第222話:閉鎖花

 足元に無数に張り巡らされた水の鎖の中心に立つ黄金狒々は、自分の動きを封じている鎖に頭から生えている触手を伸ばし探るように触れている。


「別に触ったからって害はないけどさ、これはこうやって使うの」


 一本の鎖をつま先ですくうと隣に延びる鎖の上に重ねる。交差する鎖が黄金狒々の足に当たるとそれを嫌って横に動くのでそれに合わせ、別の鎖を重ね進路を妨害する。


「それじゃあ、スピード上げるよっ!」


 移動しながら足を使って鎖を重ね、広げて編んでいく。徐々に移動する場所を制限され足に絡みつき始める水の鎖。


 そして、頭の触手が何かにぶつかりビクッと身を震わせる。


「あぁ~普通の体形ならもっと編めたんだけど、うねうねがある分気付かれるのが早かったかぁ」


 私は宙に延びる水の『糸』を指で弾くと、触手は糸に弾かれ身を反らし強張らせる。


 矢を放つ際、『鎖』と『糸』の漢字を描いた二種類を放っている。

『鎖』は地面に刺さっていて足元に張り巡るように設定。『糸』は地面と木の幹や土手の斜面など立体的に刺さっている。


 足元の『鎖』にをわざと目立つようにして、空中に張り巡らされた『糸』を見せないようにしていたわけだが、頭から伸びる触手のせいで糸を編み終える前に気が付かれてしまったのだ。


 体の周りに目を凝らせば光に反射して見える、水の糸の存在に気が付いた黄金狒々の触手の頭に付いた目玉がギョロギョロと動き始めると、首の根本辺りに真横に線が入り割れて出現した口で吠える。

 気合を入れるために口をわざわざ作って吠えたと思うと、咆哮って大事なんだと考えてしまう。


 雄叫びと共に水の糸を強引に切りながら私に向かって突き進んでくる。糸を切る際皮膚の表面が切れ血を流し、頭の触手がちぎれるのも構わず向かって来る姿はなかなか迫力がある。


「糸でとどめをさせれば、それはそれでいいと思ったんだけど。さすがにそれは、させてもらえないか」


 バックステップしながら矢を放つが、矢はことごとく弾かれてしまう。傷を修復しつつ手を伸ばす黄金狒々の腕を弓先で弾くと、田んぼの真ん中にあるお社のある森の木の上に飛び乗る。


 地面から私を見上げる無数の目玉は、鋭い顎をカチカチと音を立てながら威嚇すると触手を伸ばし上にいる私に向かってくる。


 一本の矢を手に持って地面に投げ突き刺す。


『渦』の漢字が光り、風が渦を巻き広がる。私の魔力を含んだ風は地面の上を吹き抜けると、地面に円状に刺さっていた矢の矢尻に描いてある『穴』の漢字が光る。

 黄金狒々を囲う『穴』の漢字は繋がり地面に大きな穴を出現させる。


 私に向かって伸びていた触手が消えるように下がっていく。足を支えていた地面が突然なくなり落ちていく黄金狒々が底に転がる。


 矢筒から矢を取り出すと矢をつがえ放つ。


 矢は穴の壁に刺さると『棘』の漢字を光らせ、鋭い土の棘を底に転がっていた黄金狒々の体に突き刺さる。貫通しないのはさすがと言ったところだろう。


 私は次々と矢を放ち穴の中に『棘』を生み出していく。縦横無尽に生える棘は黄金狒々の体に食い込み、押し潰し動きを封じていく。


「『艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱん閉鎖花へいさか』。対集団戦用のこの技を一匹に使わせてくれるなんてさすがだね」


 過酷な状況、種の繁栄を確実に行うために花びらを開かずに咲く花を閉鎖花へいさかという。自ら受粉し水の中、土の中でも花びらを開かず蕾の形で咲く花は生きる為の強さ。


 穴に落ちた敵を串刺しにしながら、ときに押し潰しながら咲く花は敵の血が伝い、刺された相手の血の色の花を咲かせる。


 薄暗い地面の下で、赤い閉鎖花が咲き誇る。


「さてと、このまま押しつぶすのがこの技のセオリーなんだけど。あんたらは、内部を破壊しないことには安心できないんでねっ」


 空中に水を描き水を生み出すと、私の腕に流れる血を洗い流し穴の中へ流れていく。閉鎖花に身動きの取れない黄金狒々は私の血が混ざった水が降り注ぐ。


「私の作った水の糸と鎖を強引に切ったとき、血の中に水が混ざったの気が付いた? まっ、あの時点で仕込みは完了ってってことで、サヨナラだねっ!」


 右手に『氷』の漢字が描かれた矢を穴の中に投げ落とすと、黄金狒々に当たり氷を生み出し全身が凍り付き霜に包まれる。体内にある私の血が混ざった水も反応して内部も凍っているはずである。


 続いてもう一本『華』の漢字が描いた矢を落とすと、黄金狒々の体に触れた瞬間体内から氷の花が開き体は飛散し、閉鎖花の外観をより一層濃い赤で染める。


 氷の花、『氷華ひょうか』と土の花『閉鎖花』咲き乱れる穴の中を見て勝利を確信する。

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