第218話:お山の大将戦といこうじゃないの

 凄まじい衝撃音と、ほとばしる殺気。


 目の前に舞い上がったほこりが煙幕を張る。視界が悪い中でもバリバリ感じる殺気は大きく動くと空気ごと破壊する勢いで拳を突き出してくる。


 煙幕が拳の周りだけ晴れ、うっすらと見える顔がニヤリと口角を上げ私を見下ろしてくる。


「殺気バリバリじゃん。まっ、そっちの方がやりがいあるんだけどねっ」


 拳を刀状態の朧で受け流し、もう一本の刀を首筋に目掛け振るがあっさり受け止められる。そのまま魔力を流し、手の甲に描いてあった『雷』を光らせ電流を流すが、腕に力を込め耐えて見せる。


「やるじゃん。さすがはボスってとこ?」


 互いに後ろに下がって間合いを取ったところで、私は煙幕が晴れ姿があらわになった黄金狒々こがねひひに向かって話し掛ける。言葉は通じないけど、話し掛けられ耳が私に向いているのは何となくか分かる。


 魔力を探れば、シュナイダー、エーヴァが戦っているのが感知できる。スーはエーヴァのところへ向かっている途中ってところだろう。

 応援はあまり期待できなさそうだなと思いながら、事前に腕や足に描いてきた漢字を全部使い切ったことを体に魔力を流して確認する。隠し持っている直尺ちょくしゃくに描いている分がストックということになるが、今はまだ温存しておく。


「まったく、人が嫌がるタイミングで登場するなんて、ボスとしては優秀だけど人から嫌われるよ」


 私とのお喋りに興味を失ったのか、黄金狒々は地面を抉らんばかりに蹴り拳を振りかざす。朧の刃先で撫でながら避けるが、刃先から火花が散る。


「あんたの拳、どんだけ硬いのよっと」


 避けつつ、体を回転させもう一本の刀を振るうが、黄金狒々は片足を付け器用に回転し私の攻撃を避ける。

 そしてそのまま、左のフックが私の頬を頬を掠める。お返しにと振り上げる刀は黄金狒々の顎を掠める。

 振り上げた反動を利用し右足で腹を蹴り、そこを踏み台にバク宙しながら上に反らした黄金狒々の顎を蹴り上げる。

 黄金狒々はバランスを崩しながらも私の右手の刀を掴み引くので、手を離し後ろに大きく下がりつつ刃先で切った指で宙に『火』を描き、『刀』の漢字を消して棒状に戻った朧で叩きながら踏み込む。


 先端に炎を灯す棒状の朧を火の軌跡を残しながら振るう。数回避けられところで、隙を突いて黄金狒々が手に握っている刀のつかの部分に差し込み合体させる。

 先端が刀になったそれは『薙刀』であり、炎は握られていた刀へ燃え移り黄金狒々の手のひらを焼く。


 突然上がった炎に驚き、握っていた手が緩んだところを、無理やり引き抜いた朧を真横に振るうと、避け損ねた黄金狒々の頬が僅かに切れ血が舞う。


 振りいたまま宙に右手で素早く『火』を描き、拳で叩き火の粉を派手に散らす。その裏で拳で魔法陣を叩きつつ、袖からワイヤー付の直尺を地面に投げ落とす。

 一瞬火の粉に顔をしかめる黄金狒々だが、大した威力がないと判断し前に一歩出たところで、地面に落とした直尺を踏んでしまう。


 ワイヤーを通して魔力を流し、直尺に描いた『雷』を反応させ黄金狒々の足に電流を流す。

 僅かに硬直する黄金狒々に詰め寄りながら薙刀を振り下ろし、顔面から胸元を切り裂く。


 顔を押さえながら大きく後ろに下がる黄金狒々が、押えていた手を離した時には傷は塞がっていた。

 黄金狒々に踏まれ形が変わってしまった直尺のワイヤーを引っ張り袖に戻しながら、互いに睨み合う。


 さっきの様子から雷のダメージはあまり入らないが、気合入れてないと完全に防げないみたいだ。なにも効果がないというわけではないのは朗報だが、かと言って私に決め手があるわけではないので楽観視はできない。


「さ~てと、ここらで戦いを止めてもらえると楽なんだけど、あんたにその気はなさそうだし。私もこの町に火をつけて燃やしてくれたことを許せるほど、お人よしじゃないわけ」


 私が言い終わると、お互いに姿勢を低くし構えほぼ同時に踏み込む。


 拳の中に鉄が入ってるんじゃないかってくらい硬く、朧で擦ると火花が散る。そんなのだから正面から受け止めるのは無理なので、いなしながら攻撃していくのだが力と素早さに加え、柔軟さも持ち合わせていてギリギリのところでかわしながらカウンターを放ってくる。


 私の攻撃は掠っても相手にダメージはないが、黄金狒々の攻撃が私を掠ることは私の負けが濃厚になる。


 なんとも理不尽なパワーバランスだ。


 心の中で文句を言いながら薙刀を振ると同時に直尺を二本投げる。これに警戒した黄金狒々が私から僅かに距離を取るとその隙に懐に隠していた信号拳銃なるものを取り出す。

 銃と同じ格好をしているが打てるのは銃弾ではなく、信号弾と呼ばれる発光する弾。


 上空に向け引き金を引くとガチャンっと大きな引き金を引く感触と、シュポンっと音がして上空に煙を吐きながら上がる弾は真上で赤い光を放つ。


 投げた直尺を回転しながら引っ張り、僅かに真上に気が反れた黄金狒々の顔面近くを通し回収する。

 さらに薙刀を振り下ろし間合いを広げると、町の数か所から煙が上がるのが見える。


 上空に輝く数個の、青と橙の光。


 私の信号弾に返事をくれたのは自衛隊の皆さん。もちろん信号銃も自衛隊から支給されたものである。


(青が三、橙が二かぁ。やっぱ町中だと少ないもんだね。とりあえず青と橙が重なってるところを目指すとしますか)


 先程踏まれてガタガタになった直尺を地面に落とすと、薙刀の先端に『光』を描き先端で『雷』の漢字を突っつく。


『雷光』となった電撃は、眩い光を周囲に放つ。強烈な光を浴びて目をしかめ隙のできた黄金狒々の腹を全力で斬り付ける。

 今までで一番多くの血が散るが、表面の一部が切れただけでダメージは期待できそうにない。


「やっぱ硬いっ! でもまっ、真正面から無理なら別の方法で攻めるまで」


 更に数回薙刀を振り斬りつけると、先端の『刀』を消して黄金狒々の頭を蹴って、中央に『弓』を描きながら目的の場所まで走り始める。

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