第211話:首が八つになれば飲ませるしかない!

 高橋率いる隊は、シュナイダーがジラントに連れ去られた後を追って移動を開始する。

 動かせる機械が制限されている状況下では、移動手段が足しかないが重い装備を持って走った先に見えたのは、赤い消防車と赤い毛並みの犬が蛇と戦う姿。


 そして、ただ眺めるだけの自分たちの仲間と消防隊員たち。


 何もしない彼らに一瞬怒りが湧くが、つい先日の自分たちが何も出来ずシュナイダーに助けられたことを思い出し、心を落ち着ける。


「細木隊長。現状報告を願う」


 高橋の言葉にシュナイダーとジラントの戦いを見ていた自衛隊員の一人が慌てて報告をする。一通り報告を聞いた高橋が出した答えが、


「あの犬。シュナイダーを援護する」


 自分たちに蛇の化物を倒せないと反対意見も出たが、シュナイダーが倒れれば自分たちは間違いなく全滅すると言われ反論できずに、援護をする運びとなる。


 シュナイダーのピンチを救うため、高橋の指示で放水を行った杉村を始めとした消防隊員たちは、その直後目の前で立ち昇る炎に見惚れる。


 火災現場で火を見るときは、鎮火するべき敵である炎。それが今、美しさと力強さを持ち昇り立ち自分たちを守る。


 風にのって炎が舞い、熱と鋭さを持って蛇の化物に果敢に立ち向かうシュナイダーを神の使いだと言ったら誰しもが納得するような光景。

 高橋もシュナイダーが戦う姿を見ながらうんうんと頷いている。


 だが……


(ヤバイな……全然炎効いてないぞ……)


 炎は見た目の派手さに似合った威力はあるのだが、硬い鱗に阻まれ熱は遮断されてしまう。後ろで援護してくれ、技を使うとどよめき立つ高橋たちの視線を感じながら、炎が効果ないなんて言いづらくて尻尾がペタンとなってしまう。


 炎の中をものともせず悠々と進み五つの頭を使って攻撃を繰り出してくる。


『四方』『牙』『毒』『鈍器』『盾』の五つの頭を避けつつ攻撃を繰り出すが、阻まれ苦戦を強いられる。

 そして、『鈍器』を避けたとき、新たに本体から生えてきた六つ目頭が、放水する隊員目掛け長い舌を伸ばしてくる。

 風で弾き、隊員たちを救うが、『鈍器』と『牙』が襲い掛かる。


 巻き上げた風で攻撃を反らすシュナイダーを援護するべく、高橋を始めとした自衛隊員たちが分散し発砲する。


「猿のときと違って硬いなこいつは」


 高橋がぼやくのも無理はなく、銃弾は鱗にことごとく弾かれて、『盾』に至っては鉄でできているのかと聞きたくなるような硬さを誇り当たると火花が飛び散る。


 それでも各頭の気を引くことはできたようで、『鈍器』と『舌』が自衛隊たちの方へ頭を向ける。

 そして六体から四体に減れば、戦いは変わる。空中にいるシュナイダーに『四方』が口を開く攻撃を放つ、それを避けたところに『毒』が紫の塊を飛ばしてくるが風で受け流し、真下で口を開く『四方』の大きく開いた口へと投げ落とす。

 本体は一緒なので自分の毒は効果がないだろうが、思わぬ反撃を受け一瞬だけ六つの頭が同時に止まる。

 その隙を逃さずシュナイダーが『牙』を蹴ると『盾』にぶつける。牙の一部が欠けふらついて倒れる『牙』の頭を見てシュナイダーは鼻で笑う。


「ふん、自分の硬さが仇になったな」


 宙を駆けるシュナイダーが下にいるジラントの頭たちを見下ろす。六つの頭が同時に動き始める。


「うむ、それぞれが独立しているわけではないのか?……」


 視線を移動させると、『鈍器』相手に物陰に隠れ逃げまといながらも銃で応戦している。もう一方の『舌』の方も物陰に隠れて応戦している。

 硬い頭を振り暴れる『鈍器』と、長い舌を鞭のようにしならせ振り回す『舌』に対して、善戦しているようにも見えるが、どこか違和感を感じる。


 考えるシュナイダーの真下から紫の塊が飛んできて避けると、『四方』と『盾』が挟み撃ちにして襲い掛かる。宙を蹴りながら口に咥えた風の刃を振り抜き、『四方』の口内を切ながら上から襲い掛かる『牙』の長い牙を受け止める。


 空を蹴ると地上に急降下し地面を駆けると四つの頭が追いかけてくる。車の下をくぐり『盾』をひっかけ、ビルの壁を駆け『牙』を引きつけガラスを破りビルの中で巻いて外へ飛び出ると、『毒』の吐く塊を曲がり角に飛び込み避け、『四方』を引き連れ通りを走ると叫ぶ。


「撃て! 当たればなんでもいい」


 物陰に隠れていた数人の自衛隊よる銃弾の雨に足止めを喰らう『四方』を置いて駆けると、ビルの壁をぶち破って現れる頭は鼻先が三角に尖っていてらせん状の溝が入っている。


「七つ目か。ドリルみたいだが、さすがに回らないか」


 尖った先端で突っつくように攻撃してくる頭、『くちばし』が道路に穴を空け攻撃をしてくる。

 連続で何度も突っつき、穴が開く道路を抜けると先程ビルの中で巻いた、『牙』のもとへと走る。


 相手もシュナイダーのもとへ向かっていたらしく鉢合わせになるが、互いに来ることを察知していたらしく同時に牙と爪をぶつけ合う。

 そのまま戦うことなくシュナイダーは駆け抜けて走り去る。


「むむぅ、八つ目か……いよいよ化物じみてきたな」


 七つに分かれて攻撃を行う頭の根本に短い首の頭が生えていて、口を開きっぱなしにしている。

 人間には聞こえないが、シュナイダーの耳には甲高い音が口から発生し周りに反響しているのが微かに聞こえている。


「索敵用の頭か」


 短い頭を横に走りながら、自分に向かってくるジラントの気配を感じながら、中心の体を観察する。


 五つのときよりも更に小さくなった胴体部。


(分裂させればもっと小さくなるのか……。頭の部分を小さくすることはないだろうから無闇に進化を促すのも危険だな。もう一つ気になるのが……)


 背後から襲い掛かってくる『盾』の体当たりをかわすとそのまま引き連れ、『舌』と応戦していた自衛隊員たちの前に現れる。


「こっちを借りるぞ。そしてこいつを頼む」


 長い舌を斬りつけ、頭に体当たりをして『舌』吹き飛ばすと、後ろからついてきた『盾』を置いていく。

 シュナイダーに言われた通り、『盾』に銃弾を浴びせ足止めをする自衛隊員たち。その間に『舌』と対峙するシュナイダーが、空気を鋭く切り裂く舌の鞭に風の刃で対抗する。

 戦いながら『盾』の方を見ると頭を振りながら暴れる姿が見える。


(やはり、戦い方に精細さを失うな。頭が八つあるが、メインの頭以外は思考が鈍くなる傾向があるようだが。そうだと仮定して、これをどう使うかだな)


『舌』と戦う最中、銃弾が放たれシュナイダーを援護する。風の刃を斬り付け『舌』から離れると、物陰に隠れていた高橋のもとに降りる。


「高橋、度々すまんな」


「なに、大したことは出来ていないがな。それよりあれを倒す方法はありそうか?」


「ふむぅ、頭が八つあるが、どれか一つがメインで思考を始めると他の頭の思考が疎かになるようだ。ただそれが分かったところで体は硬いし熱にも強いあいつを討伐する決め手にはならんがな。何か方法があればいいのだが」


「八匹も相手にしてるようなものだし攻めあぐねるのは仕方ないといったところか。ヤマタノオロチみたく酒でも飲ませて眠らせれば、楽に倒せるかもしれないのにな」


「酒を飲ませる?」


「ああ、八つの頭を持つ蛇に酒を飲ませ眠ったところを退治したって日本神話の話しだ。現実酒なんてないし、あいつが飲んで寝るかも分からないしな。酒乱だったら逆に困すし」


 そう言って高橋が苦笑いをする。


(酒を飲ませる……)


 シュナイダーは、短い会話のやり取りのなかで得た、高橋の言葉を頭の中で復唱しつつ、短い首で口を開け周囲を探っている『索敵』を見る。


(危険だがやる価値はありそうだな)


「高橋、乗れ。協力して欲しいことがある。説明は移動しながらする」


 自分の背なかに乗れというシュナイダーに戸惑いつつも高橋は頷く。

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