第208話:お届けものです(蛇印の宅配便)あら?お断りしますわ。

 けたたましい音に、派手にガラスをまき散らし現れたのは大きな蛇、そしてその口の中で叫ぶシュナイダー。


「なにやってんだ、あのワンコロ」


 エーヴァの呆れた問いに答えることなくシュナイダーを咥えたまま、エーヴァと赤毛の猿の間に突っ込んでくる蛇。


「ちっ、ジラントヘビか。面倒なもの連れてきやがって。こっちは赤毛で手一杯だってのに、赤毛を増やしやがって」


 どっちの赤毛にも文句を言いながら、地面に火花を散らしつつ低い音の音符を生成すると、泡に突っ込み弾かせそのままエーヴァに向かってくるジラントの口にミローディアを振り上げる。


 重い一撃はジラントの牙に当たり僅かに口が緩む。

 それと同時に中で風を巻き、空中を蹴りシュナイダーが飛び出てくる。


 それを空中でエーヴァがキャッチし脇で抱えるわけだが、シュナイダーは胴を伸ばし、体を目一杯長くすると、エーヴァの頬を舐める。


「きゃうんっ! 助かったわんっ! エーヴァになら食べられてもいいわん」


 ピキッとエーヴァの血管が切れた音なのか、脇で絞められたシュナイダーの骨が折れた音なのか定かではないが、そのままエーヴァがシュナイダーを地面へ投げる。


 シュッタっと地面に下り立つシュナイダーの横に、ふわっと着地するエーヴァ。


「助かったエーヴァ。この礼はオレの可愛さを持って返すぞ!」


「てめえ、恩を仇で返すとは覚悟はできてんだろうなあ」


 勇ましい着地と、可憐な着地をした二人の会話は驚くほど噛み合っていない。だが、同時に左右に分かれ踏み出し放つ一撃は、ミローディアがジラントを、風の盾が槍へと変化し赤毛の猿を大きく後退せる。


 ジラントは這いずり更に後退するが、赤毛の猿はエーヴァ目掛け勢いをつけ跳躍してくる。

 ミローディアと拳が火花を散らす、それをシュナイダーが踏み込み進み始めるより先にジラントが、地面を滑り顎を外し大きく口を開け、エーヴァと赤毛の猿もろとも飲み込もうと突っ込んでくる。


 一度は攻撃するために踏み込んだ足を僅かに、反らしエーヴァの背中スレスレを駆ける。そのすれ違う瞬間に、エーヴァがシュナイダーの首を掴み駆け抜けていく。


 エーヴァ掴んだ手で体を引き寄せシュナイダーの背中に乗ると、フルートを取り出す。


「一気に叩く! フルート吹けるように風を制御してくれ」


「おう」


 シュナイダーが風の膜を前方に張り、エーヴァの演奏をアシストする。膜を張る故に動きは遅くなるが、代わりに風で赤毛の猿とジラントの攻撃を防いでいく。


 突如現れた大猿と大蛇に対し、大鎌を咥える犬に乗りフルートを演奏し始める光景を前に、杉村を始めとした消防隊及び自衛隊の人たちは面食らう。

 だが目には見えないが風の盾が二匹の攻撃を防ぎ、周囲に広がる大量の泡を見てよく分からないが、幻想的で力強い感じを胸に抱いてしまう。


 フルートが奏でる曲は軽快ながらも品のある優雅なリズムを奏でていく。フルートを口からそっと離すと、走るシュナイダーの背を蹴りシュナイダーが投げたミローディアをキャッチしてふんわりと着地する。


「わたくしの演奏する『葦笛あしぶえの舞』があなた方の安らぎになることを願ってますわ」


 くるりと回転いながらト音記号を切り裂くと、二度目の演奏が始まる。軽快なリズムは初速からエーヴァにスピードと鋭さをもたらし、大きな弧が山なりに走るとジラントの下顎が地面に転がる。

 そのまま更に回転すれば、ジラントの首が飛び、胴が輪切りになる。演奏が進めば進むほど、鋭さは増していくエーヴァの一撃だが、赤毛猿の腕が火花を散らしながら止める。


 それでも構わず音の衝撃を重ね、強引に振り抜いた斬撃は演奏のブーストを受け更なる鋭さを持って、赤毛の猿に襲い掛かる。対し拳で対抗する赤毛の猿とエーヴァによる演奏会は、演奏終盤の最大にブーストが掛かった一撃が赤毛の猿の腕をねて終焉となる。


 それと同時に駆けてきた、シュナイダーにエーヴァが乗るとから大きく離れ、消防隊を背にしてと向き合う。


「ちっ、これでもダメか。本体に一撃喰らわせる必要があるな」


 エーヴァが睨む先で、赤毛の猿が切られた腕を手に取り傷口に近付けると、本体と腕から伸びた無数の触手が絡み引き寄せると元に戻ってしまう。


 その近くでも輪切りになったジラントの体が、互いに絡み合い頭が二つになった蛇が出来上がる。


「ジラントは頭が二つになった分サイズダウンしたか。それに赤毛の猿の野郎が皮膚と体の間に金属っぽいのがあるのが分かっただけでも良しとするか」


「なあエーヴァよ」


「あぁ?」


 次の行動を思案するエーヴァに、シュナイダーがキリっとした顔で話し掛ける。考えの邪魔されたことに対し、エーヴァが眉間にしわを寄せながらも意見を聴こうと返事をする。


「エーヴァはスカートで跨ってくれるので俺は幸せだ。……ただそれを伝えておこうと思ってな。できることならもっと足で挟んでいいんだぞ。ギューってぇわふん!?」


 反射的に頭を叩くのは、エーヴァがシュナイダーの対応に慣れた証と言えるかもしれない。


「こっちの赤毛よりあっちの赤毛の方がましなんじゃねえか? あっちが仲間になってくれた方が良い気がしてきた」


「なぬっ!」


 エーヴァの呟きに驚くシュナイダーがショックを受けた表情を見せる。そしてこの会話が聞こえていた杉村たちは、軽い内容に気持ちが楽になったのも確かだが一抹の不安も感じてしまう。


 主に犬に対して。






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