第210話:増える蛇と赤き獣
「
風が牙をむくと、ジラントの牙を削り折り口内を切り裂く。口から血をまき散らし倒れる一つの頭。
小さく歓声を上げる消防隊員たちと裏腹に、シュナイダーは鋭い眼光をジラントへ向けたままである。
「エーヴァが痛めつけたお陰で攻撃が通るか……」
言葉に悔しさを滲ませつつ、牙をむいて地面を蹴るともう一つの頭に向かって一回転し尻尾を振り、風の刃を振り下ろすが空を切る。
「こいつっ!?」
刃に切られたわけではなく、自ら頭を縦半分に割ったことでシュナイダーの攻撃を避けると、割れた頭はそれぞれ独立し新たに頭を一つ増やしシュナイダーに襲い掛かる。
風の刃を連続で放ち、二つの頭をけん制し牙から逃げると、倒れていたもう一つの頭が起き上がり口を閉めたまま突進してくる。
パキっと音を立て、顔に縦の亀裂が入ると頭は十字に別れ口を四方に開く。花びらのように開く口にはそれぞれに鋭い牙が生えている。
四方から迫る口をシュナイダーが避けると、蕾のように閉じた口がその場にあった標識をかみ砕く。
宙に身を置くシュナイダーに、地面を這いずってきた別の頭が上空へ向かって伸びると大きく口を開く。
「牙が長いっ!?」
口に収まらず異常に長く伸びた牙を風の盾でガードする。そこへ向かって何かが飛んできたことに気付いたシュナイダーが風の盾を巻き上げ、その物体を受け流す。
「今のはあいつか」
シュナイダーが睨む先にあるのは、開いた口から紫色の液体を垂れ流しにしているもう一つの頭。
その頭が口を閉め頬を膨らませると、首を後ろに反らし勢いよく前に向かって首を振る。それと同時に口を大きく開くと紫の塊を飛ばしてくる。
風を巻き避けると、牙が襲い掛かる。それを受け止める上に回っていた頭が口を四方に開き向かってくる。
「ちっ、それぞれの頭が進化し始めたのか」
シュナイダーが車の影に身を隠し、一つの体から生えた三本の頭を見てぼやく。
次なる一手を思考している最中に、上に気配を感じたシュナイダーが車の影から飛び出てくる。
刹那、車のルーフに振り下ろされた何かは、車を押し潰し見るも無惨な姿へと変えてしまう。
ひっしゃげたルーフからむくりと起きあがるのはジラントの頭。
先の三つとは又形状が違い、顔全体に無数のコブがあり、鈍器を彷彿させる姿をしている。鈍器の頭を揺らしながら這いずり寄ると、頭をもたげ振り下ろす。その威力は凄まじくアスファルトにひびを入れる。
「四つ目の頭か……増えれば良いってものでもなかろう」
文句を言いつつ、追撃してきた長い牙を避けると飛んできた紫の塊を風で受け流す。そのまま一回転し尻尾に纏わせた風を刃物状にし着地点に這いずってきた、四方に割れる口目掛け放つ。
風の刃が弾け霧散する。
「五つ目だと!?」
四方に割れる口を守るように現れたのは、鱗が変化したものなのか頭部と顎、そして左右に平たい盾状の鱗を纏った頭。
五つの頭をもたげてシュナイダーを見下ろす。五本の首が十個の瞳で睨むそれは圧巻であると言える。
「バランス悪いな……」
それに対するシュナイダーの感想はこれである。
宇宙獣が変化するとき、体の一部を使用する為に何処かが増えた分、何処かが減るのは今までの戦いで判明したことだ。
トゲを生やす、新たな腕を生やす位なら影響は少ないだろうが、急激に進化したジラントは胴体部分から無理やり五つの首を生やしている。
多数の頭を持つ者と言えばヤマタノオロチが思い浮かぶが、あれは八つの頭に八つの尻尾、大きな胴体があってこそのバランス。対してジラントは五つの頭があるせいで、大きいのだが品祖に見える胴体と一本の尻尾。
なんとなくバランスが悪く見えるのだ。
無理矢理引っ付いているように見え、いっそ五匹に分かれれば良いのにとシュナイダーは思ってしまう。口に出したら本当に分かれそうなので言わないが……。
バランスは悪くとも脅威であることに代わりはなく、シュナイダーは五つの頭と激しい攻防を続ける。
空中で紫の粘液を避け、襲いくる長い牙を宙を蹴って避けたところを、鈍器の頭が振り下ろされる。地面に急降下し避けたところを背後に盾の頭が回り込み、正面から四方に割れた口を開き頭が襲い掛かる。
口の中に風を吹きつけ閉じるまでの時間を稼ぐと、真横に跳躍して避けるがそれを狙っていた盾の頭がシュナイダーを叩きつける。
風で防いだとはいえ勢いよく飛ばされたシュナイダーはが激しく地面に叩きつけられる。
そこに追撃と鈍器の頭が振り下ろされる。背中から打ち付けられたシュナイダーが四つ足の前に大きな風の盾を作り直撃を防ぐが、それでも衝撃は伝わり苦悶の表情を浮かべる。
地面に押さえつけられているシュナイダーを見て、これを好機にと残りの頭が動き始める。
風の盾に何度も叩きつける鈍器の頭を受けとめる横から、牙の頭と四方の口の頭が襲い掛かる。大きく風を巻きあげ球状にしてそれらを弾き返すが、風を動かしたことで正面が肉薄となり盾を破られ鈍器の頭に叩きつけられる。
「かはっ」
地面に激しく叩きつけられバウンドするシュナイダーに、紫の粘液が飛んでくる。その後ろから牙と四方に開いた口が再び襲い掛かる。
舌打ちをするシュナイダーが自身を中心に風を巻き上げジラントの攻撃を迎えるが、ジラントの攻撃は大量の水によって阻害される。
シュナイダーが隙を付いて地面を蹴ってジラントの頭たちから距離を取る。
水が飛んでくる方向には杉村を始めとした消防隊が消火ホースの先のノズルを持って構え放水を続けている。そして、その横に立つ自衛隊員の一人がシュナイダーに親指を立てる。
「くくっ、わざわざ戻ってきてくれたか。さすが俺と同じ愛の戦士よ。高橋感謝するぞ!」
ジラントを睨む為、自分たちに背を向けるシュナイダーに高橋が叫ぶ。
「炎を使え! 我々に遠慮するな! 全力でいけ!!」
高橋の声にシュナイダーは背を向けたまま尻尾をパタパタ振って答える。
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