第207話:生憎、赤毛枠は埋まってるしあたしは嫌いだ!
消火活動に平行して救助活動も行われる。
消防車が並び、放水する現場から少し離れた
ところで気配と音を探るエーヴァは、消火活動により小さくなっていく火を瞳に映す。
町全体を見れば小さな成果かもしれないが、それでも必死に抗い続けることは無駄ではない。
そして前世において、消火活動と同時に戦闘なんて機会は、あまりなかったなと、消防車は凄いなと物思いにふける。
あれから数体猿が襲ってきたが撃退している。撃退する度に上がる士気に、消火活動も進み、順調にいっているかに見えるがエーヴァの表情は硬い。
(どうにも解せなねえな……さっきから雑魚っぽいのしか来やがらねえ)
時折跳ね上がる詩とスー、シュナイダーの魔力から、激しい戦闘が繰り広げられていることを感じるだけに、今の状況に疑問を感じる。
一台の消防車を除き、明らかに放水の力が弱まる。消防車の水を吸い上げる動力はエンジンによるものだが、電圧、水圧の調整を制御する電子制御が働かなくなったことを意味する。
それは……
消防士の
猿の頭だけが宙にいて尚、エーヴァを睨みつけている。
崩れる体を足かけに宙に舞ったエーヴァのミローディアが光の弧を描き、猿の頭に突き刺さる。同時に鋭く吹かれるホイッスルは、ミローディアを振動させ内部にいる寄生体を破壊する。そのまま振り抜かれたミローディアに真っ二つになった猿の頭が地上に転がる。
一瞬の出来事に理解が追いつかない杉村だが、脅威が去ったことに安堵しつつ腕時計を見ると画面は黒いままだった。慌ててエーヴァを見れば戦闘態勢を解かず、ミローディアを構えている。
「様子見は終わりか?」
エーヴァが見上げる方を杉村が視線で追えば、建屋の上から見下ろす今までの猿より一回り大きな猿がエーヴァを見下ろしている。
全身の毛は日の光に当たり赤く、縦に二つ並んだ目が左右。計四つの目全てがエーヴァに向いているのは杉村たちなど、どうでもいいといことに他ならない。
今まで来た猿たちと違った雰囲気を纏う赤毛の猿の雰囲気に、自然と足が小刻みに震える。だが自分たちの目の前にいる少女は微笑を浮かべ、スカートを摘まみ優雅に挨拶を始める。
「赤毛のワンコロさんだけでなく、赤毛のお猿さんも覗きの趣味があるのかしら? 正直その枠は一つでも迷惑ですの。早めの退場をお願いいたしますわ」
エーヴァが踏み込むのと同時に赤毛の猿も飛び降りる。
すれ違い様に弧を描いた閃光は赤毛の猿を切ることなく、甲高い金属音を響かせ火花を散らす。
背を向け合ったエーヴァと赤毛の猿が同時に振り返り、二撃目が火花を散らしながらぶつかる。
鋭く走る閃光と、無駄のない動きで振るわれる拳が幾度となくぶつかり、火花が咲き散る。その様子を放水しながら見守る杉村たちだが、実際のところ何がどう動いているかは目で追えていない。
「ちぃっ、かてえな! 尋常じゃねえぞその硬さ」
文句を言いながらミローディアを地面に擦りながら、ハルバード形態に変えつつ音符の泡を周囲に浮かべる。
高い『ド・レ・ミ』を響かせながら、先ほどとはくらべものにならない鋭い一撃が真っすぐ一直線に走る。
両腕でガードした赤毛の猿が大きくよろけるが、踏ん張り血が流れる右腕を引き拳を放つポーズをとる。だが、弾かれたハルバードの槍は地面で、斧の部分を上に向け上空に振られる。
それを肘で防ぐが、その衝撃で弾かれたミローディアは地面にぶつかると大鎌へと形を変え、足を切り落とす一撃を放つ。
円を描くはずの閃光は赤毛の猿の足の
ミローディアの柄を握り、強引に引っ張りエーヴァを宙に放る。ミローディアを手放し投げ出されたエーヴァが空中で回転しながら、鉄板を投げるが甲高い音と共に全て弾かれる。
華麗に着地した、エーヴァがスカートのスリットから、キャンプなどで使う小さな鉈を取り出す。
「おまえ、体に何か仕込んでるな。皮膚も硬いが、それ以上に骨まで到達できない何かがある」
ミニ鉈を構えるエーヴァと赤毛の猿は睨み合う。赤毛の猿は先ほどまで流れていた血が止まった腕を上げ、ファイティングポーズを取る。足でリズミカルステップを踏み、体もそれに合わせリズムを刻み揺れる。
「はん、隙のない構えだな。格闘技か何かやってるってとこか」
答え合わせと言わんばかりに赤毛の猿が、大きく一歩踏み込むと腰の入った、鋭い一撃を放つ。その拳は空気を切り裂く音を鳴らしエーヴァを襲うが、鉈に反らされ火花を散らしながら空を切る。
だが、更に一歩踏み込み、エーヴァの腹を狙うが、それを足で蹴り受けたエーヴァだが、威力に負けて吹き飛ばされる。
空中で回転し壁に着地したエーヴァを、走ってきた勢いを乗せ放つ一撃が壁を破壊する。脇腹を狙う鉈を赤毛の猿が拳で受け止めると、そのまま拳の乱打が始まる。
鉈で必死に反らすエーヴァが、一瞬拳が止まったタイミングで、鉈を投げるとホイッスルを鋭く吹く。
鋭い音に共鳴した鉈が空中で不規則に震えると、赤毛の猿が僅かに怯む。
その隙に大きく後ろに下がり、地面に落ちていたミローディアを拾い上げると、地面を擦りながら音符の泡を生み出していく。
泡を切り裂き、音が響く頃には既に間合いに踏み込んだ赤毛の猿の拳が襲い掛かる。音符によってブーストされたミローディアの一撃を拳で受け止める。
その瞬間、泡がミローディアから放出され、宙に漂うとそれを切り裂きながらミローディアを振り回して更にブーストを掛けていく。
拳と大鎌の乱打戦は、大量の火花と泡を散らしながら激しさを増していく。
宙に漂う大量の泡は飛び散る火花を映し、火花を屈折させ拡散した光は、何重にも重なって周囲に花咲かせるその様は、美しさすら感じさせる。
互いの意地をぶつけ合うその乱打戦だが、意外な形で終わりを迎えてしまう。
オフィスビルのガラス扉がけたたましい音と共に破られ、ガラス片が撒き散らされる。
そして……
「ぬおおおっつ! 足がっ! 足がシビレるッッ! くそおおおっ!! 男に食われるなんて絶対にさせてなるものかぁぁぁ!!」
緊張感の欠片もない声が響く。
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