第203話:大体、宮西くんから聞いている

 更に狭い路地裏から、雑居ビルの一階へと誘われる。


 二階まで吹き抜けとなっている雑居ビルの中には至るところに蜘蛛の糸が張り巡らされている。


 私が踏み込むと、待ち構えていた猿が上から降りてきて出口に糸を張る。


 よく見るとここにいる猿たちは、足だったり腕だったり、どこかしら蜘蛛のパーツが生えているのが確認できる。蜘蛛猿の精鋭部隊と言ったところだろうか。


 縦横無尽に張り巡らされて蜘蛛の糸。これだけあると、私の朧を振ろうとしても糸に当たり思うように攻撃が繰り出せない。

 だがそれは相手も同じはず……そもそもどうやって蜘蛛猿は糸の向こうに立っているのか。私が入ったときには既に糸の向こうにいた。そこにへ至るまでの道、糸が切れた形跡はない。


 その答え合わせをしてくれるかのように、蜘蛛猿たちが一斉に動き始める。


 張り巡らされた糸の中を難なく動く猿たち、糸に阻まれ踏み込めない私は二本の刀で攻撃を受け流していく。

 蜘蛛猿が腰を屈め放つ拳が、蜘蛛の糸に触れると糸は溶けるように消えていき拳は私のもとへやってくるのが見える。


 刀の峰で受け流し、もう一本の刀を振り上げカウンターを入れるが、振り切れない刀では傷は浅くしか入らない。


 蜘蛛猿が手を引くそのときに体の体毛の隙間から糸を吐き、空間を再び糸で満たしていく。


 追い打ちついでに刀を振ってみると糸には粘着性はないが弾力性が強く、刀の刃をはじき返す。そのスキを狙って猿たちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 宙に描いた『火』を叩き、火の粉を散らし攻撃の出鼻を挫き、最低限の攻撃を捌いていく。


 散る火の粉が糸に当たると打ち消されるか、軌道を逸らされ意図する方向とは別へと飛んでいく。その間もしつこく攻撃を繰り返す猿の攻撃を捌いて行くが、私の攻撃は糸に邪魔され捌くので手一杯になる。


「ふむぅ、あっちの攻撃は通って、私の攻撃は通らない。ズルいけど面白いじゃん」


 私の飛び道具を警戒してか、やや距離を置く蜘蛛猿たち。あっちも飛び道具が粘液だけだから直接……ん? そう言えばなんで粘液を吐いてこないんだろ?


 私なら相手を閉じ込めたら辺りを火とかで囲んで燃やすか、飛び道具でチクチク攻撃を仕掛けるけど。


 宙に描く『雷』『弾』の漢字を刀の先端で突き刺すと、一発発射する。


 糸にぶつかり身を削りながら飛んでいく雷弾を避ける一匹の猿。その猿が動く先の糸は引っ掛かることなく移動していく。


「なるほど、毛先に触れたら糸が溶けるってことか。確か糸の成分はタンパク質が主で、古い蜘蛛の巣は蜘蛛自身が消化して処分するって習ったからその応用ってとこかな」


 毛先から何らかの消化液を出して糸を溶かし移動。その後、体毛の下に隠れている糸を出す器官、糸疣いといぼから糸を吐き張り直すを繰り返していると判断。

 溶解液を吐かないのは、糸を溶かし私に攻撃するスキを与えるからってとこだろう。


「優秀なブレーン宮西がいると助かっちゃうね。そしてこの場所を決戦に選んだのは失敗!」


 左右の袖から数本の直尺を滑り出すと、放射状に投げる。


 放射状に投げた複数の直尺は、猿たちと糸の間を抜け天井へと突き刺さる。すべてにワイヤーが付いていて私を中心に放射状に広がり蜘蛛の糸の間に新たな糸を張る。


 広げた両手の指に滴る血を使いそのまま宙に描くは『振』の漢字。


「エーヴァより振動少な目だけど破壊するには十分!」


 手首を返して張っているワイヤーを引き上げ魔法陣に触れ『振』の漢字を光らせる。微細な振動はワイヤーを伝い天井へ刺さっている長尺へと伝わる。

 軽い爆発音と共に埃が舞い、天井を通っていた水道管及びスプリンクラーの配管を破壊する。


 突入する前の確認で、町に水道を生かしているのは把握済み。穴の開いた水道管から噴き出した水が蜘蛛猿たちに降り注ぐ。


 毛先から出ていると思われる溶解液は降り注ぐ水によって薄まり、その効果を発揮できなくなるはず。


 その考えは正しかったらしく、猿たちは自ら張った糸に阻まれ動きを制限される。


 朧を接続し『弓』に変形させると、『矢』を描いた直尺をつがえ放つ。


 近くにいた猿の胸元に刺さると『雷』を描きワイヤーを通して電気を流す。ワイヤーを引っ張り体内に駆け巡る電気で硬直する猿を引き寄せ、糸に絡む猿の首を絞め口に直尺を突き立て地面に倒す。

 左の袖から筆を取り出すと、倒れた猿の真上に上から順に『雷』『撃』を描き弓先で魔法陣を切りながら後ろへ下がる。


 直尺が刺さって開いた口に飛び込む雷撃は猿を焼き絶命させる。


 そこまでやって蜘蛛猿たちが体から糸を吐きだし、周囲を糸で埋め始めていることに気が付く。

 そして隠していたのか、いつのまにか手に持っていたポリタンクから液体をまき始める。


「あれ、意外と賢かった。火攻めは有効手段だけど、これだけ水浸しだし効果薄いかもね。それに……ちょっと遅かったね」


 私が言い終わるや否や、雑居ビルの壁が豪快に破壊される。そして飛び込んでくる白い物体が爽やかに告げる。


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