第206話:ウサギは駆け抜け、猿は戦局を見極める
顔面を潰され、目が見えないビッグ猿は目が再生するまでの間、暗闇の中で暴れる。
手足に絡み付く蜘蛛の糸が更に混乱を招き、激しく暴れる。
蜘蛛猿がシャーシャー鳴くが、声は届かず激しく暴れるビッグ猿のせいで蜘蛛猿一味は動きを止めてしまう。
絡んだ糸を無理矢理引っ張り、壁ごと引きちぎっていく。
二本の刀に炎を灯し、派手に燃やしたならば猿たちは我に返り、慌てて私に注目する。
そんな統率のとれていない注意散漫な動きは、命取りになるわけで。
糸が絡み、地形が変わるその隙間をものともせず、詰め寄ったスーの掌底が一匹の猿の顔面に食い込むと、潰れた顔から入り込んだ光で内部を焼き尽くしてしまう。
仲間が突然倒され、その混乱は一瞬で伝染し、どう動いていいのか躊躇する猿の首を白雪が締めたならば、スーの一撃で青白い光を放ちながら倒れる。
スーと白雪が手を繋ぎ 互いに魔力の供給と調整を行いながら場所を入れ換えると、蜘蛛の糸の間をすり抜け蜘蛛猿一味を壊滅に追い込む。
暴れるビッグ猿のお陰で蜘蛛の糸は減るし、埃で糸が何処にあるか視認しやすくなるし、混乱を招き隙だらけにしてくれる。
想像以上にビッグ猿がボロボロなのは気になるけど、お陰で思った以上の成果が出ている。
さすがはスー&白雪である。こちらの意図をくんで予想以上の成果をもたらしてくれた。
今や自分達の張った糸が、自らの退路を邪魔するという皮肉な状況の中、二匹の兎が糸の隙間を飛び回り一匹づつ猿たちが倒れていく。それを見て蜘蛛猿が再び撤退の様子を見せる。
そんななか、私が何をしているのかというと、地味に地面に『雷』の漢字を描き連ねているわけである。
そして、描き終えるのを待っていたスーと白雪が器用に糸を避けながら、逃げようとする蜘蛛猿の鳩尾を同時に蹴る。
青白い光を腹に抱え、勢いよく吹っ飛ぶ蜘蛛猿は暴れるビッグ猿の背中に激突し二匹は地面に派手に転がる。
そこは水の上に描いてある『渦』の漢字、直尺を投げ発動させれば、糸に絡まれ転がる二匹の猿の身動きを更に封じる。
「スー! 白雪! そのまま南へ! エーヴァをお願い!」
「任せるのです!」
【次はエーヴァちゃんのとこぴょん!】
蹴った勢いのまま建屋のガラスを破り、去っていく兎たち。
なんで白雪が『ぴょん、ぴょん』言っているか聞きそびれたけど、今はこの二匹を始末するのが先だ。
前世では、魔方陣に文章を書いて発動させていたわけだけど、今は漢字一字しか発動させれないし、しかも二文字が限界で、意味が通じないと発動できない。
よって、雷の花は直接咲かせれないけど、現象としては発動できる。
自衛隊員であり、国家資格マスター(私命名)の
「十個以上、雷を描かないと発動できないのは不便だけど、その分威力は保証しちゃうよ!」
私は直尺を投げ一個目の『雷』の漢字が光ったのを見て外へと逃げる。
こんな密室で使ったら私も巻添え喰らうので撤退である。
『雷』の漢字は次々と光りその力を隣の魔方陣へと移していく。
最後の十個目の魔方陣が光ったとき、限界まで溜まった雷は、水に巻かれ糸に絡む二匹の猿を電極にして空気の壁を突き破り放電する。
轟音と閃光を放ち、空気中を電極が飽和状態で、行き場のない電気が外に枝を伸ばし花を咲かせる。
目に残る光の残像効果も相成って、弾け弧を描き花弁を伸ばす様は、
彼岸花が咲き乱れ、全てを焼き尽くした後には消し炭が数体転がっているだけだ。
「うわっ、我ながらエグいな……」
焦げ臭い匂いの立ち込める建物の中を見て思わず出た言葉がこれである。
念のため中に入って、寄生体が死滅しているか確認する。
ここら辺はエーヴァとかシュナイダーの方が簡単に確認できて、羨ましいところだ。
死体を突っつき、外に出るとスーの向かった方を見る。
魔力の動きからエーヴァが交戦中、シュナイダーは……? よく分からない動きをしているけど。
「取りあえずシュナイダーの方を確認してみようかな」
私はシュナイダーがいるであろう方向に向かって一歩踏み出すが、それは激しい轟音と共に遮られる。
* * *
鉄塔の上から気持ちのいい晴れた空の下で、金色の毛をなびかせ、闘争心に溢れた瞳で戦局を見極める。
蜘蛛と体が大きいヤツと蛇には期待していない。
蛇が独立したのは想定外だが、あれはあれで役に立ちそうなので放置しておく。
そんな思いを馳せながら下を見ると、二匹の希少種が飛び出し反対方向からもう一匹飛び出す。
そして轟音が響き、蜘蛛と体が大きいヤツの信号が途絶える。
最初に飛び出した二匹の向かう方向には、赤毛がいる。
あれは任せられるし問題ない。更に蛇がいる。
ここまでの動きを見て、強いのは希少種と思われる五匹。
そして今一匹、体が大きいヤツを誘導し、二匹の希少種を他の希少種に向かわせ、自分の手下を倒したアレが中心。
強い者とぶつかれる喜びと、そいつを潰し得られるであろう快感を胸に抱き、鉄塔を駆け降りソイツ目掛け飛び降りる。
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