第195話:蜘蛛頭と大きさと

 上空にヘリが飛んでいる。かなり離れているが、望遠カメラで私と宇宙人の姿を全国に放送する為に撮影しているはずである。


 私、猫巫女の初御披露目ということで、派手目に技を披露する為、雷中心の技構成で挑む。やはり雷は派手で映える。


 二匹の大猿を倒した後、私の様子を伺う蜘蛛頭の猿、蜘蛛猿と睨み合う。

 目が八もあるからどれと目が合ってるか分かんないけど、分かってる風を装って睨む。


「あんた前に薄幸村はっこうそんにいたヤツでしょ」


 取りあえず話し掛けてみるが、蜘蛛の顎を閉じたり開いたりして唸っているだけで応じてはくれない。

 槍の形状をした朧を構え、踏み込む体勢を取るが相手は微動だにせず私を見ているだけだ。


 私は魔力を放出し自分の位置を教えると、返ってきた魔力で三人の位置を把握する。


「シュナイダーが近いのは当たり前として、スーも意外に近いのは幸いだねっと」


 槍を突くため踏み込む私の真横にあったビルの扉が吹き飛んで、体格のいい大猿が飛び出ててくる。

 その勢いのまま私に突っ込んでくる、それを避けると肩から車に突っ込み横転させる。


 と同時に、蜘蛛猿が右腕に生やしたカマキリの鎌で斬りかかってくる。

 槍の柄を外し、左手で持つ穂先側で鎌を受け流すと、右手に持つ石突き側でビッグ猿(今命名)の腕を突き拳を反らす。


 そのままビッグ猿の腕に立ち、穂先を突き立てるが弾かれる。


 虫でも捕まえるかのように私を握り潰そうとするビッグ猿の手のひらを、腕から飛び降り避けると、蜘蛛猿が口から液体を吐いて飛ばしてくる。


 拳の『風』の漢字を光らせ、風を起こし液体を弾く。もう一度『風』を光らせ風の弾を蜘蛛猿の頭にヒットさせる。

 空気の圧に大きく頭をのけ反らせ、倒れそうになるがそこは猿。


 地面に手を突き反動を利用して、バク転で後ろに下がると何事もなかったかのように立って右腕の鎌を構える。


 互いに走り、再び繋ぎ合わせた槍と腕の鎌がぶつかり合い火花を散らした瞬間、ビッグ猿が両手を握り締め、両腕を頭の後ろに振り上げて飛んできて両拳を私に振り下ろしに掛かる。


 槍から手を離すと、蜘蛛猿の鎌に弾かれ槍は上空に飛んでいく。

 私は前方に倒れ、両手で地面を着くと蜘蛛猿の足を蹴って、真横へ避難する。


 ビッグ猿の両拳は空を切る。そして上空に飛んだ槍は白いモフモフの手がキャッチし、その横を青白い光が落ちて行く。


 ビッグ猿の首に天から真っ直ぐに青白い線を引いて落とされるスーの踵。小柄な姿からは想像も出来ない重い一撃により、ビッグ猿を地面に叩きつける。


 追撃を加えようとするスーに、蜘蛛猿が腕の鎌を振るい牽制する。


【うたっち!】


 白雪が投げてくる槍を受け止めそのまま穂先を蜘蛛猿へ突く。上半身を反らし避ける蜘蛛猿が上半身を起こすと同時に口から吐こうとするが、真上に移動したスーが手の平に魔力を込めた掌底を放つ。

 液体に触れることなく放たれた掌底の風圧で、液体は蜘蛛猿の顔面にかかってしまう。


 自分の吐き出した液体を顔面浴びて、顔を押さえもがく蜘蛛猿の足を地面を滑りこんできた白雪が両足で挟んで倒す。

 蜘蛛猿に向かって青白い光を放ち追撃に向かうスーと、真逆に向かう私は立ち上がろうとしているビッグ猿に槍を突く。


 顔面を狙った槍は、ビッグ猿の手の平に突き刺さり止められるが、手の甲の『雷』を光らせ電流を流すと大きくのけ反るビッグ猿。

 それと同時にスーの放った掌底は蜘蛛猿の鎌に受け止められるが、白雪がスーの手に触れ爆発的に膨らんだ魔力の前に左腕が吹き飛ぶ。


「なっ!?」

「最悪なのです!」

【ひゃあ!】


 更なる追撃をしようとする私たちに向かって飛んでくる飛来物。それをそれぞれ避けた私たち三人は、二匹から離れた場所で並んで敵と向かい合う。


 蜘蛛猿とビッグ猿の間に上から豪快に降り立つのは、赤毛の猿。四つの目を私たちに向けながら短く唸る。

 三匹の間に何か会話があったのか分からないが、蜘蛛猿とビッグ猿が立ち上がりながら私たちを睨むその目に憎しみを宿しているのを感じる。


 赤毛の猿が右腕を上げると、数匹の猿たちが湧いてくる。


 猿たちが手に持っているのは松明たいまつ。ご丁寧に布か何かを巻き付け燃焼効率を上げている。そして何匹かは、ポリタンクなどを手に持っている。


「あれは……まさか」


「まさかなのです。あいつら火をつける気なのです」


【コッソリやらずにわざわざ見せ付けに来るなんて、性格悪いわね】


 焦る私たちを見て三匹がケタケタと笑うと、赤毛の猿が私たちに突っ込んくる。それと同時に蜘蛛猿とビッグ猿が別々の方向へ猿たちを連れ走り去る。赤毛の猿も私たちをけん制しただけのようで、そのまま走り去ってしまう。


「最悪! スー、ビッグ猿追って! 私は蜘蛛猿を追う」


「ビッグ? あ、大きいの。任せるのです!」


 赤毛の猿も気になるが、向き的にエーヴァが向かって来る方に行ったので一先ず置いておく。


 こうして私たちはそれぞれ、猿を追いかけることになるのだった。

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