第201話:猫巫女は映えを気にする

 装備をした消防隊員を乗せ、サイレンを鳴らさず静かに進む消防車の列。多少違和感があるが、それなら日常でも見れるかもしれない。

 何よりの違和感は先頭を走る赤いバンのルーフの上に、黒のワンピースドレスを着た少女が立っていることだろう。


 その姿を上空のカメラが一瞬撮すが、テレビやネットの画面にエーヴァは映らない。


 ライブ中継と銘打っているが、実際は現場とお茶の間にはラグがあり編集された映像が流される。基本戦闘シーンは別のカメラで撮しはするが流さない。


 撮って流していい人物は猫巫女とウサギだけ。


 故にカメラはエーヴァから離れ、猫巫女を探し始める。


 各テレビ局が順番に放映する中、尚美の所属するZビジョンの番であった為、尚美はヘリから送られてる画像を目で追いながら、いつでも中継できるよう身構える。


 そして、見慣れた少女の姿を見てホッとした表情を一瞬だけして、すぐ真剣な顔になるとマイクのスイッチをオンにする。


〈先日、政府から突然発表された宇宙獣の存在に、驚かれた方々も多いと思います。私も初めてその存在を知ったとき驚き、恐怖しました。

 ですが、宇宙獣に対抗する存在がいることを知り、そしてその姿を見て希望を持ちました。

 今この中継を見て、不安を抱いている方々もいるでしょう。ですが、政府が猫巫女と呼ぶ存在を見て僅かでも希望をお届ければと思っています〉


 画面から流れる尚美の声に耳を傾け、見つめる人々。


 その向こうで繰り広げられる光景は四匹の猿を追う猫巫女の姿。映画やアニメのような光景が画面の向こうで起きていることに驚きつつ、その光景を息を吞んで注視する。



 * * *



 追うは、四匹。一匹は頭が蜘蛛顔になっていて、目が八つもある気持ち悪いヤツだ。


 さっきから、攻撃してきては逃げていく四匹の猿たち。


「ふむぅ、間違いなく誘われてるなぁ」


 リーダーっぽいヤツは蜘蛛の頭してるし、蜘蛛みたいな罠でも仕掛けてるんだろうと推測。


「まっ、自ら罠にはまりにいく趣味はないんでねっと」


 朧を弓の形に変え、風の矢をつがえ放つ。放った矢が一番後ろにいた猿の背中にプスリと刺さる。


 瞬時に振り向き私を睨んでくる猿は列を抜け、私の方へ向かって飛び掛かってくる。

 弓の先端で拳を受け流し、地面に転がすと目に怒りの色を灯し地面に爪を突き立て向かってくる。


「いいね、いいね。きみが一番気が短そうだから選んで正解!」


 私猿から逃げるように道路に無造作に停めてあったトラックの下を滑り込む。

 私を捕まえようと伸ばされる腕は、私を掴む変わりに水溜まりへ突っ込んでしまう。


 滑り込んだ瞬間に私が手の甲に描いた『水』から発生した水溜まりが普通なわけもなく、弓先に描いた『鎖』を滑りながら水溜まりに付けると、伸びる鎖を猿の腕に巻き付ける。


 そのまま滑りトラックの下を抜けると、鎖を伸ばしながら外灯を駆け上がり天辺の支柱で、前回りの要領で鎖を巻き付け、下へ降りながら更に伸ばす。


 腕を引っ張られトラックの下でもがく猿のもとへ、素早く降りると中腰気味の猿の頭を蹴ってトラックへ叩きつけながら鎖を首に巻き付ける。


 顔面をトラックの車体に擦りながらもがく猿。腕を引っ張れば首が締まり、自由になるためには首が絞まるのを覚悟して腕を引っ張るしかない。

 自由な左手で首の鎖を取ろうと必死になるが、食い込んだ鎖の前ではうまくいかず、焦った表情を浮かべる。


 首を絞められ苦しくなった為に息をするためだろうか、猿の背中が割れ口を作りだすと大きく開き、空気を吸い込む。


 その開いた口に、刀の形に変えた朧を宙に描いた『雷』の漢字と共に突き刺す。


艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱんらい


 猿の背中にできた口から雷が激しい光を放ちほとばしる。


 静かに崩れ落ちる猿を背に次なる攻撃を刀で受け止める。そして、さらに向かって来る猿と蜘蛛猿の二匹。


 刀を反らし猿の腕に這わせながら体を回転させ、もう一本の鉄刀をあばらに打ち込む。そのまま回転し刀に鉄刀を接続し薙刀とすると、次の猿の拳を叩き更に回転し膝裏を叩き切る。

 膝を付き崩れる猿の頭を踏み、横に回転しながら蜘蛛猿の攻撃を避けつつ背を切り裂く。


 着地と同時に地面スレスレを通り振り上げる矛先は、一匹の猿の顎を捉え割る。寸前で顔を反らし直撃を避けるが僅かでもできた傷口を逃すわけもなく、袖から滑り出した直尺ちょくしゃくを投げ突き立てる。


 エーヴァの鉄板とは違って、であることを強調しておく。更に違う点はワイヤーが付いていること。


 ワイヤーを右手で握り、その甲に描いてある『雷』に触れればワイヤーを伝い電流が走り猿の体を焼く。


 口から煙を吐く猿だが本体までは電流が届いていないのかまだ息がある。とどめをさせまいと同時に向かってくる蜘蛛猿たち。

 自分の前に『巻』を描くと、薙刀に描いてある『風』を発動させつつ魔法陣を切り裂く。


『巻』を中心に起きる荒れ狂う風は『風巻しまき』。その暴力的に吹く風に攻撃を遮られる蜘蛛猿を余所に、同じく暴力的な風を纏う薙刀を猿の口へ突き刺す。


 宙に描く『炎』の漢字を掴めば風はたちまち火を取り込み、猿の体内を焼き尽くす。


艶麗繊巧えんれいせんこう血判けっぱんえん


 口から吹き上げる炎に体内を焼かれ、今度こそ猿は絶命する。


 この技、シュナイダーと被るからあまり使いたくない。まあ派手だから今は使うけど。


 遥か上空を飛ぶヘリコプターをチラッと見る。


「さてさて、注目されてるんでね。もうちょっと付き合ってもらえるかな?」


 薙刀の穂先を向けると、蜘蛛猿たちは背を向け逃げて行く。


「ちょっと、言ってる傍から逃げないでよ!」


 あくまでも罠があると思われる場所へ誘うつもりらしく、逃げていく蜘蛛猿を追いかけて行くのだった。

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