第200話:いかなる時もやることは変わらないぜ!
エーヴァの振るうミローディアが空を切る、その隙に間合いに踏み込む猿だが、宙で止まったミローディアが軌跡をなぞり、返ってくる。
避け切れないと腕を上げガードの体勢を取り、受け止めるはミローディアの柄の部分。
ぶつかった瞬間、ミローディアは低い『ド』を奏で泡を生み出す。そして大鎌は畳まれ、穂先が飛び出しハルバードに姿を変えると、体を回転させながら斧の部分で泡を切り裂き『ド』の音共に突き出される穂先。
それを猿は腕で受け止める。
だが真正面から受け止めた猿は穂先に押され、後ろに大きくよろめいてしまう。
その隙を逃さず突きから連続で、斜め下に振り下ろされる斧は猿の肩へ。
硬い体に弾かれ、それと同時に生み出される泡を、ハルバートごと回転し真横に振られる攻撃は高い『レ』の音と共に猿の腕を切り飛ばす。
回転の勢いそのまま、地面を擦る穂先から火花を散らし、更に小さな泡を連続で生み出していく。
踊っているかのように華麗に一回転し、高い『ド』『レ』『ミ』の音を連続で響かせつつ、回転した勢いを乗せたミローディアは、空中でハルバートから大鎌へと姿を変え、猿の首をはねる。
先ほどは切れなかった首が切られ、驚愕の表情を浮かべながら飛んでいく首に、追撃の鉄板が突き刺さる。
苦悶の表情を見せながら落ちていく首だけの猿の目に映るのは、口に銀のホイッスルを咥え微笑むエーヴァの姿。
甲高くも品のある笛の音は、猿の頭部を破壊する。それと同時に崩れ落ちた猿の体が地面に横たわる。
「本体を頭に逃がすなんて器用ですわね」
大鎌の姿に変わったミローディアを華麗に振りながら、クスリと可愛らしく笑う姿に杉村をはじめとした皆が釘付けになる。
そして……
体を回転させ振ったミローディアで地面を削り火花を散らすと、低い『ド』『レ』の音を響かせ、先端を上に向け振り上げられる。
回転の勢いと、低い音によって増した攻撃で、飛び降りて襲ってきた猿の首に引っ掛けたミローディアを振り抜き地面に叩きつける。
地面に叩きつけた衝撃によって生み出された高い『ミ』の泡を弾かせつつミローディアはハルバードの形へと姿を変え、穂先を地面につけ棒高跳びのようにして飛び上がったエーヴァが空中で構えたミローディアの穂先を猿の胸元へ叩き込む。
僅かに刺さる穂先、エーヴァは振り下ろし刺さった反動を生かし、空中へ飛び上がると上空で一回転し、石突き目掛け飛び降りる。
「砕けろやぁあ!!」
踏みつけた勢いで突き進んだ穂先に、鋭いホイッスルの音が加わり猿は大きく体を跳ねさせ動かなくなる。
ミローディを引き抜き血を払いながら、ハルバードから大鎌へ姿を変え肩に担いだエーヴァが、杉村たちを見つめる。
そして、ミローディアを担いだまま開いている左手でスカートを摘まみ、華麗に挨拶をする。
「煩わしいお猿さんはわたくしが切り払い先導いたしますから、消防車の戦力を教えてくださるかしら?」
華麗さと凶暴さの混合に困惑、いわゆる脳がバグる。どちらが本当の姿なのかよく分からなくなる。
「最新鋭の消防車が四台、残り一台は旧型で、宇宙獣がいても動かせると聞いているが……その言い方、我々に中へ行けということか」
消防隊の隊長が答えるのを杉村は横目で見ていた。
「無理強いはいたしませんけど、火を消してくださると助かりますわ」
杉村は火の手が上がる町を見る。自分はあの火を消したいと思う。だが隊員の人命を考えれば、行かない判断もこの場合は致し方ないだろう。そう思い隊長の顔を見ると、丁度口を開くところであった。
「我々は火を消すのが仕事だ。だが無暗に隊員たちの命を危機に晒す気はない。きみはあの燃え盛る現場に我々を連れて行ってくれるのか?」
隊長の口から出た言葉に杉村は感動してしまう。口うるさく怒ってばかりの気難しい人だと、そう思ったこともある真面目な男が、自分と同じ気持ちを持っていることに嬉しくなる。
「もちろんですわ。それに中にはわたくし以外にも仲間がいましてよ。お猿さんごときにあなた方の仕事を邪魔させませんわ」
「そうか、きみらが先導してくれるのなら。ならば行こう」
エーヴァの答えに隊長は決断する。
エーヴァは可憐にお辞儀をし、地面を蹴って宙を舞うと、先導車の上にふわりと着地する。その一連の動きが美しく見惚れてしまう隊員たち。
「んじゃあ、あたしは猿どもを殲滅させる! お前らは火を消す! やることはいつもと一緒だ。頼むぜお前ら!!」
先導車の上でミローディアを掲げ発破を掛けるエーヴァの姿に、やっぱり杉村たちの脳は混乱しバグる。
ただ、どっちの姿が彼女なのかなんて関係ない。とりあえず可愛いのはたしかで、そんな子にここまで煽られて応えないわけにはいけない。そう思ったら拳を天に付き吠えるしかないわけだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ちょっぴり補足】
本編で説明すると、流れに水を差すからここでちょっぴり補足っす。エーヴァのミローディアは、詩のおじいちゃんによって幾度かマイナーチェンジが行われてるっす。
今回からミローディアには小さな穴が開き内部を通っているっす。音階に合わせて長さの違う穴は、高い『ド・レ・ミ』低い『ド・レ・ミ』の系六つ。この穴に魔力を流し、ミローディアで振るった振動を音に変え、音符の泡を生み出してるっす。
ミローディアの強度の維持から穴は小さく、六つが限界だった為泡は小さく、戦いの最中振動を利用するので演奏をするのは少し難しいっすが、この改良によりエーヴァの戦闘力は格段に上がってるっす。
以上、シルマさんの補足だったっす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます