第223話:みんなで立ち向かえば希望はある!もう一回!

 黄金狒々の存在がなくなったのを見届けた私は、軽く敬礼をして周囲にいる自衛隊の皆さんにお礼の気持ちを示すと地面を蹴って颯爽とこの場を去る。


 魔力を探れば、シュナイダー、エーヴァとスーの戦いも終わったようで、撤退に向け移動を開始している。


 私は上空を飛ぶヘリの位置を確認しつつ、わざと目立つように移動を開始する。

 これはエーヴァたちの存在を隠すため、本来は白雪と合流して混ざる予定だったんだけど魔力を感じないのは、力を使い果たしたってこと?


 今は考えても仕方ないと、上空のヘリを意識しながら予定のポイントへ飛び込む。


 そこは各局の報道陣が集まっている場所。ヘリから私が近付いていることの知らせは受けているはずだが、突然の訪問に皆が一歩以上大きく引いている。


 だが、ここで引かない人が二人いる。一人は尚美さんだが、もう一人は確か細蟹ささがに町で出会ったアナウンサーあかねさんだったはず。事前に猫巫女姿で紹介されたのだ。


「突然すいません。質問よろしいですか? 言葉分かりますか?」


 あくまでも知らない人として接してくる尚美さんの表情は真剣で、緊張感が漂っている。プロは凄いな、なんてと思いながら頷く。


「政府から『猫巫女』と呼ばれるあなたが我々人類に協力してくれると伺っています。それは本当なのですか? なぜ協力してくれるのですか?」


 尚美さんは興奮気味に質問して、マイクを私に向けてくる。尚美さんのは演技だろうけど、私は本当に緊張している。お面があるので全国放送されないのは助かる。


「えっと、わたしぃは……ぜん……」


 あれ? なんだったっけ。黄金狒々との戦いの中でセリフをど忘れしてしまった。


「日本語をお話できるんですね。先ほどの猿に似た生物は自らの姿を変えていました。我々政府の発表でも『宇宙獣』と呼ばれていましたが、地球外生命体と言うことでしょうか? それに対抗する猫巫女さんはもしかして……」


 そうだ思い出した! アドリブでここまで言ってくれるなんてやっぱ本職の人は凄い!


「私は宇宙獣を討伐するためにこの地球にやってきました。宇宙獣は各星を転々とし生命を喰らい不毛の星に変える恐ろしい生物です。

 私の星もかつて宇宙獣によって危機を迎えました。ですが、我々には対抗する力があった。そのお陰で生きながらえることができその後、我々の祖先は悲しい思いをする人がいなくなるよう宇宙獣を殲滅させるべく、私のようなものを各星に送り込んでいるのです」


 とんでもないデタラメだが、本当にこれで世間を騙せるのだろうか? セリフが言えて安心したのも束の間、なんだか不安になってきた私に茜さんがマイクを向ける。


「それでは猫巫女さんは、宇宙人ということでしょうか?」


 私は大きく頷く。


 違うけど。


「猫巫女さんが宇宙人であることにも驚きましたが、その志に大変感動しました。我々地球人も見習いたいのですが猫巫女さんのような力は持っていないのです。何か私たちに協力できることはありますか?」


「力を貸してほしい。ただ力と言っても戦うわけではない。私が戦う場を整えるため、皆で協力して素早く避難したり、何か異変を感じたら立ち入らず、しかるべく機関に連絡してくれれば助かる。

 戦い方は人それぞれ、出来ることを精一杯やってくれればいい。みんなが同じ方向を向いてくれればこの宇宙獣を倒すことが出来る」


 私は弓状の朧を半分に分け、鉄刀の形にすると構える。


「突然現れ、いきなり協力してほしいと言っても不安はあるだろうが、宇宙獣を倒す日まででいい、手を貸してほしい。今回の戦いも皆の協力が無ければ倒すことが出来なかった。私たちが手を組めば必ず敵を倒すことが出来るはずだ」


 それだけ言って私は立ち去る準備をする。これ以上言うとボロが出そうだし、後は尚美さんたちに任せようとしたのだが、尚美さんが最後にとグイっとマイクを突き出してくる。


「猫巫女さん、ありがとうございます。最後に一言、この戦いに希望はあるのでしょうか?」


「みんなで立ち向かえば希望はある!」


 事前に練習していたセリフとはいえ、恥ずかしい

 二刀の朧を構えポーズを決めるとその言葉を残し、私的に颯爽とその場を去って行く。


 今度は人目に付かないように移動し、私が行く先は美心の家。もちろん一旦隠してあった服に着替え猫巫女姿ではない普段着の姿で歩いていく。


 玄関先で迎えてくれた美心に軽い挨拶をして家に入ると、私の服やら怪我の具合をチェックしてくれる。

 私の家に帰るために一旦外観チェックしてもらうわけだ。因みにエーヴァたちはおじいちゃんの工房へ向かっているはずだ。


「お疲れ様、色々話したいことはあるけど、もう夕方だし一旦家に帰った方がいいよ。おばさんに聞かれたら、私と一緒にいたことにして話を合わせておくから」


「うん、ありがと。服の方生地がボロボロになっちゃったごめん」


「いいよ、詩が無事帰って来れたんだし。それよりも早く家に帰らなきゃ! あまり遅くなるとおばさん心配するよ」


 美心と短い会話を交わして、私は自分の家へと向かう。


 そして何食わぬ顔で、いつも通り玄関を開けると中へ入る。


「ただい……」


 言葉が途切れたのは、なぜか玄関の上がりかまちのギリギリに立っているママのせいであり、お陰でいつもの「ただいま」は言えず。


「えっと、ただいま……」


 ただならぬ圧を感じながらも、ただいまの挨拶をするとママは土間に降りてきて、傘立てから二本の傘を取り出す。

 私にそれを手渡すと、自分は別の傘と長い靴ベラを手にする。


 傘を二本持った私が首を傾げて見ると、ママは傘と靴ベラを構える。


「みんなで立ち向かえば希望はある!」


 ママは傘と靴ベラの先を私に向けて、そんなことを言い出す。


「えっ……とぉ、ママ?」


「詩、ちょっとやってみて」


 生まれて初めて、いや前世でもこんな追い込まれた気持ちになったことはなかったかもしれない。冷や汗をかきつつママを見ながら、傘を持って言葉に詰まる私にとどめの一言が放たれる。


「詩、やってみてくれない?」


 うわっ……バレてるコレっ!

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