第220話:空気を読んでくれて助かりますっ!
目の前には田んぼが広がっている。段々になっている田には水が張っており、苗はまだ植えていないのか緑は少ない。あぜ道が網目状に引かれ、一際広いあぜ道は田んぼたちの真ん中にある小さな森に繋がっている。
森の入り口には小さな鳥居が佇んでいて奥にはお社が見える。
上を見上げればヘリコプターが飛んでいて私を撮影していると思われる。後ろを振り返ればさっきまでいたビルを中心とした町並みが広がる。そしてその町並みから存在を隠すことなく飛び出してくる黄金狒々が、私から少し離れた場所に着地する。
突然開けた場所に出てきて警戒しているのか、私を睨んだまま辺りを探っているようだ。
私は大きく息を吐くと、道路にあるガードレールを踏み下に広がる田んぼのあぜ道に飛び降りる。
「この辺ちょっと荒れるけどごめんね」
お社に向かって小さくお辞儀をしながら謝っておく。実際女神にあった私からすれば、どこに神様がいるか分からないから、断りを入れておく方が良いだろう。
私を追って飛び降りて来た黄金狒々は泥水の飛沫を豪快に上げると、天に向かって吠える黄金狒々の雄叫びで耳がビリビリする。
そしてこの雄叫びで周囲にある自衛隊の皆さんの気配が、奥に下がるのを感じる。まあ、これだけの気迫を放たれたら仕方ない。こういうときは言葉よりも行動で示してあげないと。
「さ~てと、猫と猿どっちが強いかってね!」
猫巫女である私と黄金狒々の睨み合いは、私が先に動いて終わりを迎える。
あぜ道から弓を引いて数本の矢を放つ。矢を避けようとする黄金狒々だが一テンポ行動が遅れ、矢は黄金狒々の身を僅かに削り田に張った水の中へと飛び込む。
「考えもなしに泥の中に足入れるからだよ」
泥に足を取られ動きが鈍る黄金狒々に向かって、飛んだ私は空中から更に矢を放つ。硬い体に弾かれ矢は水の中へ沈んでいく。
そして水の上に着地する瞬間に足に魔力を流し、先に放った『氷』の漢字が描いてある矢の上に立てば、水中で出来た氷が浮いてくるので上に立つ。
そのまま弓の先端で、黄金狒々の鼻先を叩くとしかめっ面になる。体は硬くても鼻は叩くと痛いらしい。
イラつきを顔に出す黄金狒々が私に向かって放つ拳は、水面を叩き水柱を上げる。
水の中に弓先を突っ込み水中にある矢に触れると、水の『鎖』を引っ張りながら黄金狒々の拳を氷を蹴り飛んで避けた私はすれ違いざまに鎖を首に巻き付ける。
そして、他に矢によって作った氷の上に立つ私が、石ころを黄金狒々の足もとに投げると、水面が凍り黄金狒々の膝辺りが凍る。
すかさず水面を移動すると、背中側に回り込み『弾』を描き膝裏に向かって『
と同時に首に巻き付いている水の鎖を水面へと投げる。
膝裏に当たった風弾は膝関節を曲げ、膝を折る形になると同時に、首に巻いてある鎖は水中に入ると沈んでいる矢に当たり凍りつく。
膝は折れ、背中側から氷の鎖に首を引っ張られ体を弓なりに反って隙だらけの顔面に飛び乗ると、踏みつけて宙へと飛ぶ。
袖から全ての直尺、六本を黄金狒々の頭目掛け投げ付ける。ただし刺さずに、ワイヤーを頭に巻き付ける。
直尺に描いてあるのは全て『雷』の漢字。
「本日二度目の花を咲かせてあげる!」
私に繋がっているワイヤーを全て切り放し、空中で指にのせた石ころを弾く。水面の氷に足場を作り、距離を取るべく後ろに飛び退くと同時に鉄の棒を黄金狒々の真上に投げておく。
六つの雷は黄金狒々の頭を中心に激しく渦巻くと、空気中で限界を超えた電気は、真上に投げた鉄の棒を新たな拠り所として求め、空気を切り裂きながら移動を開始する。
天に向かって何本もの電気の花弁を伸ばす
水面に氷を張って、そこに着地した私は叫ぶ。
「まだコイツは倒せていない! 倒すにはあなた達の協力が必要なの! 棒状のものなら何でもいいから私に寄越して!!」
周りにいる自衛隊の人たちに呼び掛ける。こういうのは、自分が求める内容を分かりやすく簡潔に、そして私はあなたの協力が必要だと訴えるのがいいらしい。
本とか読んで勉強したけど、知れば知るほどエーヴァがこういうの本当に上手いんだと気付く。
そして、私の訴えに一番に動き出すのは自衛隊の皆さんではなく黄金狒々。非常に迷惑なヤツである。
体を起こして雷花で吹き飛んだ頭のない体を私に向けてくる。
メリメリと音を立て首からV字型に皮膚がめくれると、中からうねうねと白く長い物体が大量に生えてくる。それは蛇というよりは、幼虫を細長くしたようなフォルムをしておりとても気持ち悪い。
先端に大きな目玉が付いていて、なぜかクワガタ虫みたいな顎がある。目玉に顎があっても意味ないんじゃないかなと思うが、黄金狒々本人なりのこだわりがあるのだろう。
「なんか気持ち悪くなっちゃったけど、宇宙人っぽいし映えとしては最適かな。その辺を意識してくれたのなら助かっちゃうね」
私のお礼の言葉に黄金狒々は新たな頭(?)をうねうねと揺らして答えてくれた気がした。
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