少し変わるもの、変わらないもの。
第224話:お裁縫は任せてよ!
チクチクと針で生地と生地を縫い合わせていく。バラバラだった布が繋り一つになると、丸め縫い綿を入れ形を成していく。
その工程を、まん丸な満月のような金色をキラキラと輝かせる瞳を見て、手を止めた美心が微笑みかける。
「スーもやってたんでしょ? そんな珍しいものでもないんじゃない」
美心に話し掛けられたスーは、目をパチパチとさせ首を勢いよく何度も横に振り、全否定する。
「スーのはただ決まった作業をやっていただけなのです。美心みたいに何も無いところから、新しいものを作るのは出来ないのです。すごいのです!」
「そんなに誉められると照れるなぁ」
頬を手で押さえ恥ずかしがる美心が、ふと真顔になり、作業用の机とは別の机に置かれているウサギを見る。
美心とボタンの目が合うと耳をパタパタさせ挨拶をしてくる。
「体を作り直してもらえて、助かるわーんっと言ってるのです」
「う、うんそれは良いんだけどさ、何で頭だけでここにいるの? 別の体を使えば良いんじゃないかなと私は思うんだけど……」
「この位置から美心の作業がよく見えるから、このままで良いのよんっと言ってるのです」
「本人がいいならいいんだけどさ。視線を感じてやりづらいんだよね。そもそも首だけに見つめられるとか、ちょっと怖いんだけど」
若干引き気味な美心に、頭だけの白雪が耳をパタパタさせ、ボタンの瞳をキラキラさせ見つめてくる。
「可愛さマシマシよーっと言ってるのです」
「いや普通に怖さの方がマシマシだし」
美心の言葉に耳でバツを作る白雪の目は、心なしかショックを受けているようにも見える。
「ところでさ、ちょっと話聞いたんだけど今回の戦いで白雪がなんか凄くなって。結局なんだったの?」
机の上にある白雪の頭とスーが同時に首を傾げる。スーの可愛さより白雪の不気味さの方が際立つ光景である。
「白雪に聞いても、頭の中で女の声でマティアスを呼んでと、おそらく数回は呼べるからと言われただけでよく分かってないらしいのです。
白雪が腕とかないけど大丈夫か? って聞いたら、大丈夫、大丈夫! マティアスだもん! と軽く返されたらしいのです」
美心は腕を組んで首を傾げる。
「スーがマティアスの生まれ変わりなんでしょ? 記憶もあるって言ってたよね」
スーが頷く。
「マティアスとしての前世の記憶があるのです。白雪の方にはマティアスも妻のノエミの記憶もないらしいのです」
「あ~、意味わかんないね」
「なのです」
今度は三人で首を傾げる。
「ま、考えても答えが出ないものは考えても仕方ない! テストも諦めが肝心だしね!」
「それはなんとなく、ダメな気がするのです」
拳を握り名言を言いました感を出す美心に突っ込むスーがため息をつくと、耳をパタパタする白雪を見る。
「美心、白雪の言ってた案なのですが可能なのですか?」
「ん? ああ、うん。作ったことはないけど大丈夫だと思うよ。でも白雪の方は大丈夫なの?」
耳をパタパタとする白雪を見たスーが大きく頷く。
「多分問題ないと言ってるのです。今回色んなぬいぐるみ入ってみて、美心が作ったぬいぐるみと、薫の持っているキューちゃんが一番しっくりくるらしいのです。職人として信頼してると言ってるのです」
「職人とかそんな風に褒められると、やっぱ照れるなぁ~。よし、じゃあ頑張ろうっと!」
「スーも手伝えることがあったらやるのです!」
「それじゃあお願いしようかな。裁縫経験もあるし優秀な助手になりそうだ」
「頑張るのです!」
気合を入れた二人が見つめ合い笑顔を見せた後、ふと同時に壁にかかっている時計を見る。
「うたたち今頃怒られてるのですか?」
「う~ん、どうだろう。おばさん優しいけど怒ったら怖いしなぁ~。詩もどうやって説明する気なんだろう」
「エーヴァも一緒なので問題はないと思うのですが……」
「心配だよねぇ……」
時計を見つめる二人の顔には不安の色が見える。
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