第238話:四人の思いは重なる!

 木々の間を走りながら逃げの一手を余儀なくされる縞タイガーを観察する目は、瞬きすることなくこの様子を記録する。赤く光る瞳には心なしか落胆の色が見える。


 空気の揺れと共にふわりと黒い影が宙を舞うと赤い瞳はそちらを熱心に見つめる。


 木を蹴り舞う黒い服を着た銀髪の悪魔は、アラクネの姿をする化物の背を斬り、慌てて盾を構える縞タイガーの盾に着地すると、盾の下からミローディアを切り上げ腹部に刃先を突き立てる。

 そのまま刃を引き、盾の上で回転すると振り下ろされる剣を弾きサルの鼻先を切り裂く。


「扱いが雑だな。武器が一長一短で使えるようになるなんて思ってないだろうな」


 地面に降り立ったエーヴァが構えるミローディアに映る縞タイガーの表情には焦りが見える。


 エーヴァがミローディアを持つ手に力を入れると、カチッと音を鳴らし縞タイガーが身構える。ミローディアの刃先の動き、エーヴァの動きを注視したそのとき木々の隙間を飛んでくる物体に反応した縞タイガーが大きく後ろに下がる。


 地面に刺さった風の矢は渦を巻き土を抉りながら消える。


 下から振り上げられるミローディアの斬撃を顎を削りながら避けた、縞タイガーの蜘蛛の足にワイヤー付きの直尺が巻き付き引っ張る。足を取られ踏ん張る縞タイガーを四方八方から飛んできた直尺が襲う。


 盾と剣を身構える縞タイガーに対し、口角を上げ微笑むエーヴァが指を鳴らすと真っ直ぐ飛んできた直尺が空気に弾かれ軌道を変え、盾と剣の隙間を縫って体に突き刺さっていく。


 直尺が刺さったと同時に繋がるワイヤーを伝って電流が流れる。身を低く下げたエーヴァが振り上げ放った斬撃の閃光が円を描くと、体を焦がし煙を上げ後ろに体を反らす縞タイガーの盾と剣ごと腕が飛ぶ。


 それと同時に空気を切り裂き飛んでくる先端が針のように細く尖っている円すい状の物体。無数のそれらは回転しながら針状の先端を縞タイガー体に突き刺すと円すい部分が広がり傘のような形状を取る。

 よく見ると何枚もの板が重なり円を形成しており、板の片側に刃がついている。傘でいう柄の部分はワイヤーで、森の奥へと伸びている。


 縞タイガーとは反対側、板の背中側で『回』の漢字が光る。


『回』は空気を回し渦を描いて縞タイガーに刺さっている小さな傘ごと回転させる。身を削りドリルのごとく身に食い込んでいく傘は、板を重ねた形状から血しぶきを回転させ、それは小さな花のように見える。


 肉に食い込み内部を削り進むそれらは、縞タイガーの体に無数の花を咲かせ、一瞬だが真っ赤な花畑を広げる。


 天から青白い光が落ち赤い花畑を切り裂く。


 青白い光は体中に出来た傷から侵入し、内部を破壊しつつ進むと行き場を失い他の傷口や皮膚の弱い場所を突き破り放出する。


 サルの上半身は吹き飛び、ズタズタになった蜘蛛の体を倒す縞タイガーから離れた場所に、手を繋いで降り立つスーと白雪。


 ミローディアを構えるエーヴァの横に、降り立つのは猫巫女こと詩である。詩はワイヤーを引き傘状の先端を引き寄せ摘まむ。


「自分で言うのもなんだけど、これ結構エグイね。国の認可が下りて宇宙獣との戦闘に刃物を使ってもいいってなったから作ってもらったけどさ」


「風車みたいに回してこれが今世バージョンの風の花だぁ~、アネモネだぁ~って喜んでいたヤツの言うことか?」


「むぅ~、だって今はさ発動させるのに色々制約が多すぎてさ、前世みたく風の弾を放って渦を巻かせるとかできないんだもん」


「どっちみち、戦闘中に花を咲かせてみようって思考があたしには分かんねえがな。それよりくるぞ」


 詩たち四人がそれぞれが身構える。


 地面が盛り上がり破裂すると蜘蛛の体を吹き飛ばし現れるのは、花のよう広がった鼻先と土を掘るための大きく鋭い爪。それはモグラのような外見をしているが背中に虫の羽があり、顔がトラ寄りの珍妙な生物の姿をしている。


「ようやく本体のお出ましってとこかな? 地上と地下に体を分けるとか本当に進化の方向無茶苦茶じゃん」


「戦闘の途中で地下にも音が移れば、本体移したのバレバレだっての」


「鼻先がうねうねしてて気持ち悪いのです」


【土に潜るなんて、この子トラのプライドのないのかしらん】


 言いたい放題の四人に囲まれ星花モグラベースとなった縞タイガーが前足の両肩から、ザリガニのハサミを生やしたことで四人の思いは重なる。


 ──そんなの生やしたら地下に潜れないじゃん! 

 ※語尾はそれぞれ(だろ・なのです・【のよん】)

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