第204話:お手紙を出しに来て、気が付けば戦ってるぴょん!

「スーは手紙を出しに来ただけなのに、なんで戦っているのです」


【そういう運命なのよ……ぴょん】


 愚痴を言いながら、目の前にいるビッグ猿の太い腕から繰り出される拳を避ける。

 詩がビッグの名を付けただけあり、他の猿たちより二回り以上大きい。


 自らの拳を力任せに振るい、周囲の車や壁を破壊する。その代償として拳が砕けるがそれも一時。

 拳は修復、そして強化を行いながら、より硬度を増していく。


 豪快な暴れっぷりにスーたちも、隙を伺い踏み込めないが、その暴れっぷりのお陰で周囲にいた猿も蹴散らしてくれたのは、幸いなことなのかもしれない。


 スーはビッグ猿の後ろで燃え盛る炎と煙を上げる建物を見る。


「火を消すためにもあまり時間を掛けてられないのです」


【そうね、いくぴょんよ】


 構える二人。お互い目の前にいるビッグ猿から視線は逸らさずにスーが、やや白けた眼差しで口を開く。


「さっきから気になるのですが、ぴょんってなんなのです?」


【テレビデビューするし、可愛くキャラ変しようかと思ってるぴょん】


 白雪の発言の後に訪れる微妙な沈黙。


 スーが何かを言おうとしたとき、ビッグ猿は巨体に似合わぬスピードと、似合った迫力を持って襲いかかってくる。


 左右に別れ寸前で避けビッグ猿の頭に手を掛け、くるりと宙返りをすると同時にビッグ猿の頭を蹴り飛ばす。

 大きく体をよろめかせ、数歩前に出て体勢を整えようとするが、ビッグ猿の足をスーと白雪がお互い反対の向きへ外側へ蹴る。

 股を大きく開かれ、足を開脚したまま倒れる様は少し滑稽でもある。


 うつ伏せになるビッグ猿の、頭を砕こうと落下してくる二人の蹴りを、背中から生えてきた新たな腕が受け止める。


「なっ!?」

【まずいぴょん】


 足を握られ空中で互いにぶつけられた勢いでスーと白雪は、そのまま反対方向へ飛ばされる。


 小さく上がる土埃だったが、同時に大きく爆発する。


 白い線はビッグ猿の足元に走り、長い耳を揺らし足払いをする。視線が下にいき垂れたビッグ猿の頭を青白い線が真下へ向かって走る。

 スーの掌底にグラつく顔面に向かって、下で背をつけ回転した白雪が地面に手を付き蹴りを入れる。

 鼻先に当たる蹴りに気を取られる暇も与えず、空中で回転したスーがそのまま顔面を蹴り上げる。


 スー足がヒットするのは、先に蹴った白雪の足の僅か数ミリ隣。

 ビッグ猿の頭が動く前に白雪が、足を僅かにずらして触れたなら魔力は瞬間的に跳ね上がり青白い閃光を放つ。


 頭が大きく跳ね、体をのけ反らせた状態で、左右の足を同時に蹴られ、後頭部を激しくぶつけ倒れる。

 隙だらけの腹に、左右同時に踵を落とそうと足を上げた二人だが大きく後ろに跳びはねる。


 と同時に腹から生えた二本の腕が空を切り、掴み損ねた手が悔しそうに拳を握る。背中の腕で体を起こし、勢いよく立ち上がる。素早く踏み込む白雪の蹴りを、スーの突きを六本の手で受け止める。


 そこから始まるのは乱打戦、スーと白雪の攻撃を六本の腕が受け止め、反撃を繰り出してくる。


「こいつ、段々動きがよくなってきてるのです」


【戦いの中で成長するなんてカッコいいのよん! あっ、ぴょん!】


 最初は受けとめることで精一杯だったビッグ猿だったが、腕の扱いに慣れてきたのか反撃の回数が増えてくる。


 一旦大きく間合いを取るスーと白雪が背をつけ、視線はビッグ猿に向けたまま構える。


【あいつタフなのよ。ああいう相手には遠距離からチクチク攻めたいのよ。スーは飛び道具とかないの? こうボーンってぴょん】


「前世ならいざ知らず、今のスーには出来ないのです」


【エーヴァちゃんみたいに何か投げたらどうかしらん? ぴょん】


「……」


【今、私を投げようとか考えなかったかしら? ぴょん】


「……」


 そんな二人目掛け、軽自動車が地面を勢いよく転がって向かってくる。車体と地面の間に火花が散らせ他の車へルーフから突っ込み、派手にガラス片をまき散らす。


「なんなのです!」

【うひゃー)】


 避けた二人だが、更にマンホールの蓋や、ベンチ、よく分からないオブジェなど、ビッグ猿が、大きさな足音を立てながら走り、六本の腕で周囲の物を手当たり次第に投げてくる。


「白雪がアイツにアドバイスしたから、こんなことになったのです」


【盗み聞きしてたなんて最低ねっ】


 飛来物を避けながら文句を言う二人が、近くの塀に飛び込み身を隠して、ビッグ猿を影から覗き見る。


【どうしましょん。あ、ぴょん】


「投げる物が無くなるのを待つの……ん?」


 スーと白雪が顔を見合せる。


「詩が呼んでるのです」


【しかもスー、ご指名ね。私たちが戦闘中なのは把握しているはずだから】


 二人で塀の上から顔を、ちょこっと出してビッグ猿の様子を窺う。

 目立たないように白雪は長い耳を垂らすので、右隣にいるスーの頭に耳が乗る。

 若干鬱陶しいのか首を横に振って払おうとするがすぐに諦めてしまう。


「アイツを連れてこいってことです?」


【分かんないけど、うたっちに任せましょうぴょんよ】


 詳細は分からないが、未だ戦闘中の詩の魔力を頼りに、スーたちのデリバリーが今始まるのだ。


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【ちょっぴり補足っす】


 魔力の強弱による伝達方法も進歩することで、ジェスチャーで表現するほどの意志疎通が可能となってるっす。


 戦闘中に解読している暇はないので、単純な信号のみっす。モールス信号のような複雑さは持っていなので、ことの詳細は伝えれないっす


 ここのシーンでは『スー 来て』くらいの信号っす。誰が魔力を出しているかは波長、詩たちは色が違うと表現するようにそれぞれ違うので分かるみたいっす。


 以上補足っす。


            シルマ

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