第221話:流鏑馬(現代風)
氷の足場を作れるのは二つ。鎖は三つ。
直尺は全て使ったし、使用できる矢は残り三本。ストックしている漢字はなし。正直
弓状の朧を手に持ちながら、目の前にいる黄金狒々うねうねバージョンと対峙する。足はまだ泥の中にあり動きは制限されてると思いたいが、頭がなくなって生えてきた白く長い虫みたいなものは動かなくても、その場から攻撃できるといったところなのかな?
『矢』の漢字を描いた棒を一本つがえ放つ。
一直線に飛んだ矢は白い触手が伸びてきてはたき落とす。そしてそのまま先端についている目玉を私に向けると身を屈め足に力を入れると、田んぼから勢いよく飛び出してくる。
腕を振り上げ、頭に生えた無数の触手を広げ向かって来る姿は一言で言えば、
「気持ち悪っ!」
心の声が漏れたところで弓先で触手を叩くと、真横から拳が襲い掛かってくる。避けれないと判断し、足で拳を受けあえて吹き飛ばされる。
宙で一回転し、あぜ道を抉りながら着地する私に触手をしならせて、鞭のようにして叩きつけると触手は衝撃で、変な液体を撒き散らしながら破裂する。
「自分の体が壊れるまで叩きつけるってどんな体の構造してんのよっと」
『火』を描いたところで黄金狒々の本体が突っ込んでくる。
それを避けて矢をつがえるが、白い触手をガードレールの支柱に絡め強引に向きを変え私に向き直り突っ込んでくる。
電信柱の足場を使って上に駆け上がり電線の上に着地すると、黄金狒々は電信柱を蹴り電線を激しく揺らしながら斜めにジャンプして、電線に触手を絡めると電線の上に昇ってくる。
触手を攻撃だけでなく、移動にも使用するという無駄に器用な進化に嫌気が差してしまう。
触手を弾いて漢字を描こうとすると、自らの体を潰してでも描くのを邪魔してくる。
距離を取ろうと電線から飛び降り走ると、元々の身体能力と触手を器用に使いしつこく追いかけて来て、私が漢字を描くのを全力で阻止してくる。
「まっ、私と戦うならそうするよね」
知性あるものなら私への対策として文字を描かせないのが一番早い。今までの宇宙人が野性味溢れ過ぎていただけで、本来こう戦うべきであろう。
それにしてもこうして対応してこられるのは久しぶりな気がする。弓で攻撃をいなしつつ、懐かしい気持ちになってしまう。
「でもまっ、それやると視野が狭くなちゃうよ」
弓先から滴り落ちる血を地面にまき、足で漢字を描いたならば、弓を横に振りつつ地面を踏むと、足元に『棘』の漢字が光る。
先端を鋭く尖らせ盛り上がる土は黄金狒々の体を削り、白い触手の何本かを引きちぎる。
突然の攻撃に怯むその隙に弓先に『風』、宙に『火』を描いて弓で切れば『
火の軌跡を残しつつ体を回転させながら、黄金狒々の膝裏をすくってバランスを崩させる。
追撃はせずに地面を蹴って空中に飛び上がると一回転し、エンジン音を響かせながら走ってくるバイクの荷台に着地する。
「待たせてすまない。これを」
「いえいえ、助かります。
バイクに乗った三木さんから矢筒を受け取る。この人は
「他の隊員も矢になりそうなものを集めている。すぐに持ってこよう」
矢筒を開けると弓道で使う矢が入っていた。近くに弓道場でもあったのだろうか、棒状のものならなんでもよかんだけど、律儀に矢を集めてくれたみたいだ。真面目そうな三木さんらしい。
そんな三木さんが乗っているバイクを見ると、車体は細身で車高が高く、タイヤがゴツゴツしている。前に尚美さんが乗せてくれたバイクとは種類が違うのは私にでも分かる。
「三木さん、このバイクって無茶できます? テレビで見たことあるんですけど道なき道を走ったりできるヤツじゃないですか?」
「宇宙獣用に用意してた古いバイクだが、性能はピカ一だ。もちろんバイクは無茶できるし、俺もできる」
私の言わんとすることを理解したのか、三木さんはニヤリと笑いながらそう答えてくれる。
「じゃあ、このまま距離を取りながらあいつの周りを囲むように走ってもらえますか?」
三木さんが無言で手を上げ答えてくれ私が後ろに座ると、バイクのアクセルを吹かし白い煙を上げバイクは走り出す。ガードレールの間をスレスレで抜けると、大きくジャンプしあぜ道に着地し泥を巻き上げながら走る。
激しく揺れる車体に乗る私は、矢に漢字を描きながら私たちを追いかけてくる黄金狒々に向かって矢を次々と放っていく。
矢の大半は避けられるが、というかわざと外していく。
「うわっ! 凄い! こんなこともできるんですね!」
さっき道路から飛んだときも驚いたが、階段をバイクで昇っている途中で私たちを飛び越えてきた黄金狒々を避ける為、後輪だけで立ち反転すると階段からジャンプしたのに感激の声を出すと左手を上げて応えてくれる。
尚美さんのときも思ったけど、バイクってカッコいいから免許取ろうかな。
そんなことを思っている私の視界に、棒を沢山抱えて物影に隠れている見たことのある自衛隊員の姿が見える。
三木さんも気が付いたらしく、黄金狒々から離れその人の前でバイクを停めてくれる。
私が手を振ると、物影から出て来て抱えてきた棒を私に差し出してくれる。
「
この人は
私が受け取りながらお礼を述べると、キラリと光る歯を見せいい笑顔をするが、すぐに真剣な表情になり三木さんを鋭く見つめる。
さすが自衛隊の人たちだ。油断はするなよと、その厳しい目付きが物語っている。
私も油断しないようにと気を引き締めてかからないと!
気合いも十分に、三木さんの運転するバイクから黄金狒々に向かって矢を放ち続ける。
武藤さんを含め、多くの自衛隊員たちの協力を得ながら放った矢が地面に大量に刺さっている。
「こんなとこかな。まずは一投目っ!」
バイクが水辺に近付いたときを見計らって、矢の先を水に付けてすくい上げると水の鎖を生成しそのまま矢を放つ。
鎖を伸ばしながら飛ぶ矢は、地面や水面などに刺さっている矢尻を擦りながら鎖を繋げ伸びていく。
バイクで黄金狒々の周りを回りながら、次々と放つ矢は鎖の蜘蛛の巣を張り黄金狒々の動きを制限していく。
「三木さん、オッケーです! ご協力感謝です!」
お礼を言ってバイクの後部座席から飛び下りると、走り去るバイクを背にして地面に着地する。
「さてさて、ここからが本番。珍しい花を咲かせてあげる」
張り巡らされた水の鎖の真ん中に立つ黄金狒々と私は睨み合うわけである。
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