第196話:犬と猿
子供を抱きかかえる女性を背に乗せ、町の外に走り抜けたシュナイダーは、女性と子供を降ろす。
「美しい奥様、あなたを運べたことを光栄に思います。この出会いに感謝いたします」
渋い声で子供を抱く母親に伝えるとすぐさま、
鼻を付く臭いは、本能に危機を訴えてくる。
道路を駆けるシュナイダーが、路上に停まっている車を蹴り空中へ飛び上がると上から降ってきた猿の喉元に噛みつく。空中で体を捻り、きりもみしながら地面に叩きつける。
一瞬で燃え盛る炎は槍に形を象り、地面に這いつくばる猿の背中を突き破り、内部から燃やしつくす。
「ちっ、狙いはオレか」
焼け焦げた猿から飛びのくが、上から三体の猿が落ちてきてシュナイダーを囲う。
更にもう一体、他の猿より一回り大きい猿が姿を現す。その猿は右手が蛇になっていて自身の体に蛇の体を巻き付けて、肩の上に頭を置いて舌をチロチロと出し入れしてシュナイダーを見ている。
「猿なのか蛇なのかどっちかにしろ。お前らはもう少し、愛らしい姿というものを研究した方がいいと思うぞ」
シュナイダーの言葉を待たずに仕掛けてくる猿たち。
拳を振り下ろす初撃を身を低くし、地面スレスレで避けると、一気に加速し燃える炎の刃となって一直線に線を引く。
一体を斬りつけ吹き飛ばし、二体目の胸元に直撃させたそのとき、深く刺さる炎刃を猿ごと蛇が巻き付いてくる。
炎の刃に身を焼かれて尚、離すまいと抱き着く猿ごと蛇はシュナイダーを握りつぶそうと、巻き付けた体を締めつけてくる。
炎を含んだ風が大きく舞い、炎の風の牙が猿を切り裂き、炎が辺り吹き荒れる。蛇が巻き付く隙間から炎の塊が飛び出すと、燃え盛る毛並みを逆立てシュナイダーは唸る。
「男と心中する趣味はない。まったくお前らときたら節操のないヤツラよ!」
宙を蹴り、駆けるシュナイダーを猿たちは、電信柱を器用に上り
避けられても直ぐに上がってきて再び飛び掛かり、ときには物を投げてくる。
風を吹き上げ攻撃を弾き、宙を蹴り反撃に転じる。
二匹の執拗な攻撃に混ざり腕が蛇の猿が、電線の上を器用に走ってシュナイダーを追いつつ蛇を放つ。蛇は毒々しい色の液体を垂らした牙を突き立てようと、大きな口を開き向かって来る。
避けるシュナイダーに二匹の猿が追撃を加えてくるそれを避け、風の爪を振るうが蛇の頭が爪を受け止める。
僅かに散らばる鱗の破片。
「
硬い鱗に爪を阻まれ、宙で体勢を整えるシュナイダー眼下に新たに二匹の猿の姿が入り込む。
その二匹はポリタンクに入っていた液体を周囲に巻き散らしていく。
「この匂い……ガソリンか」
地上、建物場所など構わず撒き散らした液体の匂いを嗅ぎ、シュナイダーは不快感を露わにする。
ミマシラと四匹の猿に囲まれ、互いに睨み合う。
「俺が炎を使えないと踏んでの策か? だとすれば性格悪いな」
六匹の獣は重心を落とし、いつでも飛び跳ねる準備のできたバネのように時を待つ。
「犬代表として言わせてもらうぞ。俺はお前たち猿が嫌いだ」
六匹同時、全ての爪が地面を捉えアスファルトの破片を舞い上げ、爪と牙が入り乱れる。
猿の腕に噛みつくと回転し、肉を削ぎ回転したそのまま尻尾に纏った風の刃で次の猿の胸元を深く切り裂く。
そいつを蹴って、猿の喉元に噛みつき地面に叩きつけ、顔面を踏みつけバク転し上からくる猿に尻尾の刃で切り払う。
風を上空へ吹き上げ蛇の牙を防ぎ、大きく開いた口に向かって風の槍を突き立てる。
だが、ミマシラは蛇の頭を突き抜けた先端を気にすることもなく、風の槍に牙を削りながらも噛みつき押える。
真横から襲い掛かる猿たちの攻撃を風の槍を解除し、宙に飛び上がるシュナイダーをミマシラが蹴り飛ばす。
地面に転がるシュナイダーを追撃する猿たちを、転がりながら反転し強引に宙を蹴り避ける。そして口を大きく開き地面を這ってくる蛇を停まっていた車の後ろに転がり込んで回避する。
「ちっ、厄介だな。風だけではとどめをさすのが難儀すぎる」
シュナイダーは、魔力で詩たちの居場所を探るがすぐに、爆発音に耳を向けることになる。建物の間から立ち上る黒煙をシュナイダーは見上げる。
「貴様らの仕業か」
モクモクと空に昇る黒煙を見て、歯を見せ笑う猿たちの前に姿を現したシュナイダーの問いに、そうだと言わんばかりに猿たちが大きな指で器用に使い捨てライターに火を灯し。
石に巻き付けた布に炎を移すと、燃え上がるそれを握り四方へ投げると、撒いたガソリンの残液や、建物の燃えやすい素材に火は移り徐々に勢いを増し始める。
火の手はシュナイダーのいる場所だけでなく、数ヶ所から上がり、黒煙を空に舞い上げる。
風に乗って漂う黒い煙を、風を纏うシュナイダーが切り裂き、再び戦いの火蓋が切られる。
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