第198話:うわばみ

 戦場において数で押し切るのは非常に有効な戦法である。いくら相手が優秀でも一対六で覆すことは不可能に近いはずだ。

 それが人間であれば。


 ミマシラは右腕の蛇の鱗で銃弾を弾くと、弾が飛んできた方向へ向け走る。攻撃してきたであろう建物の影を覗くと、走り去る二人の自衛隊員に向かって、人の子ほどの大きさのコンクリート片を投げつける。


 常識ではありえないスピードで飛んでくるコンクリート片を、二人は左右に飛び逃げギリギリで避ける。

 車の影に隠れた隊員が荒い息で、建物の影に隠れた隊員に話し掛ける。


「高橋さん、銃弾効いてないですよ。この弾、対宇宙生物用に貫通性向上したって嘘ですか」


「ぼやくな、俺らだけで倒せってなら絶望的だが彼がいるだろ。俺らで倒そうなんて思うなよ、サポートに徹するぞ!」


 高橋は荒い息を、大きく吸った息で強引に整え建物の影から銃口を出し、向かってくるミマシラに発砲する。


「ったく、とんでもない任務ですよ」


 もう一人も車の影から発砲する。


 銃弾を蛇の体でで弾きながら、走ってくるミマシラの真上から落下してくる風の刃が後頭部を捉える前に、右腕の蛇が伸び硬い鱗で弾き返す。


「ちいぃ! オレの攻撃を弾きやがって」


 牙を立てるシュナイダーを鞭のようにしならせ、蛇ごと地面に叩きつけるとそのままま地面を引きずり壁に叩きつける。

 シュナイダーを相手したことによって、露わになったミマシラの猿の部分に放たれた弾丸が、皮膚を削り僅かに血を巻き上げる。


 歯茎をむき出しにし鋭い牙を見せ、イラついた表情をするミマシラの後頭部を遠距離から放たれた銃弾がヒットし頭を大きく揺らす。


 風が激しく吹き荒れミマシラの体を切り裂く。切り裂かれながらも蛇をしならせ噛みつくシュナイダーを振りほどく。

 飛ばされるが宙に足を付き、地面を背に尻尾に纏う風の刃が顔面を大きく抉る。


 左手で顔面を押さえよろめくミマシラに、一斉に銃弾が浴びせられるその隙に、上空で真下に向かって屈むシュナイダーが弾けると風の牙を向け突撃する。


 激しく回転する風の牙に対抗する為、ミマシラの皮膚が蛇の鱗で覆われ始める。その鱗を剥ぎ取り舞い上げながら回転する風に蛇が牙をむくが、それすら巻き込み回転は更に激しさを増す。


 大量の鱗の破片に混じって右腕の蛇が、肩からちぎれ飛んでいき壁にぶつかると、赤い線を引きながらズレ落ちていく。

 それでも回転し続ける風の牙はミマシラの体を削り続ける。


 ミマシラの体からカマキリや、蜘蛛の脚が生えシュナイダーを止めようとするが、全て削りちぎられ辺りに散乱する。


 尚も抵抗するミマシラだが、耐えきれなくなったのか片膝を地面に付き、崩れ落ちるのを待つだけ、そう思ったとき。


「うわぁ!?」


 一人の自衛隊員の耳をつんざくような叫びが響く。

 シュナイダーが横目で見た光景は、自衛隊員が足から蛇に丸のみにされそうになる瞬間。


「な、まずい!」


 シュナイダーが攻撃を止め、ミマシラを蹴って蛇のもとへ飛ぶと、蛇の首元を踏みつけ、緩んだ瞬間に両足まで飲み込まれた隊員の襟を噛み引っ張り投げる。


 この瞬間を見逃すわけもなく、ズタズタの体を再生しながらミマシラが立ち上がる。

 蛇もそれを知ってか、あっさり隊員を襲うのを止め、本体であるミマシラへ向かって腹を滑らせる。

 

 ちぎれたままの右腕を突きだし、蛇の帰る場所を示すミマシラに向かって蛇は進む。


 元に戻るのを阻止しようと宙に足をつけ、飛び掛かる姿勢のシュナイダーの目の前で蛇は顎を外し、限界を超え口を大きく開くと、その口がミマシラ本体に覆い被さる。そしてそのまま飲み込み、膨らみが腹の方へと移動していく。


 シュナイダーを始め、皆が何が起きたか分からないが、腹の中でもがいているのか、内側から押され激しく伸びる腹を見るに一番理解できていないのはミマシラ本人かもしれない。


 だが、それはすぐに動かなくなり、チロチロと舌を出し入れする蛇は満足そうに、目を緩め笑う。その顔周辺が茶色く変色するとそれは一瞬で全身を覆い弾ける。

 そして新たに光沢のある鱗を光らせ巨大化した姿を見せる。


「匂いが変わった……コイツ、ミマシラを取り込んだのか。しかも大きくなってないか……」


 蛇はクルクルっと蜷局とぐろをまくと、頭を上げグッと下げ巨体から想像できないスピードで自衛隊員たちを飲み込まんと大きな口を開ける。


 隊員に体当たりして大口から救うシュナイダーだが、結果シュナイダーが口に捕らわれる。


「ぬおぉぉぉ!!」


 二本足で立ち前足で必死に口が閉まらないように支え踏ん張るシュナイダー。

 風の刃を回してみるが口の中にまでびっしり生えた小さな鱗に阻まれてしまう。


 そしてそのまま、踏ん張るシュナイダーを連れたまま蛇は移動を始める。


「おい、待てどこへ行く! ぐぬうううっ!! ちょっと待てぇい、うおおっ!!」


 口の中で二本足で立って必死に踏ん張る犬を連れ、蛇は自衛隊員たちの目の前から去って行く。

 非常事態だが、その姿がちょっと可愛いと思った隊員が数人いたことは秘密である。

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