第237話:猫巫女は座して待つ(座ってないけど)

 多くの報道陣に囲まれて私は腕を組み、設置されたモニターを見つめる。


 上空三〇〇〇メートルから撮影された映像だと映像が荒く、細かいことは分からないけど、スーとシュナイダーが縞タイガーを追ってエーヴァが戦闘を始め、縞タイガーがどんどんわけの分からない姿に変わっていってるのはなんとなく分かった。


 事前に縞タイガーが潜伏してそうな場所にアンテナを張り、電波の送信が消えた場所へ私たちが乗り込み先制攻撃を行う。

 単純だけど効果的な戦略。そして私たち四人が縞タイガー追い込みつつ進化の限界を探りつつ討伐へ向けていく。


 そして私たち、主にエーヴァとスーの実践での実験も兼ねている今回の戦闘。

 エーヴァはある程度満足したのか、私に魔力で『合流地点へいくぜっ!』ってリズミカルに伝えてくる。リズムから結構楽しんでるのが伝わってくる。


 私は腕を組みつつモニターを見ていたが、チラリと隣にいて同じくモニターを眺める宮西くんを見る。


「あのさ、あれどうやって倒したらいいかな? サルと虎と蜘蛛がまとめて苦手なものとかない?」


 小声で話し掛けると、モニターを凝視したまま、顔に汗をだらだらかきはじめる。


 この度、猫巫女アドバイザーとして宮西くんを連れてきたわけだが、彼は終始唸っている。


「そう……だね。弱点ってわけじゃないけど進化ってトライ&エラーの積み重ねと、運が混ざった終わりのない生物の戦いだと思うんだ。

 この縞タイガーのはこれからを生き抜くための進化じゃなくて、今だけを勝ちたい為に考えた、いわゆる『僕が考えた最強の自分』で、未来を見据えてないその場しのぎのものだから」


「正当に進化してきた者達には勝てないと。仮に勝ったとしても未来はないってことかな」


「あ、いや、鞘……猫巫女さんが負けるって意味じゃないんだけど……」


「『絶対』なんて言葉はないんだよ。まあ、負ける気はないけどねっ」


 自分で言いながら前世の記憶が過る。そう、これは私に向けてある人が言った言葉。


 ──『絶対』なんて言葉を使えるのは『絶対』って言葉だけなんだ。だから勝利も敗北も決まってないんだよ。


 思い出してその言葉を使った自分に思わず笑ってしまう。


「え、えっと。つまり絶対なんてないから油断してはいけないってことだよね。あ、でも絶対負けるわけでもないから、絶対の打消しはどっちにもかかるわけで……えっとだから、勝利も敗北もまだ決まってないから……」


 前世の誰かと同じことを言い出した宮西くんに、私が驚いた後笑ったのがお面越しでも伝わったのかもしれない。私が笑ってる理由が分からず慌てふためく宮西くんに対しひとしきり笑った後、


「なにそれ、結局どっちでもないじゃん。意味わかんないしっ」


 あの日と同じセリフを返す。


 まだ笑う私をキョトンとした目で見る宮西くんの後ろから、尚美さんがにゅっと顔を出してくる。


「なんだか楽しそうね。楽しんでるとこ悪いけど猫巫女さん準備できた? そろそろ会見したいんだけど」


「あ、大丈夫です。それじゃ行ってくるねっ。宮西くんは猫巫女さんの活躍を期待して待ってるように!」


 すれ違い様に宮西くんの肩をぽんと叩き手を振って宮西くんと別れ、尚美さんと一緒に歩いて行く。


「いいなぁ~」


「何がです?」


「さあ? なんでしょ?」


 終始ニヤニヤしている尚美さんに案内され着いた先には多くの報道陣が待ち構えていた。猫巫女としてただ戦うだけでなく、自称宇宙人として地球人に対し「安心してね」とメッセージを送るのも仕事だったりする。


 簡易的に作られた記者会見の会場へ入ると、一斉にカメラのレンズが私を向き、フラッシュが光りマイクが突き出される。


 そして一斉に質問してくるのを捌くのは、坂口さんを始めとした宇宙防衛省の人たち。私が無難に答えられる質問を拾って、投げ掛けてくれるだけでなく記者との間を保ってくれるため身を挺して守ってくれる。

 坂口さんの後輩の小椋おぐらさんなんかは記者に押され、ひぃひぃ言いながら頑張ってくれている。


 ちなみに尚美さんは私が地球に来て初期のころから接触してるので、信頼できる人物だとして特別に接触できる特別扱いなのである。

 宮西くんの存在は一般には公開しておらず、政府のみ近くに置くことに対し公認をもらっている。


 ここまでくればお分かりの通り、鞘野詩の存在は政府にバレバレである。それは望むところではないがバレたものは仕方ない。なるようになるしかないわけで、今は目の前のことに集中するしかない。


「意気込みをお願いします!」


 一人の記者の質問を聞いた坂口さんが、私の方を向き頷く。


「今、自衛隊の皆さんが宇宙獣を追い込んでくれています。地球のみなさんの助けがあればこそ私は安心して戦うことができます。手を取り合って戦う先には必ず勝利があると約束します」


 冷静に話すことを心掛け答えた私に、坂口さんは満足そうに頷いているが、ここで尚美さんがマイクを向け他の記者とは違いフランクに聞いてくる。


「じゃあ、猫巫女さんにお任せしてもいいってことですね!」


 報道的にはこっちを求めてるってことだろうか? ウインクまでしてくる尚美さんに応えないわけにはいかないと私は手をグッと握り締め答えるのだ。


「任せて!」


 そのまま頭を抱える坂口さんを置いて私は、武器である朧を手に会場を飛び出しエーヴァが示す合流地点へを駆けて行く。

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