられず、白ウサギは縞タイガーの周囲を跳ねまわる。
ハサミは砕け、羽は根元からちぎれ、オケラの脚は関節部分から吹き飛び、体中にヒビが入り傷口に魔力がねじ込まれて爆発する。段々と体が小さくなっていく縞タイガーを私とエーヴァは見守っている。
「着ぐるみの見た目に反してかなりえぐい攻撃だよね」
「まあな。時間は短いがあの状態ならスーが一番強いしな」
「ん? なんか気になる感じ?」
エメラルドグリーンの瞳に青白い光を映しながら呟くエーヴァは、何かを考えているようで気になって尋ねる。
「あ、いや。前世に近い力が出せてるなって思ってな」
「ふ~ん。まっ、今は目の前に集中するとしますか」
私が視線をスーに戻すと、着ぐるみ少女は宙に足をつけると光が弾け、青白い火花が散らしながら空中で起動を変え縞タイガーへ攻撃を繰り出し解体していく。
シュナイダーの『
一番の違いはシュナイダーが線を重ね、高速で切り裂くことに対して、スーは臨機応変に動き、攻撃方法を変えていくことだろう。
スーのスピードについていけない縞タイガーが、がむしゃらに振ったハサミの下部を左側から蹴ると、ハサミ本体は右へと流れる。
宙を蹴り一瞬で右側面に回りこみ上部を蹴る。左右の上下をそれぞれ蹴られたハサミは正面から見て、反時計回りに回転する力が発生する。
高く飛び上がり、空中で体を勢いよく回転させながら落ちるスーが手を伸ばし、ハサミの回転方向へと更なる力を加える。勢いをつけられ、関節部分を中心に反時計回りハサミは回転し引きちぎれる。
引きちぎったハサミが地面に落ちる前に、地面を焦がし移動したスーが、ちぎれた傷口に掌底が打ち込み魔力を打ち込むと、内部に光が走り皮膚が裂けていく。
体内から破壊され朽ちていく体を再生しようと、蜘蛛糸を背中側から吐き出し木に結び付け体を引っぱり逃げようとするが、スーの手刀が糸を切断しそれを許さない。
糸が引っ張る力を突然切られ、背中から地面に転がってしまう縞タイガーの虫脚が吹き飛ぶと、スーが腹部に掌底を打ち込む。
縞タイガーは掌底の衝撃で体を大きく揺らし傷口からは青白い光が一瞬漏れる。右手で打ち込んだ掌底は腹に触れたまま、スーが魔力を高め青白い光を纏い縞タイガーの内部に連続で魔力を打ち込んでいく。
撃ち込まれる度、縞タイガーの体は激しく揺れ傷口から連続で漏れる光が、徐々に勢いを増していくことから内部の破壊が進んでいるのだろう。
右手で魔力を打ち込みつつ、左手に力を溜め光が立ち昇る。光る左手を静かに右手の甲に重ねると両手を添えた状態で魔力を流し込む。
『
静かに告げられた技は連続で流し込むではなく、大きな力を溜め放出を繰り返す杭打機のように魔力を打ち込む。外から見えないから何が起きているか理解しにくいと思うが、分かりやすく格闘ゲームで表現するなら今現在、四〇ヒットくらいだろうか。
とか思ってる間にヒット数は八〇超え、多段ヒットでズタズタになった縞タイガーに向かって足を一歩踏み出したスーが今一度両手に力を込める。
『
スーの両手から一際大きな光が真横に走ると、縞タイガーの体に大穴を空け、残光が内部から浸食し肉体が消し飛ぶ。
魔力で焼け焦げた大地に、両耳をピンと立てたウサギの着ぐるみ少女が一人立つ。
圧倒的な力を放つ着ぐるみスーに、可愛さと暴力の共演の極限を垣間見た気がする。
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